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―沖縄県伊是名島の事例−

中小規模離島のサトウキビ生産担い手の社会経済的背景
―沖縄県伊是名島の事例−

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最終更新日:2026年9月10日

中小規模離島のサトウキビ生産担い手の社会経済的背景
―沖縄県伊是名島の事例−

2026年9月

東京大学 大学院総合文化研究科 教授 永田 淳嗣

【要約】

 沖縄県の離島部では、2000年代以降も長期にわたりサトウキビの生産量を維持している地域が多い。県内の分蜜糖生産地域としては最小規模にある伊是名島(い ぜ な じま)では、サトウキビ作り以外にも生計の基盤を持つ中規模・大規模層の生産者が形成・世代交代しながら維持されサトウキビ生産を支えてきた。これらの担い手が、作業体系や技術に関して現場での模索から得た知見を、生産者が共有していくような仕組みが強化されることも、担い手の育成・確保につながる条件の一つとなるだろう。

はじめに

 沖縄県のサトウキビ生産は、収益性の低さ、単位面積当たり収量(以下「単収」という)の低迷、担い手の高齢化といった問題が指摘されつつも、とりわけ離島部では、2000年代以降も比較的長期にわたり生産量を維持しているケースが多い。離島によっては、農業の多角化がむしろ後退し、島の基幹産業として、サトウキビ生産・製糖業への依存を深めている例も見られる。こうした状況の下では、地域において何らかの形で担い手の交代が進み、サトウキビの生産を支えているはずである。どのような社会経済的背景を持つ者がサトウキビ生産の担い手となり、いかなる経営内容や技術を選択しているのか。沖縄県離島部のサトウキビ生産・製糖業が向かう方向を考えるには、各離島の置かれた条件に十分な注意を払いつつ、こうした実態に対する理解を深めていく必要がある。

 本稿が事例として取り上げるのは、分蜜糖生産地域のうち沖縄県内で最小規模の伊是名島である。現地調査は2025年12月3〜6日に実施した。

1.伊是名島の社会と農業

 伊是名島は、沖縄本島北部・本部(もと ぶ)半島の北、約22キロメートルの海上に位置する。面積は14平方キロメートルで、周辺の無人島と合わせて伊是名村を構成している。本部半島の運天港との間に、通常期1日2便のフェリーが就航し約55分で結ばれている。

 2020年国勢調査によると、島の人口は1322人で、2000年と比較し3割減少したが、この間に高齢化が大幅に進行しているわけではない(表1)。産業別就業者数を見ると、農業が136人と全体の20%を占め、特にサトウキビ生産は島の基幹産業となっている。このほか第3次産業以外の主な産業としては、製糖業をはじめとする製造業、もずく養殖で知られる漁業、公共事業関連を含む建設業がある。なお、国勢調査における農業就業者とは、農業からの所得が最も多い者のことであり、農業従事者の総体ではない。2015年農林業センサスによると(注)、伊是名村の農業従事者は295人で、国勢調査と調査年次がややずれるが、就業者の4割以上が農業に従事しているとみられる。



 

 伊是名島の地形を概観すると、島の中央部、北西〜南東方向に標高80〜120メートル程度の丘陵が連なり、その東西に位置する台地・低地に農地が広がっている。2015年農林業センサスによると、伊是名村の経営耕地総面積は433ヘクタール(ha)、そのうち畑が9割強、田が1割弱を占める(表2)。1972年の本土復帰から間もない1975年と比較すると、経営耕地総面積は16%減少しているが、田の減少が大きく、畑は1.1倍に増加している。この間に経営体の数は3割程度になったが、1経営体当たりの平均耕地面積は0.9haから2.4haに拡大している。伊是名村の経営耕地面積規模別の経営体数分布を表3で示した。1ヘクタール未満を小規模層、1〜5haを中規模層、5ha以上を大規模層とすると、1975年には小規模層が63%を占めたが、2015年には中規模層が66%と厚くなり、大規模層も11%現れている。経営規模の拡大は農地の借り入れが中心とみられ、2015年には、借入経営耕地の割合は58%、借り入れのある経営体の割合は83%に達している(表4)。

