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和菓子のこれから:伝統と革新の融合、そして夢の創造
        夢菓子工房ことよ 代表取締役 岡本伸治

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最終更新日:2025年5月7日
広報webマガジン「alic」5月号
<春の声が聞こえてきそうな和菓子たち>

 古都の雅、自然の恵み、そして職人の技が織りなす日本の宝、和菓子。その繊細な美しさ、口にした時の奥ゆかしい甘さは、私たち日本人の心に深く刻まれています。しかし、現代社会の急速な変化の中で、和菓子を取り巻く環境もまた、大きな変貌を遂げつつあります。

 少子高齢化による消費者の減少、食生活の洋風化、そして職人の高齢化と後継者不足。これらは、和菓子業界が直面する喫緊の課題です。伝統を守り続けることは重要ですが、変化を恐れ、立ち止まっていては、和菓子の未来は決して明るいものとは言えません。

 では、和菓子はこれからどのように進むべきなのでしょうか。
 私は、「伝統と革新の融合、そして夢の創造」こそが、和菓子の未来を切り拓く鍵となると確信しています。
 

 

 伝統とは、先人たちが築き上げてきた技術、精神、そして美意識の結晶です。素材へのこだわり、繊細な手仕事、季節感を重んじる心。これらは、決して色褪せることのない和菓子の本質であり、守り続けるべき魂です。しかし、単に過去の踏襲に固執するのではなく、その本質を理解した上で、現代の感覚やニーズに合わせて進化していく必要があります。
 例えば、季節感は大事ですが地球温暖化の影響か、夏から秋冬までの季節のうつろいを感じられぬまま季節が過ぎていこうとしているので、四季に合わせて製造していた菓子も、気温に合わせて変えなければいけないでしょうし。また、若い世代は咀嚼することが減少しているということで、しっかりと腰のある餅や固いものなど、よく噛まないといけないものが好まれなくなってきています。よく噛むと唾液に含まれるβアミラーゼが分泌されて消化も良くなるのですが、よく噛むという行為が減少している今、和菓子の食感も柔らかいものに変更していくしかありません。
 長く、この国で作られている和菓子は、その時代とともに「伝統」という軸は大きくぶれることはなくても柔軟な「変化」を繰り返してきています。すべての時間軸が早くなってきている昨今、それがより加速すると思います。

 また、革新とは、新しい技術や発想を取り入れ、和菓子の可能性を広げる試みです。例えば、健康志向の高まりに応じた低糖質やアレルギー対応の和菓子、最新のフードテクノロジーを活用した新しい食感や風味の追求、あるいは、SNSやオンライン販売といったデジタルツールを活用した新たな顧客層へのアプローチなどが考えられます。

 近年は日本の伝統的な菓子である「和菓子」を海外の方たちもSNSや日本に旅行に来た際に知り、購買だけでなく、それを作りたいという体験や、作り方を極めて自分の国でも広めたいと教室を展開する方たちも増えてきています。 
 2024年は、本当に多くの国から招待されて和菓子を伝えに行きました。1月のタイから始まってフランス・ドイツ・台湾・中国浙江省・香港・韓国などほぼ毎月、和菓子の指導に行きました。2025年も1月タイ、2月オーストラリア、3月韓国と招かれ5月も香港に行くことが決まっています。
 日本で生まれ大きくなった和菓子の市場は、SNSやフードテクノロジーの発達により、海外の人の関心を集め、菓子の日持ちに関しても海外まで運べるなど変化してきています。

 このようなことから見ても重要なのは、伝統と革新を対立するものとして捉えるのではなく、互いに尊重し合う関係を築くことです。伝統という確固たる土台の上に、革新という新しい息吹を吹き込むことで、和菓子は時代を超えて愛される存在へと進化できるはずです。

各国
<韓国教室>

 「伝統とは革新の連続である」虎屋17代目当主、黒川光博氏の言葉です。伝統を重んじてきた老舗である虎屋も、このような思いで和菓子を作り続けています。和菓子ってこういうものだよと、この言葉にはたくさんの勇気をいただいています。伝統と革新は相反するものではないことを何百年もの月日を経て和菓子は証明してきているわけです。

