alicだより
豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)との定期情報交換会議の開催について
〜豪州のトレーサビリティ制度の現状報告もあわせて〜
最終更新日:2025年4月7日
広報webマガジン「alic」2025年4月号
alicは、2月24日(月)に豪州食肉家畜生産者事業団(以下「MLA」という。)との定期情報交換会議をシドニーで開催しました。
この会議は、両国の牛肉の需給動向などについて意見交換を行う場として1987年から定期的にお互いの国を訪問して開催しており、今回で30回目を迎えました。
今回は、2024年5月に就任したマイケル・クロウリー代表取締役社長とalic天羽理事長が初めて対面し、牛肉の需給動向などについて直接意見交換を行い、引き続き交流を深めていくことを約束するなど、有意義なものになりました(写真1)。
また今回の会議では、豪州のトレーサビリティ制度である全国家畜識別制度(NLIS、National Livestock Identification System)を管理する、MLAの子会社ISC(Integrity Systems Company)から、NLISの現状などについて、ブリスベンでの現地視察も交えて説明がありましたので、あわせてご紹介します。
写真1 MLA定期情報交換会議の様子 (左:ランチミーティング、右:会議前の記念撮影 (左からクロウリー代表取締役社長、天羽理事長、新納総括理事))
全国家畜識別制度(NLIS)の現状
NLISは牛などの家畜の移動履歴を追跡することに特化したシンプルかつ畜産農家にとって負担の少ない仕組みです。2002年にヴィクトリア州で電子チップ入り耳標タグ(電池などを含まないパッシブ型のタグ。以下「タグ」という。)の牛への装着が最初に義務化されて以降、2006年にはすべての州で州法に基づき義務化されています
(注) 。
売り手である畜産農家は、牛を出荷するまでに白色タグを牛の右耳に装着します。白色タグが脱落した場合には、オレンジ色タグを装着します(写真2)。畜産農家は、タグを1個2.5〜3豪ドル(250円〜300円)程度で購入して装着します。
(注)NLISの概要については、『畜産の情報』2013年12月号「豪州の牛トレーサビリティ制度〜大規模経営を支えるシンプルかつ電子化された仕組み〜 」をご参照ください。
写真2 家畜市場(Moreton Saleyards)でのタグ装着状況 (左:白色タグ、右:脱落後のオレンジ色タグ)
買い手である肥育農家や食肉加工場などの牛の移動先では、タグを読み取り、データベースに登録します。家畜市場を経由して取引される場合には、家畜市場が登録します。
小規模な家畜市場などでは、タグ読取棒により読み取ります(写真3)。大規模な食肉処理場などでは、1メートル以内に近づけばタグを読み取れるパネル式も採用されています。
写真3 タグの読み取り状況 (左:タグ読取棒(1本1,000〜2,000豪ドル(10〜20万円)程度)、右:タグ読取棒での読取状況)
タグは、現在、6社の製品(胃の中に入れるルーメンボーラスを含む)が認可されています。畜産農家はタグのデザインや納期などから製造企業を選定できます。タグの製造・販売を行うデータマース社では、注文数にもよりますが、数日から1週間程度でタグを製造し、発送しています(写真4)。タグは製造した時点でNLISのデータベースに登録されます。なお、タグ内の電子チップはタイから仕入れているということです。
写真4 タグなど家畜用資材を製造・販売するデータマース社(本社スイス) (左:同社前で、中:タグ製造状況、右:タグと農場固有耳標(青)のセット)
ISCは現在、(1)畜産農家が農場におけるバイオセキュリティ(注:病原体の侵入などを防ぐための取り組み)、食品安全、動物福祉などの牛の生産に関する情報を登録する家畜生産保証制度(LPA、Livestock Production Assurance)、(2)LPAとNLISをつなぎバリューチェーンに情報を提供する全国出荷者証明書(NVD、National Vendor Declaration)−などのプログラムも管理しています。これらに法的強制力はないものの、食肉処理場はNVDのない牛を受け入れないなど、商業上は必須の取り組みとなっています。
豪州最大の家族経営の肉用牛インテグレーター(生産、肥育、と畜、加工、流通、販売までを一気通貫で行う企業)であるAustralian Country Choice(ACC)の開発責任者は、NVDはバリューチェーンについて、「実際の生産データを基に安全性などを客観的に示せるため、非常に有用」としていました。
MLAとISCは、これら一連のプログラムで得られたデータを利用して、畜産農家の経営改善に向けたコンサルテーションなどに活用したいとしています。データの利活用には州政府との調整が必要とのことですが、今後の展開が注目されます。
写真5 ISCの皆さんと(Moreton Saleyardsにて)
豪州食肉家畜生産者事業団(MLA:Meat & Livestock Australia)
1998年に生産者の出資により設立(前身は豪州食肉畜産公社)。主な活動は、国内外における豪州産牛肉および羊肉(生体を含む)の販売促進、研究・開発など。日本でも、「オージービーフ」の名称で、外食産業や小売店での販売促進、展示会やセミナーなどの活動を積極的に展開している。
(調査情報部)
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