 2015年農林業センサスによると、サトウキビ作を行う経営体数は171と、経営体全体の実に96%に及び、サトウキビ作付面積も365ヘクタールと畑全体の92%に達する。一方で、稲作を行う経営体数は14、販売目的の野菜を作付けする経営体数は12、肉用牛を飼養する経営体数は2と、サトウキビ以外の部門は広がりを欠く。伊是名島の農地の大部分は、2000年代までに土地改良事業を完了し、国営かんがい排水事業による地下ダムの建設により、畑のかん水も可能になっている。

 (注)本稿の執筆時点で参照可能な最新の農林業センサスは2020年だが、沖縄県や製糖工場のサトウキビ関係のデータと比較して一部の数値に乖離が大きく、2015年のデータを参照することとした。






 
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2.伊是名島のサトウキビ生産・製糖業

(1)伊是名島のサトウキビ生産の長期動向

 図1〜3は、1960年代から2020年代に至るサトウキビ生産の長期動向を、作付・収穫面積、収量、単収(10アール当たり収量)に関して示したものである。伊是名島の製糖工場は、含蜜糖工場として出発し、本土復帰後の1975/76年期(年をまたぐ表記については10月〜翌年9月、以下同じ)に1日当たり原料処理能力が150トンから230トンに引き上げられた。その後、1980/81年期に分蜜糖工場化され、同処理能力も300トンに引き上げられ、2015/16年期に新工場に移転し、現在は沖縄県農業協同組合が管理する伊是名製糖工場として操業している。

 サトウキビの作付・収穫面積は、復帰後、サトウキビ生産者手取り価格の大幅引き上げ、製糖工場の処理能力拡大などに誘発され、水田や自給的な作物畑からの転換などを通じて拡大し、1990年代後半以降、おおむね400ヘクタールを上回る水準を維持している(図1)。



 

 一方、収量も復帰後増大したが、80年代半ば以降、2万トン前後の水準で頭打ちになっている(図2)。
 


 

 収量が面積に比べいち早く頭打ちとなった理由は、単収の低下にある。作付面積ベースで、本土復帰後、単収は5トン程度から7トン程度に上昇したが、80年代以降、低下傾向が明確になり、2000年代半ばには4トン程度、10年代後半以降はやや持ち直して本土復帰当時と同じ5トン程度になっている。面積がおおむね維持できている現状では、収量の動向は単収いかんということになるだろう(図3)。
 
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(2)収穫体制と農作業受託組織協議会

 生産者が高齢化・減少する中で、島内に耕作放棄地を出さず、サトウキビ作付面積を維持していくには、地域として、経営継続の障害となり得る作業を受託する体制が重要になる。

 伊是名島では、2000年以降小型収穫機の導入が進み、無脱葉手刈り収穫に置き換わっていった。2024/25年期には23台の小型収穫機が稼働し、処理面積330ヘクタール、処理量1万8400トン、収穫全体に占める割合は、それぞれ87%、83%となっている。1経営体が収穫機を複数保有するケースがあるため、2024/25年期の収穫機保有経営体数は19(法人が6、個人が13)となっている。

 伊是名島の特徴的な取り組みに、小型収穫機を保有する経営体の大部分が会員となり、伊是名村農作業受託組織協議会(以下「受託協議会」という)を組織している点がある。2024年度には、株出管理(株揃)、共同防除、採苗圃場(ほ じょう)管理、夏植え共同植え付けの各作業を受託し、法人を中心に会員に作業を割り振った。共同植え付けは、プランターを保有していなかったり、植え付けに手が回らなかったりといった生産者の委託を受けて行うもので、用いる苗は受託協議会が管理委託を受けた原苗圃(げん びょう ほ)の優良種苗に限っている。

3.サトウキビ生産担い手の社会経済的背景と経営内容

(1)調査対象者のサトウキビ作の概要

 今回の調査では、製糖工場より紹介を受けた7人のサトウキビ生産者に聞き取り調査を行った。その主な内容は、サトウキビ作の内容、調査時点に至る就業歴・農業経営歴、農業経営の変化と今後の見通しである(表5)。サトウキビの生産実績は、2024/25年期のものである。サトウキビ作付面積に基づき各経営の規模を見ると、法人経営の2件は500ヘクタール(ha)を超え大規模層に属し、個人経営のうち4件は2ha台で中規模中位層、1件は1ha未満の小規模層に位置付けられる。

