健康寿命を延ばすには? 〜適糖生活のすすめ〜
最終更新日:2026年9月10日
健康寿命を延ばすには? 〜適糖生活のすすめ〜
2026年9月
社会福祉法人 緑風荘病院栄養室 運営顧問
公益社団法人 日本栄養士会 常任理事
公益社団法人 東京都栄養士会 会長 西村 一弘
はじめに 痩せ過ぎは寿命を縮める?
日本人の食事摂取基準は、「日本人の栄養所要量」として、戦後に科学技術庁が策定していましたが、1969年から厚生省が策定することになり、最初のものは1970年4月から5年間とされました。
その後、5年ごとに6回の改定を繰り返し、2000年からは「日本人の食事摂取基準」として策定することになり、近年は厚生労働省が5年ごとに改定を繰り返しています。2020年に改定された同基準では、高齢者のBody Mass Index(BMI:ボディ・マス・インデックス=身長と体重から肥満度を示す指数)
(注1)の考え方がこれまでとは大きく変化しました。
2000年ごろのメタボリックシンドローム(以下、メタボ)
(注2)の予防を最前に打ち出していた時期は、成人のBMIは全て18.5〜25.0(kg/u)を基準とし、BMI22を理想として長年取り組まれてきましたが、近年は高齢者のフレイル(frailty:虚弱。体や心のはたらきなどが弱くなった状態で、放置すると要介護状態になる可能性があるといわれている)予防の概念が加わり、50歳以上のBMIの目標値は下限が18.5から20.0へと引き上げられ、65歳以上では下限が21.5にまでさらに引き上げられました(図1)。
(注1)BMI値は、体重(キログラム)÷身長(メートル)2で算出される。
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これは何を意味しているのかというと、高齢者は痩せすぎると寿命を縮めてしまう可能性があるということです。
2025年版の基準においても同様の目標値が示され、それを裏付けるBMIと死亡率のグラフ(図2)において、40歳代を含む場合にはBMIの高値は死亡率を上昇させますが、65歳以上の方だけを対象とした場合には、BMIが上昇しても死亡率は上昇しないことが示されています。
(注2)内臓肥満に高血圧、脂質異常、高血糖などが合わさった状態のこと。糖尿病をはじめとする生活習慣病の前段階の状態を示す。
また、2020年版では、認知症とBMIに関する三つの研究が紹介されており、1)BMIが変化なく維持されていることが、最も認知症リスクが低いこと、2)過体重(BMI25.0〜29.9kg/u)と肥満(同30.0kg/u以上)の人で、BMIが急速に減少することが認知症のリスクになること、3)BMIの10%以上の減少が認知症のリスクになること―が示されています(図3)。
日本人はメタボ予防・メタボ対策を成功させ、先進諸国の中で唯一「糖尿病の可能性が否定できない人」の数を減少させることができましたが、その反面、結果的に高齢者のフレイルのリスクを高めることになってしまいました。これからはメタボとフレイルの両方の予防と対策をしていくことが、実際の生物学的な寿命と健康寿命の差を縮めて、元気で長生きしていくために大切であると考えられています。
1 肥満対策からフレイル対策へギアチェンジ
日本では、2000年から始まった特定検診・特定保健指導により、メタボの予防と対策がブームになり、メタボ=肥満が定着し、肥満=健康に悪いという考え方が国民の中に浸透しました。その影響を受けて、高齢者でも同様の考えを持つ人が増えてしまい、「痩せたい」、「太りたくない」という傾向が強くなりました。
超高齢化社会に突入した現在では、要支援や要介護状態の手前に位置する、高齢者のフレイルに対する予防や対策が極めて重要な課題とされているにもかかわらず、痩せ=健康という間違った認識を持つ高齢者も存在し、標準体重以下にもかかわらず“糖質オフ”、“糖類ゼロ”、“カロリーオフ”などと書かれた食品を選択する傾向が見られ、その結果、フレイルに陥る高齢者も増えています。
従って、成人でBMIが30kg/u以上の肥満者は、後期高齢者となる75歳までは積極的に肥満対策(食事の減量や運動量の増加など)を行い、徐々に体重を減らしてBMI25kg/u未満を目標としますが、75歳以降はギアチェンジをして、食事の減量(特に無理な減量方法)はやめて(ADL〈移動、排せつ、食事、着替え、洗面、入浴などの日常生活動作〉低下や整形外科的な必要性など特別な場合を除き)現状維持にとどめることが望ましいでしょう。
また、若い頃からBMIが20kg/u未満の方も、50歳を超えた場合は、体重をそのままにせずに、ワンランクギアチェンジをして、体重が増えるように食べることが重要になります。少なくとも体重が減少はしないようにできるだけしっかりと食事や間食を摂り、エネルギー不足を予防しましょう。エネルギーが不足することで骨や筋肉が弱くなるため、50歳以上ではエネルギー不足を避けることが大切です。この頃から将来のフレイル予防に目を向け、健康的な体づくりを意識していくことが望まれます。
2 いかにエネルギーとしての糖質を摂るかが重要
日本では、体内でエネルギーとして産生できる栄養素のことを「エネルギー産生栄養素」と定義して、それぞれのエネルギー換算係数は炭水化物(糖質+食物繊維)4kcal/g、たんぱく質4kcal/g、脂質9kcal/g、アルコール7kcal/gとしています。ただし、この中でアルコールは人間にとって必ずしも必要な栄養素ではなく、推奨するものでもない栄養素なので、アルコールを除く炭水化物、たんぱく質、脂質のエネルギーバランスをエネルギー産生栄養素バランスと呼んでいて、1日に必要なエネルギー量に対して、炭水化物60%前後、たんぱく質15%前後、脂質25%前後が、日本人の健康的な食事バランスとして推奨されています。
