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海外情報 中国のトウモロコシ需給 畜産の情報 2026年4月号

2025年の中国のトウモロコシ需給動向 〜輸入量の低下で需給は均衡化〜

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調査情報部 横田 徹、山ア 葵
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【要約】

 中国のトウモロコシ生産量は2025年に初めて3億トンを突破し、増産傾向が続いている。一方、輸入量は2024/25年度に大幅に減少し、米国産の輸入縮小や関税政策が影響したとみられる。国内価格は例年並みの変動を示しつつ、需給は「ややタイトな均衡」を維持している。飼料需要は回復傾向にあるが、全体的には縮小・均衡に向かうとの見方もある。今後は政策支援や市場動向が価格と生産意欲に影響を与える可能性が高くなっている。

1 はじめに

 最近の中国のトウモロコシ需給を見ると、生産量については2021年以降、毎年増加が続いている。24年以降、前年在庫の積み増しや増産の影響によるものなのか、輸入量は明らかに減少している。また、国内需要を反映するトウモロコシ価格は、例年8月頃まで上昇し、新穀の収穫が始まり市場への供給が増える10月以降に下落する傾向がある。直近の動きを見ると、24年7月頃から下落し、25年に入って再び上昇、10月には再び下落に転じている。この動きは例年の範囲内であったと言えるが、25年は24年ほど大きく下落していないことから、輸入数量の減少が価格を下支えしているとみられる。
 これまで中国のトウモロコシ需給は「ややタイトな均衡」(中国政府関係者が中国の食糧作物全体の需給状況を評価する言葉)の状態が続いているとされてきた。しかし、生産量が増加する中で、この状況が今後も続くのか、また、輸入量は引き続き減少するのかが注目される。トウモロコシをはじめとした中国の穀物輸入量は、その規模の大きさから世界の穀物相場に影響を与える要因とされており、その動向は国際市場にとっても重要である。
 本報告では、22年6月および24年10月の中国のトウモロコシ需給報告(注1)に続き、25年の中国のトウモロコシ需給の状況について、現地報道などを交えて整理する。
 なお、本文中の為替相場は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2026年2月末TTS相場の1中国元=23.01円を使用した。
 
(注1)『畜産の情報』2022年6月号「最近の中国のトウモロコシ需給の動向」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002230.html)および2024年10月号「国際相場を左右する中国トウモロコシ需給動向〜2023年の回顧と2024年の展望〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003432.html)をご参照ください。

2 トウモロコシの需給動向

(1)主な生産地

 初めに、地域別のトウモロコシ生産概要(2023年)を説明する。中国では、トウモロコシはコメ、小麦と並ぶ主要穀物の一つであり、全国的に広く生産されている。中でも東北部の黒龍江こくりゅうこう省(生産量4379万トン)、吉林きつりん省(3376万トン)、内モンゴル自治区(3180万トン)が主要な生産地域である。これら3省・自治区に、年間生産量2000万トン以上の省を加えると、国内のトウモロコシ生産量の7割を占める(図1、2)。近年は、雲南うんなん省や新彊しんきょうウイグル自治区(注2)といった地域でも生産量が伸びている。

(注2)新彊ウイグル自治区は、中国の中でも特にトウモロコシの生産余力がある地域とされており、輸送コストが改善されれば、さらに生産が伸びるとみられている。
 
  
   


 
 
 

(2)25年のトウモロコシ生産

 中国国家統計局は2025年12月12日、同年のトウモロコシ生産量が3億124万トンとなり、初めて3億トン台に到達したと発表した。主要トウモロコシ生産国の中で、生産量が3億トン台を超えるのは米国(25/26年度予測:4億3234万トン(注3))に次ぐ規模となる。
 
(注3)米国農務省が公表する「World Agriculture supply and Demand Estimates」2026年2月10日公表の2025/26年度生産予測値。
 
 過去10年間のトウモロコシ生産量の推移(図3)を見ると、17年に初めて2億5000万トンを突破して以降、21年までは生産が横ばいまたは減少の状態が続いた。この時期はトウモロコシ需給が「ややタイトな均衡状況」とされ、年間生産量にも匹敵する規模ともいわれた膨大な国内のトウモロコシ在庫の消化には適した状態であったと考えられる。この間のトウモロコシ価格は、在庫の取り崩しなどにより緩やかに推移していた。
 しかし、18年に発生したアフリカ豚熱により激減した豚飼養頭数が急速に回復する過程でトウモロコシの飼料需要が増加し、さらに主産地の天候要因による減産見通しが重なったことから、20年後半以降の価格は大きく上昇した。業界関係者によると、飼料需要の増加と減産予測を受けて、潤沢とみられていたトウモロコシ在庫が速いペースで減少したことも価格上昇の要因ともされている。この価格上昇を受け、トウモロコシ生産量は再び増加に転じ、22年には2億7000万トンを突破し、飼料を中心に需要が高まる中で、その後も増加を続けていた。
 
