REPORT
【海外REPORT】消費者にアニマルウェルフェアの取り組みをアピールするドイツ政府と業界のラベル表示制度について
最終更新日:2024年12月5日
広報webマガジン「alic」2024年12月号
欧州連合(EU)は、中国に次ぐ世界2位の豚肉生産量を誇り、豚肉輸出量は世界1位という世界有数の豚肉生産・輸出地域です。一方、近年は環境規制やアニマルウェルフェア(AW)規則の厳格化、生産コストの高騰などにより、豚肉生産量は減少傾向にあります。
中でも、EUの中でスペインに次いで第2位の豚肉生産量となるドイツでは、豚肉消費量の減少やAW規則の厳格化、アフリカ豚熱(ASF)の発生による輸出量の減少などにより、豚肉生産量の減少が顕著となっています。
こうした中、ドイツ政府や豚肉業界では、ドイツ産豚肉の市場価値を高めようと、消費者にAWへの対応をアピールする取り組みが進められています。 |
1.消費者のAWに対する関心の高まり
EUでは近年、環境問題や持続可能性が大きな課題とされる中で、消費者のAWに対する関心も高まっています。2023年に欧州委員会が行った調査では、回答者の84%が自国の家畜に対するAW水準を今よりも高くすべきと回答し、回答者の60%が高いAW水準で生産された食肉製品に対して高い金額を払うと回答しました。
また、2022年にドイツ連邦食料・農業省(BMEL)が行った食品パッケージに関する調査によると、回答者の89%が家畜の飼養環境に関するラベルを求めていると回答するなど、ドイツの消費者は特にAWに高い関心を持っていることが明らかとなりました。
2.政府や業界によるラベル表示制度
消費者のAWに対する関心の高まりを受けてドイツ連邦政府は、AW基準
(注1)の厳格化とともに、小売店などで販売される生鮮豚肉に豚の飼養環境を明記するラベル(飼養環境ラベル)を貼り付ける制度を2024年8月に開始しました(25年8月からは義務化)。このラベルは、有機肥育、屋外アクセスの有無、肥育時の飼養スペースの広さなどにより5つに分類して、消費者が豚の飼養環境を一目で分かるようにしたものです。
(注1)EU加盟国では、家畜の飼養などのAWに関する法令により、1頭当たりの飼養面積などの最低基準が定められています。
また、豚肉業界でも、政府によるラベル制度の導入に先立ち、独自のラベル制度を運用しています。一定のAW基準を満たす生産者が販売頭数に応じたプレミアム(上乗せ料金)を受け取れる「アニマルウェルフェア・イニシアチブ(ITW :INITIATIVE TIERWOHL)」や、飼養環境を5段階に分類する任意ラベル制度「Haltungsform」
(注2)などのラベルは、ドイツの小売店で一般的に目にすることができます。
(注2)Haltungsformは政府の飼養環境ラベルの導入に合わせて、24年8月に従来の4段階から5段階に変更となりました。
3.規制強化への対応に苦慮する養豚生産者
ドイツの養豚生産者は、消費者のAWなどに対する要求の高まりや法的規制の強化などにより、大きな課題に直面しています。多くの生産者は、AW規制などに対応するためには豚舎の大幅改修をしなければならず、これには大きな投資が求められます。加えて、ドイツ国内の1人当たりの豚肉消費量が年々減少傾向にあり、これらの投資を回収できる見通しが立てづらい状況にもあります。21年に行われたアンケートでは、ドイツの養豚生産者のうち、繁殖を専門とする生産者の約6割が10年以内の廃業を考えていると回答しました。
BMELの食肉マーケット担当によると、現在のドイツの豚肉業界は「生産を維持したい食肉業界とAWや環境への対応を求める消費者との間で対立した状況」にあるとされています。現在の政権は消費者の要求に応えるべくAWなどの厳格化を推し進めていることから、今後もドイツの養豚生産者にとっては厳しい状況が続きそうです。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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