REPORT
デンマークにおける有機畜産の拡大と取り組み
最終更新日:2026年1月5日
広報webマガジン「alic」2026年1月号
有機(オーガニック)畜産とは、化学肥料や農薬を使わずに育てた有機飼料を与え、家畜(動物)が自然な行動をとれる環境で、健康的に過ごせるように配慮する畜産
(注1)です。ヨーロッパでは有機畜産の拡大を進めていますが、その中でもデンマークは特に拡大が進んでいます。スーパーに並ぶ牛乳の約4割が有機製品であるなど、EUの中でも有機製品の市場シェアはトップ、2023年には11.8%に達しました。その背景には、長年の取り組みと工夫があります。
(注1)EUの有機規則(2018/848)に基づく畜産の考え方。
<ヨーロッパ北部にあるデンマーク。面積は約4.3万平方キロメートルで、日本の九州とほぼ同じ大きさです。>
有機市場拡大を支える仕組み
デンマークでは、1989年に赤い「Ø」マークの有機認証ラベルが導入されました。国が管理するこのラベルは30年以上続いており、国民の認知度はほぼ100%となっています。消費者の8割が有機食品を購入した経験があり、6割以上が毎週購入しているという調査結果もあります。
外食でも有機食材を選べる仕組みがあります。「オーガニック・キュイジーヌ・ラベル」という制度で、有機食材の使用割合に応じて、金・銀・銅の3段階で認証します。デイケア施設や社員食堂など、登録施設は3500件を超えており、こうした取り組みによって、日常の中で有機食材を選ぶ機会が増えています。
また、価格も重要な要素です。有機牛乳の価格は通常の牛乳の約1.1倍となっており、消費者が選びやすい水準になっています。これは、生産コストの差が小さいことに加え、取扱量の拡大で物流網が通常品と統合され、価格差が抑えられているためです。加えて、有機事業者には販売データの報告が義務付けられており、政府はその情報を分析して改善策を検討しています。このような地道な取り組みが、長く続く信頼を支えています。
生産面での工夫
有機畜産では、1頭当たりの生産性が低くなる傾向にあることに加え、放牧や有機飼料の使用など、動物の自然な行動を尊重するための条件が求められます。そのため、広い農地や一定量の自給飼料を確保することが必要となり、通常に比べて相対的にコストが上昇します。酪農は、デンマークの自然環境で栽培しやすい牧草を活用できるため比較的転換しやすく、有機牛乳の市場シェアは40%超に達しています。一方、養豚は有機飼料の確保が容易ではないことや、屋外アクセスなど追加の飼養管理が必要なことなどから、有機豚肉の市場シェアは1%程度にとどまっています。
こうした状況を踏まえ、生産者はさまざまな工夫をしています。一例を挙げると、ある酪農家では搾乳ロボットや牛群データ管理を導入し、省力化と持続可能性を両立しています。ある有機養豚農家は、放牧を行いつつ
(注2)、夏は泥浴び場で遊べるように、冬は小屋に藁を敷くなど季節に合わせた豚の自然な行動を促し、健康管理と生産性のバランスを取っています。また、自給しやすいイネ科牧草や穀物ではたんぱく質が不足しやすく、現在は輸入大豆により補っていますが、クローバーなどのマメ科牧草からたんぱく質を抽出する研究が進められ、輸入に頼りすぎない仕組みを目指しています。
(注2)完全な放牧はデンマークでも珍しく、屋外運動場や藁敷き床で対応する例が一般的です。
課題と今後の方向性
有機畜産は、広い農地や放牧できる環境が必要になることが多く、日本で同じやり方をそのまま取り入れるのは、難しい側面もあります。しかしながら、デンマークの事例は、選びやすさ、信頼、データに基づく工夫が市場を育てる鍵であることを示しています。
一方で、デンマークでは近年、インフレによる物価上昇や家計負担の増加に加え、世代交代に伴う有機への認知度の低下が課題となっています。今後、現地では、有機農業に取り組む生産者への経済的支援や技術開発への投資、公共施設や外食での利用促進、さらに消費者が有機食材を身近に感じられる情報発信などが進められる予定となっています。
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