この人に聞く
北海道産でん粉原料用ばれいしょ生産振興の取り組みについて
最終更新日:2025年2月5日
広報webマガジン「alic」2025年2月号
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ホクレン農業協同組合連合会
農産事業本部 農産部 でん粉課 課長 野田 達也氏 |
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消費者の皆さまにおかれましては、日頃から北海道産ばれいしょでん粉をご愛顧いただき厚くお礼申し上げます。
北海道産ばれいしょでん粉は、小麦や大豆など省力作物への転換やばれいしょ内でも他用途への転換によって、でん粉原料用ばれいしょ品種の作付面積が減少しています。さらに近年の気候変動による原料ばれいしょ収穫量の減少およびでん粉含有量の低下によって年々でん粉の供給量が減少し、全国で「ばれいしょでん粉」を必要としてくださるユーザー、消費者の皆さまの需要に対して、供給量が不足している状況が続いております。
その現状と生産量回復に向けた取り組みについてご紹介いたします。 |
1.北海道産ばれいしょの作付面積、ばれいしょでん粉の生産動向について
(1)北海道産ばれいしょの作付面積について
令和6年産の北海道におけるばれいしょ全体の作付面積は、45,171haの作付で、でん粉原料用ばれいしょの作付面積は、前年対比136ha減少の13,808haとなっております。
でん粉原料用ばれいしょの作付面積について、令和7年産は「北海道農協畑作・青果対策本部」で決定している作付指標である全道合計14,700haが目標となります。さらに、需要を満たす為には15,800haが必要となり、令和9年産の目標面積としております。この計画は関係機関とも共有しており、種子生産計画に反映されております。
(2)令和6年産の作柄状況について
令和6年産でん粉原料用ばれいしょの作柄状況について、春先の作業は順調に推移いたしました。7月に入り高温・干ばつ傾向で推移したものの、令和5年とは異なり、8月以降夜温が低くなり、ばれいしょに合った気候となり、全道的に生育は順調に推移いたしました。令和5年産は低かったばれいしょ内のでん粉含有量も令和6年産はまずまず確保できました。
その結果、令和6年産農協系統工場の生産量は約150,000トンとなり、4年ぶりに150,000トン台に回復しました。
2.北海道産ばれいしょでん粉の需給および用途について
(1)北海道産ばれいしょでん粉の需給状況について
需給表について、主に令和5年産が該当する5でん粉年度は、供給量合計が155,800t、販売量合計が153,100t、次年度繰越が2,700t(計算上は需要の0.2か月分)となります。6でん粉年度は繰越を含めた供給量が159,700tとなります。本来のばれいしょでん粉の需要は18万トン程度ありますので、需要に対して供給が応えきれていない状況が続いております。
(2)ばれいしょでん粉の用途について
実は、ばれいしょでん粉の用途は非常に多岐にわたっております。大きく分けると異性化糖向けの「糖化用」(全体の15%)、化学的・物理的な加工処理をし、食感改善や保存安定性の向上を図っている「化工用」(全体の16%)、でん粉そのものを使用する「固有用途」(全体の69%)に分類されます。
用途ごとの需要動向は以下のとおりです。
ア.糖化用
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糖化用は主に清涼飲料水などに使われる異性化糖の原料向けになります。この用途は主に輸入とうもろこしの価格に連動します。 |
イ.化工用
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化工用は、ばれいしょでん粉に化学的・物理的な加工処理をし、食感改善や保存安定性の向上を図っており、養鰻餌用アルファでん粉などの用途があります。 |
ウ.固有用途
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固有用途はでん粉そのものを使用する用途としておりますが、用途は多岐にわたっております。 |
(1) 片栗粉
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でん粉を使用する一番大きな用途である片栗粉用の需要は安定していますが、供給量減少の影響からメーカーによっては小容量品への取扱いが進んでいます。一部ではEU馬鈴しょでん粉等への切替の動きも出てきています。 |
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(2) 菓子用
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代表的な「えびせんべい」は、北海道産ばれいしょでん粉の供給量不足により、他でん粉との配合比率の変更、小麦粉や米粉を使用する動きが出てきています。
一方、「ボーロ」は外出需要の回復や輸出需要の増加、ドラッグストアへの販売などにより好調です。 |
(3) 水産練製品・ハムソーセージ
