

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 砂糖とエタノールで揺れ動くインドのサトウキビ産業(後編)
最終更新日:2026年8月10日
ア 製糖工場は主産地3州に集中
砂糖生産量世界第2位のインドにおいて、製糖産業は第二次産業就業者の0.7%に当たる約100万人が従事する重要な食品加工業である。
インドには、全国28州と8連邦直轄領のうち16州に製糖工場があり、その66.5%が西部のマハラシュトラ州、北部のウッタル・プラデーシュ州(以下「UP州」という)および南部のカルナータカ州の主産地3州に立地している。経営形態を見ると、全製糖工場の57.5%が民営、37.6%が協同組合営で、民営はUP州、マハラシュトラ州、協同組合営はマハラシュトラ州に多い(表1)。

砂糖生産量を見ると、2024/25年度(砂糖年度:10月〜翌9月。以下特に断りのない限り同じ)は、干ばつや赤腐病(『砂糖類・でん粉情報』2026年7月号本稿前編の1の(2)のウの注1を参照)によりサトウキビが不作傾向であったことから、2813万トン(t)(前年度比18.9%減)と大幅に減少した。25/26年度は、灌漑施設の渇水などにより一部産地の生産者が綿花や豆類に転作する動きがあるものの、適度な雨量によるサトウキビ生産量の増加から、3019万t(同7.3%増)とかなりの程度増加することが見込まれている(表2)。

イ UP州の製糖工場
筆者らは、UP州ラクナウ管区ハルドイ県に所在する民営のDCM Shriram社(以下「DCM社」という)の製糖工場を調査する機会を得たので、同製糖工場の状況を報告する(図1、写真1)。




ウ 砂糖生産量は増加を見込むも、繰越在庫量はごくわずかに
インド消費者問題・食糧・公共配給省(DFPD)は、2025/26年度の砂糖輸出を2回に分けて許可し、輸出量は合計で200万tとした。しかし、業界関係者によると、原料のサトウキビが不作傾向で国内の砂糖生産量が伸びず、実際の輸出量は最大50万t程度と推測している。
各製糖工場は、DFPDに対し、26年2月末時点の総在庫量が1205万tに達する可能性があると報告した。一方、協同組合営製糖工場の団体である全国協同製糖工場連盟(NFCSF)によると、25/26年度の国内砂糖生産量は2463万tに達したとしている。また、民間製糖企業の団体であるインド砂糖・バイオエネルギー製造業者協会(ISMA)によると、同年度の砂糖生産量を2930万tと見積もっているため、エタノール転用分を除く砂糖生産量は、26年9月末までに470万t増加する可能性があるとしている。
この追加生産と現在の在庫により、26年3〜9月にかけて1675万tの供給が可能になるが、前年同時期に割り当てられた供給量1610万tと比較すると、繰越在庫量はごくわずかになるとしている(表3)。

なお、現地関係者によると、26年2月時点で248カ所の製糖工場で圧搾作業を終了しているが、圧搾作業が終了した製糖工場も、一部で同年6〜9月に破砕作業を再開するところがあり、25/26年度末に向けて砂糖生産量は増加傾向で推移する可能性があるとしている。




ア 卸売・小売価格は上昇傾向
インド国内の砂糖卸売価格および小売価格は、国の定めるサトウキビの買い取り価格の下限である公正収益価格(FRP)の引き上げに合わせて上昇している。2024/25年度の卸売価格は、15/16年度比で1キログラム(kg)当たり26%高の42.1ルピー(79円)、小売価格が同26%高の45.4ルピー(85円)となった(図4)。現地報道などは、卸売価格の上昇により生活必需品の砂糖小売価格が上がることはもちろん、砂糖を使用した食品や飲料の製造コスト上昇と製品価格転嫁につながるため、消費者に大きな負担がかかることが危惧されるとしている。

