まめ知識
脱脂粉乳は地味だけど、国内の生乳需給で大事な存在
最終更新日:2025年3月5日
広報webマガジン「alic」2025年3月号
牛乳やバター、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は、食卓にのぼることが多く、私たちの生活に馴染みの深い存在になっています。今回は、このような乳製品の中では少し地味な存在かもしれない脱脂粉乳についてご紹介します。 |
生乳の需給調整に欠かせない脱脂粉乳
すべての牛乳乳製品は、乳牛から絞られる生乳を原料として製造されます。実は、生乳は毎日休みなく生産されています。しかし、腐敗しやすく、貯蔵性に乏しいため、日々、乳業工場で加工・処理しなければなりません。
生乳の生産は、春にピークを迎え、乳牛の体力が落ちる夏場には減少するなど、季節的な変動や短期的な天候の変化を受けます。一方、生乳の仕向け先となる飲用乳の消費は、気温の高い夏場に増え、寒い冬には減少します。学校給食の休止にも影響を受けます。
こうしたことから、生乳から牛乳乳製品を製造する際には、季節に応じて、日持ちしない飲用乳向けの生乳が余らないよう日持ちする乳製品の生産量を調整しています。特に、学校給食が休止する春休みや年末年始には、飲用向けの減少により生乳が余剰となることから、乳製品の中でも賞味期限が長いバターや脱脂粉乳の生産を増やします。このように、バターや脱脂粉乳は、生乳の需給調整において大きな役割を果たしているのです。
脱脂粉乳の製造
では、脱脂粉乳は、どのように製造されるのでしょうか。
牛乳乳製品の製造は、主に牛乳等、バター・脱脂粉乳等、チーズの3系統に分けられます(表1)。
生乳を加熱殺菌したものが牛乳やヨーグルトなどになります。生乳に酸、酵素、熱を加えて凝固するとチーズとホエイが製造されます。そして、生乳をクリーム(乳脂肪分)と脱脂乳に分離し、クリームを空気・水分を除きながら練ったものがバター、脱脂乳を濃縮・乾燥させて粉末状にしたものが脱脂粉乳になります。つまり、バターが製造されると、脱脂粉乳もセットで出来上がるのです。
<表1:主な牛乳乳製品の製造工程 (農水省「牛乳乳製品の製造工程について」を参考に筆者作成)>
脱脂粉乳の使いみち
バターは家庭でパンと一緒に食されますし、パンやお菓子などの材料としても使われます。しかし、脱脂粉乳は皆さんにとってあまり馴染みのない存在ではないでしょうか。
脱脂粉乳は、ヨーグルト、加工乳や乳飲料、アイスクリームなどの乳製品の原料として使用されています。ヨーグルトなどは、脱脂粉乳を使うことで、生乳だけでは出せないコク味につながるのだそうです。
協同乳業での取り組み
実際に脱脂粉乳をどのように使用しているのか、協同乳業株式会社にお話を伺いました。
同社は、オレンジと白のパッケージが目をひく農協牛乳などで広く知られています。もともとは、長野県の酪農家による協同組合運動により発足した会社で、酪農家が丹精込めて生産した生乳から、美味しい牛乳や乳製品を作るところから始まりました。酪農家と共生していくことを基本理念に、酪農家の所得向上につながるよう、牛乳・乳製品製造に当たっては、国産原料を使用することにも注力しています。
<協同乳業梶@東京工場>
年間14万5000トンほどの生乳を処理し、そのうち約10万トンは牛乳向け、2万トンが乳飲料、残りでヨーグルトやプリンなどを製造しています。前述のとおり、牛乳の需要は夏場をピークにした山型となりますが、原料となる生乳は季節の変動を受けながら毎日生産されるため、牛乳の需要に合わせて取引量を変えることはできません。このため、牛乳の製造で余った生乳を仕向けるため、牛乳以外の様々な製品を製造しているのです。
同社では、現在は自社で脱脂粉乳を製造していませんが、乳製品を製造する過程で、別の乳業メーカーから購入・製造委託した脱脂粉乳を使っています。同社の製品の中では、脱脂粉乳の配合率が最も高いのはヨーグルト類、次いで乳飲料となっています。
<脱脂粉乳が使われています! 左:LKMヨーグルトBVしなやか血管サポート、右:大地と酪農の恵み>
<原材料表示の「脱脂粉乳」や「乳製品」の文字をぜひ探してみてください> ※写真は協同乳業提供
同社はコロナ禍以降、脱脂粉乳の在庫が過剰となった状況を受け、これを解消するための対策事業等に積極的に関与し、国産乳製品の消費促進に取り組んでいます。また、生乳全体の需要創出にも力を入れ、国産原料にこだわった「おいしい」商品の開発・販売を通じて、国内の飲用市場や生乳流通の安定に貢献しています。
国産牛乳乳製品の高品質を活かしたこれらの挑戦は、業界全体の発展に寄与するとして期待されるものであり、乳業会社として生乳の需給調整にも大きく貢献しています。
脱脂粉乳は家庭でさまざまな料理にも
脱脂粉乳は、生乳から乳脂肪分を取り除いたものなので、カロリーや脂質は低く、カルシウムや乳たんぱく質が多く含まれています。そのため、乳製品だけでなく、パンやお菓子などの材料にも使われ、コク味などを加えるのに役立っています。また、店頭では、主にスキムミルクの名前で販売されています。お菓子づくりやパンづくりで使う他、シチューやパスタ、お好み焼きなどで使用されるレシピも多くあります。ご家庭でも普段の料理に手軽に栄養をプラスすることができます。
今後、ぜひ脱脂粉乳にも着目していただけたら嬉しいです!
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196