しかし、近年は糖質オフ、糖類ゼロなど炭水化物を極端に減らすことが美徳とされることが増え、低炭水化物ダイエットが流行になっています。
炭水化物は吸収が良く、最も早くエネルギー源として利用できる栄養素(図4)であり、たんぱく質が筋肉に利用される際にも必要な栄養素なので、炭水化物の割合が50%未満になる恐れがある場合などでは、極端な糖質制限による健康被害をもたらすこともあります。
従って、糖質制限を行う必要がある場合には、医療機関の医師や管理栄養士など専門職の指導の下で、糖質の種類や量の摂り方を学んで、安全に行うことが必要になりますので、低糖質ダイエットを行う際は、自己流ではなく低糖質食指導の経験が豊富な医療機関の受診をお勧めします。
3 糖質の過不足による健康への影響 〜心血管疾患、腎疾患、認知症〜
(1)心血管疾患への影響
糖質の過剰摂取は、血液中の中性脂肪や血糖値の上昇とともに、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が過剰になり、高インスリン血症になります。高インスリン血症は、動脈硬化を引き起こす原因になります。
反対に、糖質が不足し、それを補うために脂質のエネルギー比率が高くなる場合には、血液中のLDL-コレステロール(動脈の壁に入り込む悪玉コレステロール)が増えてしまい、高LDL-コレステロール血症などによる動脈硬化を進行させる危険があります。結果として、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な心血管疾患の原因になってしまいます(図5)。
(2)腎疾患への影響
糖質が不足し、それを補うためにたんぱく質のエネルギー比率が高くなると、腎疾患への影響も懸念されます。
窒素を含む過剰なたんぱく質が分解される過程で生じる余分・不要なアミノ酸は、さらに分解される際に毒性の強いアンモニアを生み出します。このアンモニアは肝臓で尿素へと変換され、最終的に腎臓によって血液中の毒素や老廃物とともに尿として体外へ排せつされます。
そのため、たんぱく質の摂取量が過剰になりエネルギー比率が高くなると、アンモニアの処理や老廃物排せつの負担が増え、腎臓に大きな負担をかけてしまうのです(図5)。
(3)認知症への影響
糖質が不足し、代わりに脂質のエネルギー比率が増えた場合、血管への負担が増し、脳の血管が詰まるリスクが高まることから脳血管性認知症の発症にも影響してしまいます。
さらに、脳は通常、砂糖の主成分でもあるブドウ糖をエネルギー源として動いているので、ブドウ糖が不足すると脳細胞の減少につながり、認知機能の低下に結びつくといわれています。
一方で糖質の過剰な摂取をした場合も、全身での高インスリン血症と脳でのインスリン不足を引き起こすことがあり、アルツハイマー型認知症の原因たんぱくであるアミロイドβたんぱくの蓄積にも影響があるといわれています(図6)。
(1)〜(3)のように、糖質を過剰摂取した場合、逆に糖質が不足した場合のいずれにおいても、健康リスクが高まることが分かっています。
4 「糖尿病が強く疑われる人」は年々増加傾向、エネルギー摂取量中の糖質摂取率は低下傾向である事実
日本では第二次世界大戦終了後、政府が国民の健康増進などにも目を向け、復興するための計画を立てて、さまざまな医療統計をとり始めました。その中で、「糖尿病の可能性が否定できない人」は50年間増え続けましたが、10年前より少しずつ減少し始めました。しかしながら、「糖尿病が強く疑われる人」の数は上昇し続けています(図7)。
一方で、国民栄養調査の結果(図8)では、日本人の炭水化物のエネルギー摂取率(炭水化物は糖質や食物繊維から成るが、食物繊維は非常に低カロリーであるため、エネルギーの太宗を糖質のそれが占める)は1970年代から80年代は60%を超えていましたが、それ以降は減少傾向となり、現在は58%以下になっています。
つまり、「糖尿病が強く疑われる人」の数の増加に対し、日本人のエネルギー摂取量中の糖質の摂取率は比例して上昇しているわけではないことが分かります。
実際には、自家用車の保有台数が増えたことや、生活様式の欧米化による運動量の低下、食物繊維摂取量の低下や脂質摂取量の増加などが、メタボや糖尿病の発症率に影響している可能性があると考えられています。
おわりに スローカロリー実践方法
〜いつまでも元気に“適糖”生活〜
最後に、スローカロリーについてお示しいたします。
私たちは、糖質の吸収をゆっくりとして遅らせ、インスリンを大量に無駄遣いしないための工夫をすることを、スローカロリーと呼んでいます。
血糖値の上昇を緩やかにすることや、高インスリン血症を予防することは、元気で長生きできることにつながります。
スローカロリーにはさまざまな方法があり、一つ目は牛乳を食事時に摂取することによるグリセミックインデックス(GI:食材ごとの血糖値の上昇曲線)の低下、二つ目としては、一汁三菜をそろえてゆっくりと食事を食べる習慣を持つことなどが、スローカロリーの実践方法(図9)になります。
スローカロリーを実践する生活習慣を私たちは“適糖生活”と呼び、皆さまがいつまでも幸せに元気で暮らせるための合言葉にしていますので、是非“適糖生活”を心掛けていただき、元気で長生きしていただきたいと思います。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678