イ 貧困対策のため上がらない最低支持価格
インドでは、多次元貧困(注2)人口比率が17.7%(22年)と高く、政府によるさまざまな貧困対策が行われている。このうち食糧対策としは、公共配給制度(PDS)(注3)が実施されている。砂糖はPDS対象品目であるため、政府が製糖企業などから砂糖を計画的に買い入れてPDS向けに備蓄している。
PDS向けの買い入れ価格は、政府が毎年度設定する最低販売価格(MSP)に基づき設定されるが、図4の通り、2017/18年度に1kg当たり29.0ルピー(55円)だったMSPは、18/19年度に同31.0ルピー(58円)に引き上げられたものの、24/25年度まで改定されていない。こうしたことから、MSPと卸売価格の差は、18/19年度に8.1ルピー(15円)だったものが、24/25年度には11.1ルピー(21円)に拡大している。MSPは、製糖コストや景気動向などを加味して決定されるが、制度の性質上、貧困層の状況を無視してPDSによる販売価格を引き上げることはできない。そのような中、製糖企業が生産者に支払うサトウキビ代金の基準であるFRPは、毎年度引き上げられている。これに加え、人件費、燃料代などの生産コストも上昇しているため、卸売価格が上がる中、PDS向け販売は、安価に設定されているMSPによりコスト割れすることも危惧されるため、製糖企業などからはMSPの引き上げを求める声が高まった。こうした状況を受け、ISMAは25年11月、政府に対しMSPを同40.2ルピー(76円)に、NFCSFも同41.0ルピー(77円)に引き上げるよう要望した。これに加えISMAは、FRPとMSPの引き上げを連動するよう政府に要望した。
製糖業界からの要望を受けて政府は同月、7年ぶりにMSPを同38.0ルピー(71円)に引き上げることを検討すると公表した。
(注2)国連開発計画(UNDP)が導入したより実態に合わせた貧困度を示す指数で、教育・健康・生活水準それぞれのウェイトが3分の1ずつになるように指標を設定したもの。日本は1.24%(20年)。
(注3)Public Distribution System。政府が小麦、コメ、砂糖などの主要農産品や灯油などの燃料を買い入れて備蓄し、備蓄品を各地に設置されている配給店舗(Fair Price Shop)を通じ、配給手帳を持つ貧困層に対して量販店等の半値以下で販売する制度。
ア 国内需給に影響される砂糖輸出
インドで生産される砂糖は国内向けが主体で、生産量が消費量を上回ると見込まれる際には、政府が輸出総量、製糖工場への輸出量割当枠(以下「輸出枠」という)、輸出期間などの方針を定め、この方針に沿って製糖企業などが輸出を行う。輸出期間中も、政府が小売価格などにより国内需要動向を見極め、生産量が消費量を予想以上に上回ると判断した場合には、輸出枠追加などが行われる。砂糖生産量が増加し、消費量を大幅に上回った2021/22年度の輸出量は、1247万t(前年度比46.0%増)と前年度を大幅に増加した。その後は、砂糖生産量と消費量に大きな差がなくなったことから減少に転じ、23/24〜24/25年度の輸出量は400万t台で推移した。消費量が生産量を上回る見込みである25/26年度の輸出量は、371万t(同8.9%減)と前年度をかなりの程度下回る見込みである(表4)。