 ハーベスターを保有するのは法人経営の2件のみで、各1台保有する。法人の2経営は受託協議会の会員でもあり、受託協議会が受託した作業にも従事する。トラクターは全経営が保有していて、植え付け準備、植え付け、肥培管理などの作業を、可能な範囲でスポット的に請け負ったり応援に出向いたりしている。

(2)調査対象者の就業歴・農業経営歴

 各生産者の調査時点(以下「現在」という)に至る就業歴・農業経営歴を見ると、No.1を除く6人が、村外での就業経験を経て帰村している。就業地は県内・県外、職業も多岐にわたる。No.5のように、本島と島を行き来し、収穫期のサトウキビ運搬などに従事したケースも見られる。最終的に帰村したタイミングとしては20代後半〜30台前半が多いが、帰村後直ちに農業に本格就業したと言えるのはNo.2、3、5のみで、その3人も農業以外に重要な収入源を確保していた。残る4人は帰村後に長期間、安定的な就業先を確保し、親や親族の農業の継承、定年などを機に農業に本格就業した。調査対象者の中に、現在、サトウキビ作・作業受託の専従者はいない。No.1は農外就業はないが、従事する法人は稲作の担い手でもあり、個人で肉用牛繁殖経営にも取り組んでいる。なお、就農後サトウキビ以外の作物に取り組んだのはNo.5だけで、2010年代に多品目の園芸作物に取り組んだが、利益が出ず撤退している。
 
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(3)サトウキビ作の作業体系に見る課題と対応

 各生産者の農業経営内容、農外就業状況を背景として、それぞれのサトウキビ作りの作業体系においてどのような課題が存在し、どのような対応がなされているのか、いくつか主要な点を取り上げる。

ア 作型に関する課題と対応
 
伊是名村全体では、2024/25年期までの過去5年間の平均で、夏植え:10%、春植え:14%、株出:76%(収穫面積ベース)となっている。株出は3回以上、新植の場合は、最近では早熟性の品種が導入され1年でも収量が期待でき、労働負荷の高い夏の作業も回避できる春植えがよいというのが生産者の共通認識になっている。

 しかし、大規模に収穫作業を受託するNo.1とNo.2は、自身の経営地の春植えの時間を捻出することが難しい。さらにNo.1は、収穫期も農外業務が並行するため、受託作業を優先する方針をとっている。No.2も一期目の田植えが収穫期に重なるため、収穫を1週間程度休止して対応している。この2者は、いずれも新植は夏植え中心である。収穫期にサトウキビの運搬やフルタイムの仕事に従事するNo.3、4、5は、運搬のノルマや勤務時間終了後の作業で株出管理や春植えに対応している。春植えの時期の遅れは収量の低下につながるため、No.4は春植えを3月上旬までで止めている。また、No.3は夜間まで作業する、No.5は友人の応援を仰ぐなどして春植えの遅れの回避に努めているが、作業の委託も選択肢としている。高齢でもあるNo.6は、ここ数年は植え付けを全面的に委託するようになった。

イ 肥培管理の諸作業の効率化に関する課題と対応
 
肥培管理の諸作業の効率化に関しては、いずれも関心が高い。

 株出の培土に関しては、1)平均培土と高培土の2回、2)どちらか1回、3)培土は行わない―といったように、各生産者の作業実態は分かれている。No.3は、培土をしなくても十分に根が張ると考え、今年は培土1回の箇所となしの箇所を設け、生育の様子を比較している。No.4は、過去2年、培土なしを試行したが、生育や収量は培土をした場合と差はなく、むしろ培土なしの場合、雑草の繁茂が抑制されているとみている。No.6は、春植えの場合、平均培土1回のみで十分とみるが、2回行ってきた株出に関しても、今年は1回の箇所を設け、生育状況を比較している。

