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―第1回 トレハロース―

砂糖以外の甘味料
―第1回 トレハロース―

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最終更新日:2026年9月10日

砂糖以外の甘味料
―第1回 トレハロース―

2026年9月

調査情報部 企画情報グループ
取材等協力/ナガセヴィータ株式会社
監修/国立大学法人 東京海洋大学 学術研究院
海の研究戦略マネジメント機構 准教授 永井 幸枝

 近年、食品業界においては、ニーズの多様化を背景に、砂糖以外のさまざまな甘味料が使用されている。当機構では、『砂糖類情報』2007年7月号において「砂糖以外の甘味料について」を掲載したが、その後約20年が経過し、各種甘味料を取り巻く状況も変化している。そこで、当時の情報を更新するため、現在、各種甘味料に関する調査を実施しており、その結果を本誌で情報提供していく予定である。今回は「トレハロース」を取り上げる。

 2007年7月号 砂糖類情報 調査情報部「砂糖以外の甘味料について」

はじめに

 まず、甘味料と一口にいっても文献や使用される文脈により定義が異なるが、本稿においては、「食品に甘みを与える素材」とし、食品添加物の甘味料以外に糖質を含むものとする。

 甘味料をおおまかに分類すると、砂糖などに代表される糖質系甘味料と、高甘味度甘味料などの非糖質系甘味料の二つに大別される(図1)。

 糖質系甘味料とは、砂糖のように炭水化物(糖質)に含まれ、一般にエネルギー(カロリー)源となる甘味料の総称である。一方、非糖質系甘味料とは、高甘味度甘味料のように糖質を主成分とせず、一般に低カロリーまたはゼロカロリーで強い甘味を示す甘味料の総称である。
 
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 糖質系甘味料を分子構造の観点から見ると、単糖類、二糖類、さらに三糖類以上のオリゴ糖および多糖類に分類される。代表的な甘味料である砂糖の主成分であるショ糖は、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の二つの単糖類が結合して構成される二糖類である。

 本稿で取り上げるトレハロースは、でん粉由来の糖質系甘味料に分類され、化学構造の観点ではグルコース同士が結合して構成される二糖類(注1)である(表、図2)。




 (注1)グルコース同士が結合した二糖類では麦芽糖(マルトース)も代表的なものとして挙げられるが、トレハロースの場合は麦芽糖と異なる部位でグルコース同士が結合している。

トレハロースの概要


 
 

(流通の過程)
 
トレハロースは1980年代まで、酵母から抽出・精製されており、生産効率やコスト面で課題があったが、1994年、ナガセヴィータ株式会社(<旧 株式会社 林原>以下「ナガセヴィータ」)が、世界で初めて微生物・酵素技術を使ったでん粉からの量産を可能にした。これにより価格帯は1キログラム当たり3〜5万円から約100分の1となり1)、利用が拡大した。

 現在は、主としてナガセヴィータによる国内製造品が流通している(写真1)。
 

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(国内流通量)
 
トレハロースの国内流通量は、約3万5000トン程度とされる。税関事前教示回答事例によると、関連するHSコード((1)1702.90-529および(2)2940.00-090)に該当するものとして輸入も確認できる((1)は化粧品用途、(2)は食品原料〈食品添加物〉)ものの、これらのコードにはトレハロース以外の糖質も含まれるため、トレハロースの輸入量を把握することはできない(注2)

 (注2)HSコード1702.90-529は糖類及び糖水(その他のもの):1805トン、
     HSコード2940.00-090は糖類(化学的に純粋なものに限るものとし、しょ糖、乳糖、麦芽糖、
     ぶどう糖及び果糖を除く。)(糖エーテル及び糖エステル並びにこれらの塩以外のもの)とされる。:4675トン
     数値はすべて2024年実績。
     (資料:財務省 貿易統計、日本関税協会webタリフより)


 

(食品表示)
 食品表示上は、砂糖は「食品」であり、トレハロースは「食品添加物」である。

  なお、食品添加物のうち、「既存添加物」(化学合成品以外の添加物のうち、国内で広く使用され長い食経験を有するもの)である。菓子や加工食品などの原材料表示ラベル上は、スラッシュ( / )の後に表示されている(注3)(図3)。