各製糖工場の輸出枠は、製糖工場間で融通することが可能である。輸出港から遠い内陸の主産州の製糖工場などは、輸出港への輸送コストが高くなるため、DFPDの許可を得ることで同工場より輸出枠の少ない輸出港近くの製糖工場が持つ輸出枠と交換することができる。DFPDによると、輸出枠は、過去3カ年度の平均砂糖生産量に基づき、同期間に少なくとも1カ年度操業した製糖工場に配分されるが、月間在庫保有制限に違反した製糖工場や前年度の輸出枠が未消化の製糖工場については配分対象から除外される。
25/26年度は、サトウキビ増産から砂糖生産量も増加し、国内供給量が同消費量を上回る見込みとなったことを受け、DFPDは2025年11月14日、26年9月30日を期限として、150万tの砂糖輸出を許可した。DFPDは、15州に所在する511カ所の製糖工場で輸出枠を按分し、各工場の過去3カ年度の平均砂糖生産量の5.286%を一律に割り当てた。これにより、主要生産地域各州の輸出割当量は、UP州が最大で50万7090t、マハラシュトラ州が次いで多い48万8467t、カルナータカ州が24万7831tと続き、これら3州で割当量全体の83.0%を占めた。
なお、輸出港に近い製糖工場の中には、海外から粗糖を輸入して砂糖を生産する輸出向け専用の工場もある。
イ 砂糖輸出は再び禁止
インド対外貿易総局(DGFT)は2026年5月13日、米国およびEU向けの関税割当(TRQ)分を除く砂糖輸出を、同年9月30日までを期限として即時禁止した。なお、この発表当日に通関手続きが完了した分については、経過措置として輸出が認められた。この輸出禁止措置の要因について、現地関係者などは、1)マハラシュトラ州などのサトウキビ収穫量が輸出許可当時の予想を下回ってきたこと、2)中東情勢の影響により原油価格が上昇したことでエタノール原料需要が増加したこと、3)国内砂糖価格が上昇していること−などを挙げている。1)については、2025/26年度中に国内需給に影響を与えるものではないが、26年にエルニーニョ現象の発生が見込まれ、26/27年度以降のサトウキビ作況に影響が出る可能性があるため、国内流通やPDS向け在庫積み増しを優先するためとしている。この輸出禁止の発表で、世界の砂糖供給量が引き締まるという懸念が強まったため、ニューヨーク粗糖先物価格は2.0%、ロンドン白糖先物価格は3.0%上昇した。インドの砂糖輸出禁止措置は、アジアやアフリカの食品・飲料製造業者などへの影響が大きいとされている。
インドの砂糖輸出再開は、26/27年度のサトウキビの作況次第となる見込みである。
コラム インドの伝統菓子「ミタイ」辛口の味が好まれるインドだが、世界最大の砂糖消費国でもあるように、地域ごとに砂糖を使用した伝統菓子「ミタイ(Mithai)」がある(コラム−写真1)。ミタイは、正月に当たる「ディワリ(Dewali)」、宗教行事や結婚式など、特別なイベントで食されるほか、手土産、日常のおやつ、特に午後3時のティータイムで多く食される、日本の和菓子のような存在である。そのようなミタイについて、代表的なものを3品紹介する。![]() 1 グラブジャムン(1個当たり200キロカロリー〈kcal〉程度) お祝いの場などで供されることの多い「グラブジャムン(Gulab Jamun)」は、世界一甘い菓子といわれ、ヒンディ語で花のバラを表す「グラブ(Gulab)」と、インドの高級フルーツであるムラサキフトモモを表す「ジャムン(Jamun)」が語源とされている(コラム−写真2)。 ![]() グラブジャムンは、ミルクの濃厚な味わいと柔らかな食感、かむとあふれ出すシロップのジューシーな風味が口の中いっぱいに広がる。 2 ジャレビ(1個当たり150kcal程度) 国民的ミタイで、レストランから町の露店などさまざまなところで調理・販売されている「ジャレビ(Jalebi)」は、中東で「ズルビア」と呼ばれた菓子がインドに伝わり、ジャレビと呼ばれるようになったとされている(コラム−写真3)。 ![]() ジャレビは、口に入れた瞬間はサクッとした食感だが、かむと中心まで染み込んだシロップのジューシーな風味が楽しめる。 3 バルフィ(1個当たり100kcal程度) 家族団らんや特別な祭事まで、あらゆる場面で供されるバルフィは、ヒンディ語で雪を意味する「バルフ(Balfi)」が語源となっている(コラム−写真4)。 ![]() バルフィは、しっとりとした歯触りと濃厚な牛乳の風味、豊かな砂糖の甘さを楽しむことができるが、小麦粉を使用していないため、他のミタイよりカロリーが低い。 |
ア 急速に伸長する生産量
石油輸入国であり、積極的にガソリンへのエタノール混合を進めるインドでは、エタノール生産量が伸長している。2018/19年度(12月〜翌11月)の同生産量は18億8560万Lだったが、25/26年度は18/19年度比で5.6倍の104億8000万Lに達すると見込まれている。ガソリンへのエタノール混合達成率も、18/19年度の5%から25/26年度は20%と急速な上昇が見込まれている(図5)。

