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【この人に聞く】「ブラウンチーズ」が熱い!〜栄養豊富なホエイの魅力を探る〜 (前編)

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最終更新日:2024年12月5日
広報webマガジン「alic」2024年12月号
<ブラウンチーズ専用製造機(中央)と濱村社長(左)、三浦先生(右)>
<ブラウンチーズ専用製造機(中央)と濱村社長(左)、三浦先生(右)>
 
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部食品科学科 乳肉利用学教室 三浦 孝之准教授
大生機設株式会社 濱村 賢社長
 今年も早いもので師走を迎え、今も昔も、街では先生(「師」)だけでなく、大人も子供もみな忙しく「走」り回っている状況です。このような中、皆さまの間では、クリスマスケーキやおせち料理等、様々なごちそうを心待ちにされている方も多いかと思います。季節柄、鍋やすき焼きを囲んだり、たまには「チーズ」フォンデュなんていうのも、いいですね♪ 
 ところで、『ブラウンチーズ』と言う商品をご存知でしょうか?
ブラウンチーズ
 ブラウンチーズは「ブルノスト」とも呼ばれるノルウェーの伝統的な乳製品で、チーズ製造の際に発生する副産物であるホエイを加熱濃縮して製造されます(注1)。上の写真のとおり外観は茶色で、風味はやや甘く、口溶けが良いのが特長です。ノルウェーでは、スライスしてワッフルやトーストに乗せたり、料理に入れたりして食されています。
(注1)ブラウンチーズは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(乳等命令)」(旧乳等省令)におけるチーズには該当しませんが、本稿では便宜上、商品名として広く認知されている『ブラウンチーズ』と表記することとします。 
 
 ホエイは、チーズを作るときに牛乳から分離する液体で、身近なところでは、ヨーグルトを置いておくと表面に溜まる液体もホエイです。タンパク質の他、カルシウムや各種ビタミン類を含むホエイは栄養価が高く、ジュースやジャム等、様々な食べ物の他、化粧品やサプリメント等の原料としても使われていたりする縁の下の力持ち的な存在です。現在、日本の酪農業界では、国産チーズの需要の高まりを背景としたチーズの増産により、ホエイも大量に発生するため、ホエイの有効活用や需要拡大などが課題となっています(注2)
(注2)チーズ製造において、原料乳投入量に対し、全体の1割程度がチーズ、残りがホエイとなるとされています(例:原料乳1000kgに対し、チーズは約100kg、残りの約900kgがホエイとなります)。
<解凍中の冷凍ホエイ。ホエイは、冷凍でも粉末でも利用可能で、 保存・保管や輸送においても優れています。>
 このような中、日本獣医生命科学大学の三浦孝之先生は、中小規模のチーズ生産者においてホエイの多くが廃棄処分されている実態に着目されました。ホエイに付加価値をつけることができれば(アップサイクル化)、中小規模生産者が抱える課題の解決につながるだけでなく、資源の有効活用やホエイの需要拡大など、社会的・経済的にも有益だと考え、「日本オリジナル」のブラウンチーズの製造に向けた研究開発に取り組まれています。
 この度、三浦先生とともに、食品加工製造機の設計や製造を手掛け、先生と一緒にブラウンチーズ専用の製造機の開発に取り組まれた大生機設株式会社の濱村賢社長、また製造機のユーザーである株式会社プティレジャポンのSV:久保晶子さんからお話を伺いましたので、その概要について前編、後編の2回にわたりご紹介いたします(取材日:令和6年10月28日)。

●今月号では、「日本オリジナル」のブラウンチーズの製造に向けた研究開発に取り組む三浦先生と濱村社長のお話を紹介します。
 

Q1 まずは、「日本オリジナル」のブラウンチーズの特長について、教えてください。

A1 日本オリジナルのブラウンチーズを普及させるには、舌の肥えた日本の消費者に受け入れられるような「風味」を出すことがポイントであると考えました。ノルウェーのブラウンチーズも、ミルクの滋味深い味わいを感じることができますが、これまで日本人の食経験にはなかったので、好みが分かれる傾向にありました。そこで私達はホエイに含まれている乳糖(注3)を、乳糖分解酵素を用いて分解することで甘みを増加させ、また、長時間加熱によりメイラード反応(注4)が発生することを利用し、キャラメルやチョコレートのような、茶色を帯びた、なめらかな食感と馴染み深い風味に仕上げることに成功しました。