 

 (注3)消費者庁の食品添加物公定書第10版では、トレハロースは純度98.0%以上のものが該当するとされているなお現行の食品表示制度では食品添加物について原産国表示の義務は課されていない。2)

(原材料)
 
トレハロースは、コーンスターチなどのでん粉を原料として製造されている。

 なお、ナガセヴィータにおいては、国内製造されるコーンスターチや、タイで製造されるタピオカでん粉、北海道で製造されるばれいしょでん粉などを原料としている。

(特性など)
 
主な特性として、
 1)低甘味(甘味度は砂糖の主成分であるショ糖を100とした場合に38程度)であること、
 2)高保水性(しっとり感を保つ)、
 3)高結晶性(結晶力が高く結晶の状態で安定する)、
 4)でん粉の老化抑制(でん粉を含んだ食品のやわらかさを保つ)―などが挙げられる(注4)

 なお、甘味の立ち上がりは早く、甘さは後に引かない。エネルギーは砂糖と同程度(1グラム当たり4キロカロリー)である。

(注4)
 2)はトレハロースが水分を強くつかみ、離しにくい分子構造であることに由来する。
 3)は分子が対称性の高い安定的な構造であり、結晶を形成しやすいことによる。
 4)は保存時にでん粉の水分が抜け、でん粉分子が再配列するのを、2)の効果による保水で防ぐことによる。


(特性を生かした用途)
 
甘味の付与という点では砂糖が中心的な役割を担う一方、トレハロースが低甘味である点や物理的特性を生かし、砂糖と併用される例を具体的に二つ挙げる。

 

 

(1)「高保水性」と「低甘味度」を生かした例

 砂糖を多く含むジャムなどの食品は、主な原料となる砂糖の分子が水分子と結びつくことで、微生物が増殖しにくい環境となり日持ちすることが知られるが、砂糖単独で濃度を高めてこの効果を求めると、製造側がその食品に求める甘さを超える場合がある。

 このような場合において、砂糖と同じように水分子と結びつく性質がかなり強く、かつ砂糖とは異なる低い甘味度のトレハロースを用いることにより、「甘さの調整」と「保存性の向上」の両立が図られている。

(2)「高結晶性」を生かした例

 砂糖もトレハロースも、同じように結晶化しやすい特性を活かし、和洋菓子の糖衣掛けに使用されている。砂糖やトレハロースをそれぞれ単独で高濃度に使用すると、長期間保存した場合には、さらに結晶化が進み、食感にざらつきを生むことがある。一方で、両者を併用した場合には、各々の分子が互いに規則的な配列を妨げ、過度な結晶化を抑制することで、口当たりのよい食感を長期間維持することができる。

 なお、トレハロースは酸に対し安定的な性質を持ち、フルーツを配合した糖衣に使用されやすい(写真2)。



 


(製造方法)
 
トレハロースの原料となるでん粉は、グルコースが長く直鎖状に連なり、一部に枝分かれした構造を持つ。トレハロースは、これを酵素で低分子化し、さらに変換させることにより、以下のような工程を経て生成される(図4、5)。

(1)液化工程

 生のでん粉に水を加えて加熱し、溶解させる。すなわち、でん粉を糊化(こ か)させる。同時に、液化酵素を添加し、適度な粘度に調整する液化を行う。

(2)糖化工程

 糖化工程では、二つの酵素を作用させる。まず、でん粉の枝分かれした部分を切る酵素を作用させ、分岐部分を切って直鎖状に整えていく。次に、直鎖状になったでん粉の分子にトレハロース生成酵素を作用させ、トレハロースの分子構造を作ってから、切り離す。この工程を繰り返し行うことで、高濃度のトレハロース液(糖化液)が得られる。