    

 
 主要生産地域である東北部では、播種はしゅ期が4月下旬〜5月上旬、収穫期が10月上中旬となる。このため、7月上中旬ごろの開花・出穂期の生育状況で作柄がある程度見通せるとされている。
 これを踏まえて当初は、25年のトウモロコシ生産は前年度並みか、やや下回ると見込まれていた。25年7月の現地報道によると、一部のトウモロコシ主産地での高温や豪雨により場管理が厳しく、黒龍江省など一部地域では減産が懸念されていた。
しかし結果として、25年のトウモロコシ生産量が3億トン台を超える増産と発表された要因には、次のア、イが挙げられる。
 
ア 作付面積と単収
 中国国家統計局によると、2025年のトウモロコシの播種面積は6億7400万ムー(4493万ヘクタール(注4)、前年比0.5%増)と3年連続での増加が報告されている。通常、トウモロコシと大豆は作付けが競合し、大豆増産政策の影響により、トウモロコシの作付面積は維持または減少する傾向がある。しかし25年は、1)耕作地の保護・地力向上、2)耕作地の集約化による生産規模の拡大、3)耕作放棄地の再生利用とその拡大−などが、トウモロコシを含めた穀物全体の作付面積拡大につながったとしている。また、一部で進められているトウモロコシと大豆の複合栽培(コラム1参照)も少なからず寄与したとみられる。
 また、単収は1ムー当たり446.7キログラム(1ヘクタール当たり6700キログラム、同1.6%増)とされている。25年のトウモロコシの生産状況について同局農業部長は、干ばつや洪水などの影響はあったものの、天候に恵まれた地域が多かったことや、生産に適した環境となったことが増産につながったとしている。業界関係者によると、政府により商業利用が認められた遺伝子組み換え(GM)品種の導入や栽培技術の改善も単収増に寄与したとされている。
 
(注4)1ムーを0.066667ヘクタールで換算。数値は中国国家統計局の発表であるため、表1の中国農業農村部公表の作付面積とは若干の差異がある。
 
 表1に具体的な状況を把握しやすいよう、中国のトウモロコシ作付面積、単収、生産量の推移を示した。
 



 
 
イ 政策と技術による支援
 中国政府は2025年、トウモロコシなど穀物備蓄費用として中央政府の予算を前年から約6%拡大(約1317億元、約3兆304億円)し、農業保険への支援(コラム2参照)も強化した。また、優良品種の普及、高密植、機械化、衛星などを活用したデジタル農業などの技術支援が進展したことも単収の向上に寄与したとみられる。
 このほかにも、トウモロコシのほかコメ、小麦、大豆など主要な食糧の増産を強く推進し生産量7億トンを堅持するとの基本方針やそれを支える食糧安全保障法の施行(24年6月)、近年、農業施設の高度化に対する政策支援が増えたこと、また、中国経済の減速が伝えられる中で、都市部への出稼ぎ労働者が一部農村に戻り農業生産に回帰したことも、生産増を後押しした可能性がある。

コラム1 トウモロコシと大豆の複合栽培

 中国政府による大豆増産政策を受けて、国内各地ではさまざまな取り組みが進められている。2025年9月、山東さんとう省の西側内陸部に位置する徳州とくしゅう市で行われているトウモロコシと大豆の複合栽培を調査した。同市は、古くからトウモロコシ栽培に適した地域とされ、4〜10月は主にトウモロコシ、11〜3月は小麦を栽培する二毛作が一般的に行われている。しかし近年は、大豆の増産政策を受けて、トウモロコシと大豆の複合栽培に取り組んでいる。
 大豆の主産地である吉林省や黒龍江省とは異なり、同市の農地面積が限られていること、かつ、主要産品であるトウモロコシの生産量維持が求められたことから、連作障害が起きやすい大豆を一般的な作付け体系に組み込むのは大きな課題とされた。そこで、同市の政府(研究機関)は、20年前から四川しせん省ですでに行われていたトウモロコシと大豆の複合栽培を参考に、2017年に同地域内で複合栽培試験を開始し、22年には商業栽培に到達している。
 複合栽培は、主に二つの作付方式があり、大豆とトウモロコシを6条:4条(4:2モデル)または4条:2条(6:4モデル)でそれぞれ作付けている(コラム1―写真1)。この栽培方式の課題を克服するため同市の研究機関は、1)大豆がトウモロコシの日陰に入らないよう、日照の方角に合わせてうねを整備、2)一部の大豆はトウモロコシの日陰に入ることが避けられないため、大豆の品種は少ない日照時間でも成長できるものを選抜・試験、3)トウモロコシの品種は、葉が広がりすぎず、草丈がより低いものを選定−などの対応や複合栽培に適した品種改良を行っている。
 
 
 
