

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > ブラジルにおけるトウモロコシ産業の動向(前編)
〜中西部を中心とした供給力と関連産業の拡大余地〜
最終更新日:2026年9月10日







ウ 生産コスト
ブラジルでは、セラード(注7)のような地域については土壌改良が必要となり、施肥需要も大きい。また、熱帯・亜熱帯気候下では、病害虫や雑草の発生・繁殖が活発であるため、防除に必要な農薬投入量が多くなる。このため、同国の大豆およびトウモロコシ生産コストは、肥料費および農薬費が占める割合が高い。一方で、大豆とトウモロコシの二毛作体系により、土地や機械設備などに関する固定費(減価償却費や機会費用など)が分散されるという特徴がある。この点について、マットグロッソ州農業観測所(IMEA)とUSDAの資料を基に、ブラジルのMT州と、米国のコーンベルト地域を形成する中西部の生産コストの構成割合を比較することで、両国の主産地における違いを確認することができる(図5)。
(注7)ブラジル中央部に広がる熱帯サバンナであり、土壌は酸性が強く、肥沃度が低い。

なお、ブラジルは肥料の8〜9割を輸入に依存しているため、国際肥料価格や為替相場、物流コストの変動は、生産者のコスト負担に大きく影響する。こうした背景から、ブラジル政府は、2023年11月に国家肥料計画(Plano Nacional de Fertilizantes:PNF)を改定し、50年までに肥料需要の45〜50%を国内で賄うことを目標に掲げた。また、EMBRAPAでは、肥料および農薬の使用量削減による生産コストの安定化などを目的に、バイオインプット(注8)の研究開発と普及拡大に取り組んでいる。
しかしながら、CONABによると、25年の肥料輸入量は4551万t(主要な内訳は窒素系肥料1712万t、リン酸系肥料565万t、カリウム系肥料1380万t)と過去最高を記録しており、現時点ではブラジル農業における肥料の輸入需要が高水準にあることがうかがえる。
(注8)植物、微生物、天敵生物などを活用した生物由来の農業資材。
エ サトウキビ生産との兼ね合い
このように、今後、トウモロコシの生産拡大が見込まれている中で、サトウキビ生産との兼ね合いについて触れる。
なお、荒廃牧草地の農地転用による生産の拡大余地がトウモロコシとサトウキビで重なる可能性が挙げられるが、上記の通りトウモロコシの生産はMT州が主体であるのに対し、サトウキビの生産はサンパウロ州が主体となっている。このため、拡大余地が重なる可能性は少ないとみられる(図6)(注9)。
(注9)詳細については、『砂糖類・でん粉情報』2024年9月号「ブラジル砂糖産業の現在と未来〜砂糖とエタノールの二本の柱〜(前編)」(https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003199.html)をご参照ください。

長期見通しによると、サトウキビの作付面積は、23/24年度の860万haから砂糖・バイオエタノールの国内消費や輸出需要の増加などにより、33/34年度には1000万haまで拡大すると予測されている。
これに伴い、世界最大の生産国であるブラジルの砂糖生産量は、今後の気候条件の変化や同国の砂糖・バイオエタノール政策により生産量に変動があるものの、年平均2.2%増で成長し、23/24年度の4560万tから33/34年度には5520万tにまで増加すると予測されている(図7)。

【コラム1】MT州のトウモロコシ生産者今回の現地調査において、MT州のトウモロコシ生産者Célio Riffel氏から農業経営の現状について聞き取りを行った。同氏の家族は、もともとリオグランデ・ド・スル州で100年以上続く生産者であったが、新たな可能性を求めて所有地を売却し、37年前にMT州へ移住した。入植当時は電気もない環境の中で一から農地を開拓し、当初20haであった農地を、現在の900haまで拡大させた。それでも、近隣では平均的な規模であるという。現在は、同氏と息子を含む計5人で農場を運営し、トウモロコシと大豆の二毛作を行っている。単収は、トウモロコシが1ha当たり9.0t、大豆が同4.2tと、いずれも国や州平均を上回っており、同氏はこれを長年培ってきた経験と技術の成果と語る。 一方で、近年は国際情勢の影響により、肥料価格が高騰しているのが悩みの種という。同州ではバイオエタノール需要が増加しているため、トウモロコシの収益性は維持されているものの、大豆の収益性は低下しているという。今後は施肥量の削減などにより収益性を確保しつつ、現在の二毛作体系を継続していくとの考えであった。 また、同国におけるバイオエタノール需要の拡大は、同氏の地域においても新たな事業機会を生み出している。同氏を含む地元生産者36戸は、共同出資により穀物バイオエタノール製造会社「EVERMAT S.A.」を設立し、同社工場は2026年4月に稼働を開始した。 なお、訪問時に撮影したトウモロコシは、20日後に収穫され、同工場に原料として搬入する予定とのことであった(コラム1―写真)。 ![]() |

【コラム2】トウモロコシを原料として扱う関連企業の動向今回の調査にて、トウモロコシを原料として扱う関連企業を訪問したので、その概要について紹介する。(1)穀物バイオエタノール製造会社大手:INPASA社 INPASA AGROINDUSTRIAL S.A.(INPASA社)は、世界最大規模の生産量を誇るシノップ工場(MT州)を含め、ブラジル国内に6工場、パラグアイに2工場を有する大手の穀物バイオエタノール製造会社である(コラム2―写真1)。全工場を合わせた2026年のエタノール生産量は63億L、DDGS生産量は310万tを見込んでいる。また、26年12月にゴイアス州、27年2月にMT州で新工場の稼働開始を予定しており、今後さらなる生産拡大が見込まれる。 なお、原料の大部分はトウモロコシであるが、一部の工場ではソルガムも使用している。 同社は、DDGSを「FortiPro」というブランド名で商品展開し、販売拡大に取り組んでいる(コラム2―写真2)。たんぱく質含有量が32%である同商品について、サンパウロ大学で実施された肥育牛への給与効果に関する研究で、その有効性が確認されたとしている。この研究では、肥育牛に給与する飼料のうち、綿実、トウモロコシおよび柑橘類の果肉の一部を同商品に置き換え、その効果を検証した。飼料全体に対する同商品の割合を、10%、20%、30%、40%と段階的に増やして検証したところ、配合割合を10%増加するごとに、と畜時の枝肉重量が2.62キログラムずつ増加することが示されたとされる。 ![]() ![]() (2)トウモロコシエタノール製造会社大手:FS社 FS Fueling Sustainability(FS社)は、ブラジル国内で最初のトウモロコシエタノール工場とされるルーカス・ド・リオ・ヴェルデ工場を含め、MT州内に3カ所の工場を有する大手のトウモロコシエタノール製造会社である(コラム2―写真3)。全工場を合わせた2026年のトウモロコシエタノール生産量は25億L、DDG生産量は200万tを見込んでいる。また、同州内に2カ所の新工場を建設中であり、1カ所目は26年12月、2カ所目は27年12月の稼働開始を予定しており、今後さらなる生産拡大が見込まれる。 同社の工場では、エタノール発酵の前にトウモロコシの繊維を分離するFST(Fiber Separation Technology)という技術が採用されており、その過程で製造されるDDGには繊維が含まれないため、たんぱく質含有量を41%まで高めることができる。 ![]() |