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【alicセミナー】EUおよび英国の農業関連政策の最近の動向

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最終更新日:2025年2月5日
広報webマガジン「alic」2025年2月号
 alicは2024年11月22日〜12月23日、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)ブリュッセル事務所の前田昌宏氏によるalicセミナー「EUおよび英国の農業関連政策の最近の動向」を、alicチャンネル(YouTube)で配信しましたので、その概要をご紹介します。
 なお、図表番号は、本講演の資料の番号となっております。本資料は、こちらからご参照ください。

T EUの環境・農業政策の動向

 〇 現行の環境・農業政策

 EUは、2019年12月に持続可能なEUの経済成長に向けた成長戦略として、「欧州グリーン・ディール」を発表しました。主な3つの目標として、(1)2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ、(2)経済成長と資源の利用のデカップリング(切り離し)などを掲げています。
これを受け、農業部門では、2020年5月に「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで)」(F2F戦略)を発表し、農業部門における取組の目標として、2030年までに(1)化学農薬の使用とリスクの50%削減、(2)肥料使用量の20%削減などを掲げました。
 
欧州グリーンディール
 現在のEUの温室効果ガスの排出の状況を見ると、1996年以降の削減率がそれ以前と比較して停滞していることが分かります。なお、農業からの温室効果ガス排出量のうち家畜由来のメタンが58%と最も割合が高くなっています。
 
グラフ
グラフ2
 EUの共通農業政策(CAP)の2023年の見直しにおいては、最も多くの予算が配分されている「直接支払制度」の受給要件に、気候・環境・労働者保護等の法令遵守が義務付けられました。また、「農村振興政策」においても、環境対策に対しての予算配分を多くすること(20%→30%)が義務付けられました。
 こうした政策に対して、環境対策実施のためのコスト増への懸念や輸入品にはEUの基準が適用されないことへの不満などを背景に、生産者の抗議活動が各地で発生しました。
 
デモ
 2024年は欧州議会選挙があり、こうした農業者の抗議活動などを受け、農業の取扱いが選挙の焦点の一つとなりました。各政党グループの農業部門におけるマニュフェストについては、環境対策の必要性には言及しつつも、農家の所得確保などに配慮する姿勢が多く見られたのが特徴です。そして、選挙の結果、環境対策を強く主張する政党(欧州緑の党)が議席を減らした一方、最大政党のEPPや環境政策に懐疑的な勢力である右派などが議席を増やしました。
 
欧州選挙
〇 今後の農業政策の方向性

 EUでは、フォンデアライエン欧州委員会委員長の発案により、農業・食品業界、市民団体、農村コミュニティ、研究者など29の利害関係者が委員となる戦略対話が2024年1月に発足し、EUの農業と食料システムの将来について、共通の理解と方向性を示すため議論を重ねました。9月4日に発表された最終報告書の内容は以下のとおりです。
 
共通展望
 「フードバリューチェーンにおける農家の地位強化」が示され、また、CAPについては「小規模・若手・新規参入など最も支援を必要する農家に的を絞った社会経済的支援の提供」、「面積ベースでの支払いから持続可能性への取組に対するインセンティブ支払いに重点を置く」といったことのほか、農家の抗議活動でも問題視された「輸入品とEU基準との整合性を図ること」などが提言されました。
 また、2026年までにアニマルウェルフェア関連規制を見直すことも重点課題として挙げられています。
 欧州委員会が今後発表する予定の今後の農業政策の方針となる「農業と食のビジョン」にも、これらの内容が盛り込まれると思われます。
 

U 英国農業政策の最近の動向

〇 農業政策の方向性

 英国は、2021年1月EU離脱後、独自の農業政策への切り替えを進めています。食料安全保障を図りつつ、面積に応じた直接支払制度から持続可能性を重視した政策へとシフトしています。
 
英国農業政策
〇 持続可能性を重視した政策の内容について

 直接支払制度を段階的に縮小・廃止することに伴い、新たに環境土地管理制度(Environmental Land Management Scheme)が導入されています。同国の25か年環境計画と2050年までの排出量ネットゼロ公約の達成を目指しつつ、農村経済を支援することを意図した政策となっています。持続可能な農業生産のための取り組みメニューが多数用意され、取り組んだ場合にメニューに応じた奨励金が交付されるなどの内容になっています。
 今後英国の農家にとっては、これら農業政策を意識した農業経営の転換、自らの農地にあった取り組みメニューの選択と計画的な実施が必要となりそうです。
英国持続可能性
〇 予算案の内容(農業関連)

 政権交代後の初となる予算案が2024年10月31日に発表されました。農業関連では、(1)最低賃金が4月以降、11.44ポンド(2,242円、1ポンド196円)から12.21ポンド(2,393円、同)へ引き上げ、(2)予算規模は維持、(3)直接支払制度の段階的な縮小措置のペースの加速、(4)農業用・事業用資産に係る相続税減免措置の見直し、などがあります。農業者団体は、予算規模の維持は評価したものの、相続税の減免措置の見直しなどにより経営維持が困難になる可能性があると強く批判しています。
 
労働党
〇 まとめ
  
 英国の農業政策は、直接支払制度から持続可能性へのインセンティブにシフトしており、2025年以降そのシフトをさらに加速する野心的な取り組みを行っています。EUも戦略的対話では、将来のCAPについて英国と同様に面積に応じた直接支払から持続可能性へのインセンティブに重点を置くことが提言されており、今後公表予定の「食と農業のビジョン」の内容に注目が集まっています。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196