(3)精製工程

 得られたトレハロース液(糖化液)から不純物などを除去し、濃縮工程を経て、高純度のトレハロース液(精製液)とする。

(4)結晶化工程

 トレハロース液(精製液)からトレハロースの結晶を析出させ、遠心分離機で回収し、乾燥させて製品とする。




 
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おわりに

 日本では、歴史的に多様な発酵食品が産出されてきた中で、微生物に関する知見が豊富に蓄積されてきた3)。こうした歴史を背景にトレハロースを作る酵素が発見され、さらに原料となるコーンスターチなどのでん粉が国内で安定的に調達できるメリットを生かし、ナガセヴィータでは、トレハロースを国内製造している。

 甘味料を取り巻く市場環境は絶えず変化を続けており、食品製造現場では、製品特性やコスト、求められる品質や風味に応じて砂糖と各種甘味料が使い分けられている。

 砂糖をはじめとするさまざまな甘味料が各々の特性を生かしながら利用される中、今後の研究開発や市場動向が注視される。

 このたびの当機構の調査に御協力いただきました皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。次回は、「異性化糖」(『砂糖類・でん粉情報』2026年11月号に掲載予定)です。
 
【参考文献】
1)ナガセヴィータ株式会社「トレハ®Web」
(Web 2026年7月15日閲覧)
https://treha.jp/knowledge/about/
2)厚生労働省ホームページ「食品添加物」(Web 2026年6月20日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/index.html
消費者庁「加工食品の原料原産地制度」(Web 2026年6月20日閲覧)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/assets/food_labeling_cms201_260323_02.pdf
3)2026年3月31日 みずほ銀行産業調査部
「精密発酵〜発酵技術の強みを活かした日本の食品産業の勝ち筋」(Web 2026年6月20日閲覧)

https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/sangyou/pdf/1080_25.pdf
4)農林水産省 令和7年5月30日付け7消安第1353号消費・安全局長通知〔コラム内資料〕
「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/attach/pdf/biostimulant-28.pdf

 

コラム
―トレハロース製造工場、ナガセヴィータ藤崎研究所(岡山県岡山市)―

 ナガセヴィータ岡山機能糖質工場(コラムー写真1)では、トレハロース製造の鍵となるでん粉の液化および糖化工程において、独自設計の特注機械を使用し、専任技術者による設計・プログラミング、メンテナンスを一貫して行っている。

  同工場では品質管理のFSSC22000およびISO9001、環境管理のISO14001、ハラールおよびコーシャ認証などの国際認証を取得しており、輸出時に求められる諸条件をクリアしている。敷地内には、大きく分けて糖質製造を担う工場と酵素製造を担う工場があり、いずれも製造設備の多くは自動化され、24時間体制で稼働している。

 同社では、自社工場で製造した酵素を用いてトレハロースを生産し、製品のトレース情報の透明性と信頼性を担保することで、品質保証の強度を高めている。

 今後は、人工知能(AI)を活用した微生物・細胞設計の効率化、生産プロセスにおける徹底した品質管理、さらに営業面を強化し、国際的な競争力の底上げを行うこととしており、トレハロースは令和8年度も増産見込みとのことである。




 ナガセヴィータ藤崎研究所では、トレハロースを含む糖質の研究が行われている。

  トレハロースは、医薬品分野で主にたんぱく質や細胞を安定化するため点滴製剤に添加されているほか、化粧品分野では保湿成分として使用されている。

  農畜産業の分野では、畜産の飼料のほか、バイオスティミュラント(コラムー注)としての応用研究が進められ、野菜などの生育環境改善や品質向上への効果についての実証試験が行われている。

 (コラムー注)農作物または土壌に施すことにより、農作物やその周りの土壌が本来持つ機能を補助する資材4)

 
現在は、食品、医薬品、化粧品の成分などを対象に、新たな糖化製品を生み出すための酵素に関する研究開発が行われており、同研究所の社員は、全国各地から採取した土壌サンプルから有用微生物の探索を行い、工業生産に適した菌株の選定や既存酵素の機能向上に取り組む。

 若手社員は、同社の技術基盤である微生物利用技術への理解を深めるため、微生物探索を経験する研修を受講して研究者としての基礎を学ぶ(コラムー写真2)。




 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678