(3)25年のトウモロコシ需要と輸入動向
ア 需要の動向
2025年のトウモロコシ需要を概観するに当たり、まず、7月までの需要動向を確認したい。需要を反映する25年7月下旬までの産地平均卸売価格を見ると、24年12月以降は価格は安定しつつもやや上昇していた(図4)。
25年7月時点の現地報道によると、注目すべき点として、工業用加工企業の原料購入価格も上昇したとされており、これは末端消費の回復を反映していたとみられる。また、価格変動の要因として、次の点が挙げられている。
・国内市場:養豚生産の回復や家きん類の飼養羽数の増加により飼養需要が増加
・工業用需要:コーンスターチやアルコール生産が活発
・国際市場:米国のトウモロコシ生産量は減産見通しなどにより国際価格が高位で推移
・政策:在庫調整・流通監督の強化、GMトウモロコシ輸入の厳格化
こうした状況から、25年7月時点で中国国内のトウモロコシ需給はややタイトとされ、価格は上昇基調にあった。また、米中貿易摩擦による追加関税の影響で米国産のトウモロコシ輸入が減少したことも、供給がタイトになった一因である。
いずれにしても、25年7月頃の中国国内のトウモロコシ需給がややタイトな状態を保持し続けることができているのは、政府によるトウモロコシ流通の秩序ある管理・監督が有力な一因と言える。
もともと、中国のトウモロコシ需給はここ数十年来ずっと「ややタイトな均衡」という状態が続いてきている。このため、
(T)需給全体の方向が少しでも「ややタイト」に振れると、トウモロコシ価格は上昇し、輸入量が増加して価格を冷やすということになる。
(U)需給全体の方向が「均衡」に振れると、需給がそれほど緩まなくてもやや供給過剰の雰囲気が出現し、トウモロコシの在庫圧力を感じ始めて、価格は下落傾向を呈する。価格下落が続くと、まず在庫の備蓄用トウモロコシが大量に放出され、トウモロコシ輸入量が激減するため、やがて価格は下げ止まって上昇に転じる。
といった動きを7〜12年ぐらいの周期で繰り返すことになる。
25年の後半は、まさに(T)であり、需給全体がややタイトな方向に振れて、価格上昇が続いている。この状態は、24年から25年初めにかけてトウモロコシ価格の下落が続き、生産農家のトウモロコシ生産意欲の低下が懸念されていたことに比べると、逆の状況が出現したことになる。トウモロコシ需給がタイトになりつつあったことで、トウモロコシ生産者と農政当局は大いに安堵したのではないかと想像させられる。
イ トウモロコシの輸入動向
最近の中国のトウモロコシ輸入の動向について、図5に年度別・月別の輸入数量の推移を示した。中国のトウモロコシ年度は10月から翌年9月までであり、ここでは2022/23年度以降の動きを追ってみた。
これを見ると、24/25年度の各月の輸入量が明らかに過去2カ年度と比較して大きく減少しており、期首の10月以降、すべての月で下回っている。過去2カ年度では、多くの月で輸入数量は100万トンを超えていたが、24/25年度は最高でも30万トン台、複数の月では数万トンの輸入量という状態にある。
次に表2では、各年度のトウモロコシの輸入数量を示した。24/25年度の輸入数量は、前年度比92.2%減の184万トンと大幅に減少した。中国のトウモロコシ輸入量は21/22年度に2000万トン台へと急増し、日本を抜いて世界1位のトウモロコシ輸入国となった。その後も、毎年1500万トンを超える水準の輸入を続けて来た中で、24/25年度の輸入数量の激減は、一見すると特異な動きという印象を受けざるを得ない。
ではなぜ、24/25年度の輸入数量がこれほど激減してしまったのか。これについては、中国の国内事情もさることながら、いわゆる「トランプ関税」などをめぐる中国と米国との間の貿易摩擦が挙げられる。
この貿易摩擦に関するトウモロコシの関税について、25年5月の中国現地報道を基に、具体的な関税の状況とその影響を報告する。
中国と米国双方による共同声明により、中国側は米国からの輸入に課していた125%の追加関税措置を撤廃したが、追加措置の一部として15%と10%関税を保留しているため、米国産トウモロコシに対しては合計25%の追加関税が残された。このため、輸入関税割当内、割当外の関税は次の通りとなる。
〇 輸入関税割当数量内(720万トン)の輸入関税
1%+15%+10%=26%
〇 輸入関税割当数量外の輸入関税
65%+15%+10%=90%
このため、結果として米国産トウモロコシについて、輸入関税割当数量内の輸入関税が1%から26%へと、大幅に引き上げられたことになる。
この二国間交渉の結果だけを見ると、輸入関税の事実上の引き上げのみが、米国からのトウモロコシ輸入を激減させる要因となったような印象を受けてしまうが、実際には、中国の米国産トウモロコシ輸入量は24年第2四半期ごろから減少していた。