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水産練製品は、すり身の価格高騰により製品値上げを実施したことで需要が縮小しております。
ハムソーセージは、生協向けやコンビニ向けの需要が定着しています。 |
(4) 麺類・春雨
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即席麺は、コンビニでは需要回復が見られ、量販店では価格訴求品の需要があります。
春雨は、冬期の需要期に向けて製造します。冬期の気象要因が需要を左右します。 |
(5) スープ・冷凍食品
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スープ市場は喫食機会の増加により販売は堅調です。 冷凍食品は巣ごもり需要の反動により、需要は落ち着いています。 |
(6) 工業用・その他
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ばれいしょでん粉は、工業用にも使用されております。紙コップなどの板紙向けの需要は堅調です。その他として医療用の錠剤や、精密機械製造にも使用されています。 |
3.北海道産ばれいしょでん粉生産振興の取り組みについて
このような需給状況の為、ホクレンとしては生産振興の取り組みを強化しております。
(1)生産者手取金額(粗収入金額)の増加
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一番重要な取り組みとして、生産者手取り確保に向けたでん粉原料用ばれいしょ粗収入金額の増加を図っております。JA全農と連携して各用途での段階的な価格改定を実施しています。 |
(2)でん粉原料用ばれいしょの増収に向けて
ア.でん粉原料用馬鈴しょ栽培共励会の開催
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5年産より、「でん粉原料用馬鈴しょ栽培共励会」を開催しております。他の模範となる栽培法で優秀な生産実績となった生産者7名を表彰しました。また、その栽培技術を広く紹介し優良事例の水平展開を目的に、「北海道産でん粉原料用馬鈴しょ優良事例集」として4,500部の冊子化を行い、生産者へ配布を行いました。 |
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イ.ホクレン農業総合研究所の取り組みについて
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令和5年度から、ホクレン農業総合研究所での取り組みとして、でん粉原料用ばれいしょの主力品種である「コナヒメ」の安定生産に向けて、栽培の実態調査、生産性改善に向けた有効技術の推進を行い、栽培体系、施肥体系、防除体系でそれぞれ生産性向上に繋がる提案を行っております。
また、令和6年度には農林水産省の「持続的畑作生産体制確立緊急支援事業」を活用し、気候変動に伴う不安定な降水と高温条件による生育抑制の緩和に向けて、灌水処理による生育安定・収量確保をめざす実証事業も行っております。 |
(3)生産振興に向けた啓蒙活動について
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令和5年10月に、生産者の皆さまに北海道産ばれいしょでん粉が使用されている商品を紹介し、ばれいしょでん粉が不足している状況の周知を目的にリーフレット及びポスターを作成し各種媒体にて広告掲載を行いました。
また、生産振興を目的に令和5年12月に北海道産ばれいしょでん粉を使用した商品である「ゆかり」(せんべい)を全道のばれいしょでん粉生産者へ配布を行いました。 |
また、令和5年8月から令和6年7月にかけて、十勝毎日新聞の農業コラムに月1回「馬鈴しょでん粉主産地への期待」というテーマで、全国各地のばれいしょでん粉ユーザーより生産者へのメッセージを寄稿していただきました。また、令和6年12月には、12回分の寄稿をまとめたものを冊子化、5,000部を作成し、全道のばれいしょでん粉生産者へ配布を行いました。
(4)「でん粉原料用馬鈴しょ生産者講習会」の開催
でん粉生産量増加に向けた栽培技術の講習と全国の北海道産ばれいしょでん粉ユーザーと生産者・JA担当者が交流していただく機会として、「でん粉原料用馬鈴しょ生産者講習会」を開催しております。
情勢の報告やユーザーによるトークセッションも開催され、ユーザーからばれいしょでん粉は幅広い分野で使用され、他では替えがきかない原料であるため安定供給の要望が寄せられました。
4.おわりに
近年、北海道産ばれいしょでん粉は需要量に対して供給量が少ない状態が続いております。
そのような中で、需要に応えるためのばれいしょでん粉生産量拡大に向けては、生産者粗収入増加による「でん粉原料用ばれいしょ作付面積の拡大」と栽培技術向上による「ばれいしょでん粉生産量増加」の両方を振興することが重要と考えております。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-9709