イ エタノールは今後も増産の見込み
エタノールの主な原料は、サトウキビのほか、トウモロコシ、コメなどの穀物である。エタノール原料に占める作物の割合は、サトウキビが28.0%程度で、これ以外は穀物由来となり、穀物由来がサトウキビ由来を上回っている。
飲料用アルコールやエタノール事業者の業界団体である全インド蒸留業者協会(AIDA)は2026年3月、「インドは豊富なエタノール原料作物と高い生産能力を有している」と、さらなる増産意欲を示した。これは、ガソリンへのエタノール混合達成率の急速な上昇や中東情勢の影響によるエタノール需要の伸長を受けたものとされる。さらにAIDAは、今後のエタノール増産に向けて、1)高エタノール混合比率ガソリンが利用可能なフレックス燃料車(Flex Fuel Vehicle)の普及、2)持続可能な航空燃料(SAF)の利用、3)LNGの代替えとしてのエタノール利用−などの推進が求められるとした。
現地関係者によると、現在の中東情勢による原油高が落ち着いても、エネルギー自給率向上と温室効果ガス削減のため、サトウキビなどの作物由来エタノール生産は今後も増加することを見込んでいる。
ア エネルギー安全保障強化のためにガソリンのエタノール混合率を増加
今般の中東情勢による原油価格高騰を受け、DFPDは2026年3月11日、砂糖およびバイオエネルギー分野が直面している現在の課題について、ISMAと協議した。この協議の場でISMAは、「インドは化石燃料を輸入に大きく依存しており、地政学的な混乱や価格変動に対して脆弱なことから、国内のバイオ燃料生産、特にサトウキビ由来のエタノール生産は、農業や環境の取り組みだけでなく、国家エネルギー安全保障の戦略的柱として捉えるべき」と提案した。
ISMAは、ガソリンへのエタノールブレンドプログラム(EBP)(注4)について、原油の輸入依存からの脱却とともに、より多くの農家に安定した収入源を提供する可能性があるとした。また、エタノール使用を拡大するための明確なロードマップは、世界的な燃料危機の影響を緩和すると同時に農村経済を強化し、クリーンエネルギーへの移行を加速させるとした。なお、ISMAは以前にも、変化する世界情勢が国際エネルギー市場に与える影響、インドにおけるエタノール混合の加速の重要性、混合インフラの拡大、そして、23年から販売が開始されたエタノール20%混合ガソリン(E20)以降のロードマップについて議論されたと述べている。
業界関係者によると、砂糖業界は、石油販売事業者に対し、2025/26エタノール供給年度(11月〜翌10月)の2月末時点で、供給契約量の41.0%に当たる119億Lのサトウキビ由来のエタノールを供給したとしている。これに対し、穀物業界は、供給契約量の27.0%に当たる209億Lの穀物由来のエタノールを供給したとしている。
ISMAは、EBPが変革的な取り組みとして台頭しつつあり、化石燃料の輸入依存を大幅に減らし、砂糖、バイオエネルギー、農業分野の新たな成長機会を切り開き、農村経済を強化するとしている。
インド政府は、EBPに基づき、30年までに全国のガソリンスタンド(以下「GS」という)に対してE20の販売を義務化する目標を定め、23年2月からその販売を開始した。その後、ガソリンより安価なE20の普及が進んだことから、政府は目標より5年早い25年4月に全国のGSでのE20販売を義務化した(写真6)。これに合わせ政府は、自動車製造業者に対してE20適応認証取得を義務付けた。

国内の全GSのE20販売と後述する自動車登録台数の増加により、エタノール需要は引き続き堅調に推移すると見込まれる。
(注4)エネルギー輸入依存度の低減、温室効果ガス削減および生産者の所得向上を目的に、サトウキビやトウモロコシ由来のバイオエタノールを混合したガソリンを普及させる政策。
イ 自動車販売台数は内燃機関主体で増加
2015/16年度(4月〜翌3月)以降におけるインドの乗用車および商用車(以下「自動車」という)販売台数の推移を見ると、24/25年度は15/16年度比で51.3%増の525万8519台と大幅に増加した(表5)。これを世界の自動車販売台数と比較すると、インドは、中国、米国に次ぐ世界第3位となった。インドでは、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響で自動車販売台数が落ち込んだ19/20年度および20/21年度を除き、各年度で前年度を上回っている。現地関係者などによると、経済成長による所得向上で国民の購買意欲が高まっていることから、引き続き自動車販売台数は増加が見込まれるとしている。

インドでは、国民の自動車保有台数の増加と都市部の慢性的な渋滞などにより、大気汚染が深刻化していることから、政府が電気自動車(BEV)の普及を推進している。これにより、二輪車および三輪車では登録台数が増加したが、二輪車などよりも1回の走行距離が長くなる自動車はガソリン車などの内燃機関が中心で、自動車に占めるBEVの割合は約6.0%と日本の1.6%より高いものの、BEV普及推進の効果が必ずしも出ておらず、現地関係者によると、今後も消費者のBEVシフトはあまり進まないとしている(写真7)。