これについて25年8月の中国現地報道で、中国のトウモロコシ輸入先の多角化方針について解説している。この記事によると、中国が米国産トウモロコシの輸入量を削減し、輸入先の多角化を図るようになったのは、23年の米国下院議長の台湾訪問に対する対抗措置として、米国産トウモロコシの輸入契約破棄に始まったものであり、中国国内のトウモロコシ需給動向とはまったく関係のない、二国間の政治的措置の結果とされている。ただし、この背景には、中国政府が18年の米中貿易摩擦を受けて、食料の輸入先の多角化や国内生産強化など食料貿易政策の見直しを進めていた中で、21年から開始した「国民経済・社会発展第十四次五カ年計画(注5)」において、これらの具体的目標が定められ、その成果を収めていたことが挙げられる。また、23年は米国、中国に次ぐトウモロコシ生産大国であるブラジルが増産となり、同国がトウモロコシ輸出の拡大を目指していたことも、中国にとっては都合の良い新たな輸入環境の出現となったこともある(注6)。
(注5)中華人民共和国は建国以来5カ年計画によって政策を推進しており、同国の経済および社会の発展に係るスローガンとして、2021年から25年までを第十四次五カ年計画期間としている。
(注6)中国政府は2023年1月、初めてブラジル産トウモロコシの輸入を開始している。
さらに、23年4月には、中国農業農村部がGM農産物の管理監督に関する「方案(注7)」を制定している。この「方案」の趣旨は、「中国生物安全法」と「中国種子法」に基づき、生物育種産業の健全な発展を保障するために、生物育種産業チェーン全体の管理監督を強化し、生物育種に関する研究・開発・応用の規範化を促進して、違法な種子生産行為などを取り締まるもの、とされている。この「方案」は、GMトウモロコシの生産が主体となる米国産を念頭に置いたものとみられるが、米国以外にもブラジルでのGMトウモロコシの生産も多く、輸入量が多いウクライナ産トウモロコシの一部はGMトウモロコシに転換しているとされている。このため、中国がすべての輸入トウモロコシに対して輸入検査を強化すると、米国産以外のトウモロコシ輸入量にも影響する可能性があり、トウモロコシ全体の輸入制限にはなっても、輸入先の多角化にはつながらないことになる。現地関係者の見方からしても、おそらく輸入検査を強化しているのは米国産トウモロコシとみられる。
(注7)『2023年農業遺伝子組換え生物管理監督工作方案』という文件であり、これは日本での行政官庁が発出する通達に相当する文書である。
加えて、25年には「トランプ関税」に対する対抗措置の一つとして、すでに締結していた米国産トウモロコシの輸入契約を破棄し、輸入量を削減させた。この輸入契約の破棄については、輸入者が国有企業の場合は政府の命令があれば廃棄の手続きを取らざるを得ないが、輸入者が民間企業の場合は政府による一方的かつ強制的な破棄はできない。このため、GM農産物検査の厳格化という理由で、さまざまな追加検査や追加資料を要求することで、輸入契約を履行できない状態に追い込まれ、やむなく輸入契約を破棄せざるを得ないという状態になっているとみられる。民間企業による輸入は、中国が世界貿易機関(WTO)への加盟交渉時の加入条件として約束した中国のトウモロコシ輸入に関する関税割当数量(第一次関税適用分)720万トンのうち、半数の360万トンが国家貿易(国有企業による輸入)によるものであり、残りの360万トンが民間企業の輸入によるものに基づくものとなる。このような措置により、24年後半から中国のトウモロコシ輸入量は激減し、25年も輸入量が激減したままの状態が続いている。
これまでは、中国政府のトウモロコシ輸入方針として、関税割当数量である720万トンを毎年の輸入量の上限とするというのが基本とされていたようであるが、ここ数年は720万トン以下に輸入量を抑えることができなかった。それが、24年後半からは今までにはないような強引とも言える措置により、一気にトウモロコシの輸入量を720万トン以下に抑え込んだ。米国の貿易政策を契機に、中国政府のトウモロコシ輸入に対する措置が、25年の国内トウモロコシ価格の動きにつながる一因と言えるのかもしれない。
(4)25年の消費動向
最近の中国のトウモロコシ消費動向として、消費量全体の65%を占める飼料に関し、中国農業農村部が毎月公表する「農産物需給動向分析月報」の内容を踏まえると、養豚の生産調整により飼料需要が減退している中で、全体的にはトウモロコシの需要が戻りつつあるように見える。ただし、主要飼料価格は安定しており、今後も安定して推移するとされている。この飼料価格の安定は、飼料需要を左右する養豚の生産調整により需要が減退しているにもかかわらず、大きな変化に見舞われていないということを表している。言い換えれば、現在の中国の飼料需給が緩やかに縮小均衡の方向に進んでいるとの政府の見方を表わしたものであるかもしれない。