 (注3)ラクトースとも呼ばれる低甘味度甘味料で、優しい甘みが特長です。牛乳や人乳等といった哺乳類の乳汁に含まれており、また、乳糖にはカルシウムの吸収を助ける作用があることから、豊富なカルシウムを有する牛乳により、カルシウムを摂取するのは合理的であるとされています。ホエイにも牛乳に含まれる乳糖の多くが残っています。
 (注4)褐変反応とも呼ばれる現象で、還元糖とアミノ化合物が加熱によって化学反応を起こし、褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のこと。パンやクッキー等の焼き色は、糖が小麦粉、牛乳、卵等に含まれるアミノ酸と反応してできるメラノイジンによるものです。
<様々な条件下で製造されたブラウンチーズ>

Q2 ブラウンチーズの専用製造機について、開発におけるご苦労や製品の特 長、アピールポイント等について、お聞かせください。

A2 どのような分野でも、技術だけの開発では、普及や浸透に繋がらないものです。日本にはブラウンチーズの製造経験者がほとんどいないため、作り方だけ紹介しても上手く作れず、生産者からは難しいと言う声が多数届きました。そこで、日本全国で誰でも作れるように、大生機設さんと協力し、世界的にも珍しい小規模生産者向けの専用製造機の開発に成功しました。その中で苦労や特長、アピールポイントを挙げるとすれば、まさにサイズです。ブラウンチーズの風味は、ホエイの投入量や加熱時間、火加減等に大きく影響され、大規模生産のほうが比較的取り扱いやすいとされてきましたが、それでは小規模工房での展開が難しくなってしまいます。そこで我々は、品質を確保できるギリギリのサイズに如何に収めるか研究と試作を重ねました。その他、この専用製造機には、鍋底の加工や撹拌機能等、秘めた技術や工夫が数多く施されています。
<商品名は、「ブラウン小(コ)バットくん」です!>
<撹拌工程のブラウンチーズ。処理量や加熱時間で風味に差が出ます。(三浦先生提供)>

Q3 消費者の皆さま、また、ブラウンチーズの製造や専用製造機そのものに関心のある方々に 向け、一言お願いします!

A3 昨年から我々が開発した専用製造機で製造されたブラウンチーズが市場に出始めました。まだまだこれからという段階ですが、日本全国のチーズ工房で個性的なブラウンチーズが製造されることで、ホエイという資源が有効活用されながらも、国産のブラウンチーズの生産拡大や、ブラウンチーズという新しい食の世界が、消費者の皆さまに広がっていくことを期待しています。まずは一度、ぜひ皆さまにお試しいただきたいと思いますし、関心を持たれた食品関係者の皆さまには、ぜひ本学や大生機設さんまでご照会ください。一緒に日本の食を盛り上げていきましょう!
 
       (続く※)
<日本獣医生命科学大学は、ブラウンチーズの開発と普及に、「本気」です!>
●本稿の後編は、来月号(2025年1月号)での掲載を予定しております。
 後編では、ブラウンチーズの魅力や可能性等について、ブラウンチーズ専用製造機のユーザーで、東京都下でオリジナル商品の開発に取り組む株式会社プティレジャポンのSV:久保晶子さんから伺ったお話を紹介します。
 来月号もぜひご覧ください! 
 
<参考資料>
 ・日本獣医生命科学大学HP「食のいま 第72号:ブラウンチーズでホエイをアップサイクル!」 
   https://www.nvlu.ac.jp/food/blog/blog-072.html/
 ・大生機設株式会社HP  http://taiseikisetsu.co.jp/
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196