 施肥 せひ に関して、伊是名村では、小型トラクター(通称ブルトラ)を用いた肥培管理の作業体系が普及していないが、No.3は、親から引き継いだブルトラを活用すべく、肥料投入量を減らした新たな施肥方法など肥培管理の作業体系全般の見直し、従来の方法との比較を意識的に試みている。肥培管理の作業体系の見直しは、作業の効率化だけでなく、経費の削減、収量の増大を通じてサトウキビ作りの収益改善につながる可能性がある。加えて、生産者が共通して意識していたのは、収穫後の早い時期の適切な作業による、除草など夏場の作業の軽減である。施肥や除草の方法とタイミング、資財投入量とその成果との関係に注目しつつ、それぞれに試行錯誤が行われていると言えるだろう。

(4)就農後のサトウキビ作経営の変化と今後の見通し

 調査対象者7人は、いずれも帰村後、サトウキビ作以外のさまざまな仕事に従事しつつ、ある段階でサトウキビ作を本格化し、その担い手としての性格を強めている。法人経営の場合は、先代の創業者が集積した農地、個人経営の場合は、親や親族から分与された農地が出発点となっており、さらに農地を拡大している事例では、借り入れが中心となっている。伊是名村における借入経営耕地・経営体の割合の高さは既に述べた通りだが、「農地を預かる」という言葉に象徴されるように、親族間や友人間で、形式にとらわれず柔軟に貸し借りされている場合が主流とみられる。その場合、小作料は設定されず、借主が土地改良の賦課金を負担する例が多いようである。

 No.1とNo.2は、自身が法人経営の中核的担い手となって以降、サトウキビ作の規模を拡大させてきた。No.1は、サトウキビ生産に従事する人材の確保が可能であれば、さらに収量を400トン程度(現259トン)まで伸ばすことができると考えているのに対し、No.2は、島に放棄畑を出さないという志をもって取り組んできたが、農業以外の仕事も抱えており、規模拡大には限界が近いと感じている。また、個人経営の中で、No.3は、就農後最も積極的に規模拡大をしており、さらに250トン程度(現144トン)まで収量を伸ばすことができれば、農外就業と合わせて生計基盤としては十分であると考えている。No.6とNo.7は、親族の要望で農地を預かり規模拡大したが、今後は縮小も視野に入れている。No.4とNo.5は、いずれも規模拡大を行うことなく現状維持で、今後も相続した農地を手が回る範囲でしっかりと管理することを志している。

おわりに

 本稿に見たサトウキビ生産者は、いずれもサトウキビ作以外にも仕事を持ち、複合的な就業を通じて島の社会経済活動の一翼を担う人々であった。地域社会の人口が減少し、人材が限られる中では、こうした人々がサトウキビ生産の担い手ともなるというのは不思議なことではないだろう。一方で、各個人の生計を成り立たせるための戦略という視点に立ってみると、サトウキビ作りへの従事は、サトウキビ作りがその戦略の中に何らかの形で位置付くことを意味する。伊是名島の場合、農業以外に所得の基盤を確保しつつも、サトウキビ作りからの所得を組み合わせることで生計を成り立たせるようとする層が、それなりの規模で形成・世代交代しながら維持されてきたことが、現在まで島のサトウキビ生産を支えてきた理由と言えるだろう。その場合のサトウキビ作りは、以前に比べ、島の生産者が減少し、単収が低下している状況では、兼業を抱えつつも中規模・大規模とならざるを得ない。今後もこうした担い手が再生産されていくのか、その条件は何かという点に関しては、島の内外の社会経済状況の変化も踏まえた慎重な見極めが必要と考える。そうした中で今回の調査を通じて印象に残ったことの一つは、調査対象者が、それぞれにサトウキビ生産の担い手となった時から、作業の効率化と収量や収益とのバランスを勘案しつつ、各人の置かれた状況の下での妥当な作業・技術を模索してきたという点である。収穫作業を広範に受託する大規模経営では、植え替えにおいて夏植えも重要な選択肢とする一方、収穫作業を委託する中小規模の経営では春植えの適期作業に力を入れていた。肥培管理の諸作業においても培土や施肥などで新たな方法の試行を重ねていた。こうした模索から得られた知見を生産者が共有していくような仕組みが強化されることも、担い手の育成・確保につながる条件の一つとなるだろう。

 現地調査は、沖縄県農業協同組合・伊是名製糖工場の全面的な協力の下に行った。お忙しい中、調査にご協力いただいた生産者の皆さま、ならびに製糖工場の皆さまに、深く感謝申し上げます。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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