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この人に聞く

【この人に聞く】中国の食品安全と日本産品の今 〜後編〜

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最終更新日:2024年8月5日
広報webマガジン「alic」2024年8月号
後編冒頭
※ 前編(7月号)はこちらから

Q 日本で見かける中国産の農林水産物・食品の安全性は、信頼できるレベルにあると考えても、大丈夫でしょうか。

<AI技術による省力化が進む野菜産地(吉林省 公主レイ市)>
 中国の食品の安全性は、制度だけでなく、中国企業による経営努力によっても支えられています。日本で販売されてきた中国産の農林水産物・食品は、中国国内で制度が整う前から、日本で販売できる程度に安全性が確保されるよう、企業がそれぞれ生産管理を行っていました。今では、国家としての制度や基準が整備されることで安全性が向上し、商品によっては、日本以上に厳しい安全基準が設定されるまでになっています。
 先日、工場視察を行った中国の食品加工企業では、日本製の加工機器と包装材を利用し、食品管理に関しては、中国国内の基準だけでなく、HACCP(ハサップ)やISO22000(注1)などの国際基準も取り入れていました。また、生産現場でもAI技術の導入が進んでおり、一列に並べると6キロメートルにわたる野菜のビニールハウスを2人で管理しているという企業もありました。
<店内を自走する販促ロボット (海南省海南島)>
 生産、製造、また流通の各場面でデジタル化や規格化が進んでいると感じます。デジタル化というのは、例えば食品の安全性については、食品製造ラインで設定された基準に満たないものは自動的に弾かれる、といったような、人的ミスを補完する技術が次々に導入されている状況を指しています。
 また、規格化というのは、政府や業界団体が特定の商品について基準を定め、小売店はそのような基準を満たす商品を選んで販売する傾向にある状況を指しています。小売店側としても、規格化による消費者ニーズへの対応を通じ、消費者からの自社のイメージアップを図ることを狙っています。
 このような変化はもちろん海外に輸出する商品でも進んでおり、日本で販売されている中国産の農林水産物・食品は、食品安全法施行前よりも、更にその安全性が確保されるようになったと言えると思います。


(注1)HACCP及びISO22000の詳細については、下記HPをご参照ください。
 ・HACCP(ハサップ)|厚生労働省
 ・ ISO 22000(食品安全) | ISO認証 | 日本品質保証機構

Q 巨大マーケットである中国に、日系企業は多数進出し、食品分野でも日本からの輸出額は増加傾向にあります。このような中、中国における食品分野での日本産品への評価や市場の受け止め方について、教えてください。

 食品安全法施行当時は、「日本で作られたものは安全だ」、という信頼感から、価格が高くても日本産のものを買う、という消費者が多くいました。メラミン混入事案が起きた当時、日本の大手乳業が日本で製造したものが良く売れて、日本からの訪中客や帰国者はお土産に粉ミルクを頼まれていた頃のことです。実はこのメーカーは中国でも同じ製品を製造していましたが、中国で製造した商品は信頼性が低いと評価されていたのです。

 それが、今では大きく様変わりしています。まず、中国市場で勝負する企業は必ず「Z世代」の消費動向を注視しています。この世代は、95年から09年までの間に生まれた一人っ子で、祖父母、父母両方の世代の財布に加えて、社会人として稼いだ自分のお財布も持っており、中国の消費動向はこの世代の影響を大きく受けると言われています。
 また、数年前から中国では「国潮」主義(国産品、あるいは、歴史的に有名な発掘品、人物、京劇のような文化など、中国らしさのある図柄やモチーフを使った商品、飾りを好んで使ったり、売買したりする傾向)が定着したと見られています。このような変化が合わさって、最近では、「安全だから日本産品を買う」という評価や購買動機は弱まってしまったと見られています。つまり、購買力がかなり上がっているため、生活に必要なものの大半は既に持っていること、また、国潮主義が浸透していることを背景に、「中国製も十分に安全だ」、「自分は自分に合うもの、好きなものを買う」という消費者が増えているということです。
<京劇の衣装を着たキャラクターが、トイレののれんに使われている飲食店(北京市)>
 中国で食品全体の安全性が高まった結果、それまで最大の「売り」となっていた日本産の農林水産物・食品の高い安全性は、今や当然のこととして、それ以上の商品価値や魅力が求められていると言うことができるでしょう。
<店頭の電子パネルで「〇〇へようこそ」の文言と交互に表示される「食品安全」の文字(天津市)>

Q 中国では消費傾向が大きく変わってきているということですね。そのような中、食品分野において、安全性以外で何か特徴的な動きはありますか。

 特に都市部の女性や若い方を中心に、健康志向が顕著になってきたということが挙げられます。街中では、「ダイエット食」や「健康食」などであることを売り文句にしている商品が多く見られるようになり、従来、あまり中国でポピュラーではなかったサラダ(※中国では従来、生食よりも調理された食材が好まれる傾向にあります)に対し、「ランチのときには欠かさずサラダを食べる」とする声も珍しくなくなりました。
 また、食品そのものではありませんが、中国でも環境保全に対する意識も高まりを見せており、街中では「生分解性」(注2)の表示が付されたストローの包装やレジ袋を目にする機会が増え、環境への配慮が消費者へのアピール材料となると、認識している企業が多くなってきたことが実感できます。
(注2)自然界に存在する微生物の働きで、最終的にはCO2と水に分解される性質のことを言います。
 
<飲食店で飲み物を注文した際に渡された 「植物資源由来」、「生分解性」が表示さ れたストロー(北京市)>

Q 最後に、農林水産物・食品の中国輸出に関心がある日本の事業者に、一言お願いします。

<同会北京事務所(北京市)>
 中国産の安全性向上を背景に、「日本産だから買う」という中国の消費者は今後、減少していくと考えています。他方で、個人の経済力の向上に伴い、たとえ値段が高くても、いい物や欲しい物を買うという消費者は、今後も引き続き増えていく見込みです。このような中、オンライン化の進展に伴い、先にその商品を買った消費者の評価、いわゆる「口コミ」で商品が選ばれるようになったことで、日本人が評価している物、日本でも売れている物を買いたい、という声もよく聞かれます。
 つまり、中国では既に「日本産」ブランドで評価された時代は過ぎてしまい、品質本位、特に日本の国内市場で高く評価されている実績のある商品が、中国市場でも十分に勝負ができる時代に移りつつあると考えています。正に「己を知り、敵を知れば、百戦危うからず」です。
 常に変化を遂げている中国マーケットについて興味・ご関心などがございましたら、ぜひお気軽に当事務所までご連絡ください。
山田 智子 氏
一般財団法人日中経済協会北京事務所 農林水産・食品室 室長
平成16年4月 農林水産省入省
以降、農林水産省において知的財産、デジタル技術、農村振興などの分野のほか、植物防疫交渉業務などに携わる。
令和5年6月、alicに出向。日中経済協会北京事務所にて勤務。
   
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196