 そして、「夢の創造」。これは、単に新しい商品や販売方法を生み出すだけでなく、和菓子を通じて人々に感動や喜び、そして新たな価値を提供することを目指すものです。例えば、地元の食材を積極的に活用し、その土地の文化や魅力を和菓子を通して発信する。あるいは、アートや音楽といった異分野とのコラボレーションを通じて、和菓子の新たな可能性を探求する。また、体験型のワークショップやイベントを通じて、和菓子の魅力を次世代に伝えていくことも、夢の創造につながるでしょう。

 和菓子は、日本人や日本で生活をする方にとっては身近な存在だといえます。これはワークショップや講演を頼まれたときに、毎回冒頭に「『桜餅』や『おはぎ』や『みたらし団子』を皆さん知っていますか?」と問いかけるようにしています。そうするとほぼ100%の方が知っていると答えてくれます。嗜好品であるはずの和菓子ですが、いろいろと皆さんの生活の中にあることがわかります。

 ただ一方で、「ではそれらを作ったことがある方は?」という問いにはほとんどの方が作ったことがないと答えます。自国のお菓子を作ったことがないというのは、我々「和菓子業界」に生きる職人の責任だなと感じます。ただ、知っているということは大事なことで、まずそこができていることに着目し、次のステップとして「和菓子」を作ったことがある人を1人でも多く輩出したいと思います。最近は、国内でもいろいろと講座を設けたり、招待いただいたら遠方でも行き、指導したりとしています。小さな一歩ですが、未来につながる「夢の創造」のために頑張りたいと思います。

 私は創業1948年「有限会社 夢菓子工房ことよ」という、三重県四日市市にある「和菓子屋」の3代目として生まれました。この仕事について30年以上「和菓子」を作り続けています、地域に根ざし、地元の豊かな自然と歴史に育まれた素材を大切にしながら、常に新しい和菓子の可能性を追求してきました。伝統を守りつつ、季節のうつろいを映した創作和菓子や、地元産の素材を使った新しい味わいの開発にも積極的に取り組んでいます。また、一方で大手企業の技術指導や大学・専門学校などの非常勤講師も20年以上務めさせていただいています。

 長く、この仕事に携わることができ思うことは「和菓子」はいつも笑顔の中心にあるものだなということです。甘い菓子を食べながら怒る人はそういないと思います。人が生きていく中で、何かを食べないと生きていけないのは当然ですが嗜好品である「和菓子」がその食の部分を補っているわけではないことは理解しています。でも、必要だから残っている、国内の戦乱・海外との大きな戦争それらを経てもなおこの国で残り続けているのは体を形成する栄養はもちろんとして、それよりも心を豊かにする栄養分が「和菓子」にはあるんだろうなと、そう感じます。時代を経ても必要なものとしてある「和菓子」はある意味、究極の嗜好品なのかもしれません。

 とはいえ、これからの和菓子業界は、決して楽観視できる状況ではありません。材料高騰や先に述べた人口減少からの人材不足、人口が減ればもちろん食べる人も少なくなっていくわけです。また、働き方改革からの技術伝承の難しさなどいろいろな壁はあります。しかし、私は、和菓子に込められた無限の可能性を信じています。伝統を守りながらも、常に新しいことに挑戦し、お客様に「夢」と「感動」をお届けできるよう、日々精進していく所存です。

<夏が待ち遠しくなる和菓子たち>

 若い世代の方々には、ぜひ和菓子の奥深い魅力に触れていただきたいと願っています。その繊細な味わい、美しい意匠、そして込められた職人の想いは、きっと皆さんの心を豊かにしてくれるはずです。そして、未来の和菓子職人を目指す若い力が、この素晴らしい伝統を受け継ぎ、さらに発展させてくれることを心から願っています。

 和菓子は、単なるお菓子ではありません。それは、日本の文化、歴史、そして人々の心を映す鏡のような存在です。私たちは、そのかけがえのない宝物を未来へと繋いでいくために、情熱と創造力を胸に、歩み続けていきます。
 

夢菓子工房ことよ
 代表取締役 岡本伸治

 (店名の「ことよ」とは「よろず」とおなじ意味で「あらゆるもの・なんでも」という意味があり初代が岐阜のお寺の住職につけていただいた屋号です。和菓子修行を終えて帰ってきた3代目の私が夢あるお菓子を想像し提供していきたいという思いから「夢菓子工房ことよ」とさせていただきました。)

 〒510-0943 三重県四日市市西日野町4987-1
         
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