 二つの作付方式のどちらを採用するかは、複合栽培に取り組む生産農家が保有している機械によって決定することが可能となっている。4:2モデル(コラム1―写真2)は、合計6条であるため異品種が同時に作付け可能な大型機械1台で対応できる一方で、6:4モデルのような合計10条となる場合、大豆とトウモロコシ別に二つの機械を使い分ける必要があることで、人件費や機械維持費がかさむデメリットがある。また、単一栽培に比べて、複合栽培は生産農家の負担が増加することは明らかである。このため、調査時点(25年9月)では政府による補助・支援が行われており、中央政府からは1ムー当たり150元(3452円)、省政府からは同50元(1151円)がそれぞれ補助され、市からは大豆の種の無償支給が行われている。
 
 
 複合栽培が行われている農地におけるトウモロコシの単収は、1ムー当たり350キログラム(1ヘクタール当たり5250キログラム)であり、全国平均の同250キログラム(同3750キログラム)を大きく上回っている。聞き取りではあるものの、この栽培方式は、同一の畑地内で、毎年トウモロコシと大豆の作付場所が交互に入れ替わることで大豆の連作障害を防ぐとともに、トウモロコシの単収向上に寄与していると予想される。ただし、同市で商業栽培としてトウモロコシと大豆の複合栽培を行っている農地面積は40万ムー(3万ヘクタール)と、同市のトウモロコシ栽培面積の約5%にとどまっており、政府などによる支援が欠かせない状況であることから、複合栽培の拡大には一定の時間を要するとみられる。

コラム2 中国政府による農業保険への支援

 2025年2月に発布された中央一号文件(コラム2―注1)において、中国共産党・同国政府の方針として農業保険の拡充・強化が打ち出された。なぜ今、これを拡充・強化しなければならないのか。それは、中国のトウモロコシを含めた食糧作物の生産が大きな転換点に差し掛かっているためである。つまり、食糧作物は毎年少しずつ増産を続けており、生産量は着実に増加している。しかしながら、着実な生産量の増加は価格の下落にもつながることを意味している。当然ながら、価格の下落が続くと生産農家の増産意欲を失わせ、他の商品作物への転換や、食糧作物の耕作そのものを放棄するということが発生する。
 トウモロコシの場合は、コメと小麦で行われている最低買入価格制度のような価格保障制度として、08年の世界的な金融危機後の価格下落を受けて同年から「臨時備蓄用トウモロコシ価格買入措置」が発動された。その後も毎年、同制度の発動が継続したことで、トウモロコシ生産農家の増産意欲が向上し、作付面積および生産量は増加、15年には生産量が2億6500万トンにまで拡大した。しかし、この間に膨大な在庫も発生し、農家からの買入価格が加工企業などに対する販売価格に比べて高いという逆転現象(逆ザヤ)が生じるなど、政府の財政負担が過重となった。この結果、15年9月には初めて同措置の買入価格を引き下げ、16年3月には同措置を廃止する改革を行い、トウモロコシに対する政策的措置を「買入価格の保証」から「市場価格による買入」と「補助金の支払」に改めた。これにより、トウモロコシ価格は完全に市場化され、需給動向が価格を決定することになり、生産農家に対する増産のインセンティブは、実質的に政府の補助金のみとなっている。このため、25年の中央一号文件では、今後のトウモロコシ生産に対する新たな政策的措置の公表が期待されており、具体的にはすでに実施されている農業保険の活用となった。ただし、農業保険の中でも、特に将来的な課題として収入保険が強調されている。
 

 
 具体的に見ると、農業保険への加入面積の増加と掛金に対する県政府補助を増加させ、農民の掛金負担比率を低減させることを推奨している。ここでの農業保険とは、(@)完全コスト保険と(A)作付収入保険と呼ばれる保険である。
(@)完全コスト保険は、生産コスト全額が補償の対象範囲であり、家族労費など間接的な生産費は含まれていない(コラム2―注2)
(A)作付収入保険は、作付した作物の生産量から想定される収入額を補償の範囲としている。
 農政当局は、最終的には作付収入保険に集約させたいと考えている。しかし、現状では課題も多く、農民への理解が十分に醸成されていないことなどにより、全体の加入率は進んでいない。
 中央政府によるトウモロコシを含む耕種業の農業保険の掛金の補助率は、東部地区35%、中西部・東北地区45%、省級財政(省政府の行う政策的補助)による農業保険の掛け金への補助率は25%が一般的とされている。ただし、掛け金に対する補助率は明記されているものの、具体的な掛け金額が示されていないため、補助金額は不明である。
 さらに、政策的農業保険の引き受けを行っているのは、すべて民間の商業保険会社である。政府は、民間の保険会社が行っている商業的農業保険の掛金に対して補助金を支出している。しかし民間の商業保険会社は、保険金の全額を速やかに支払っていないことに加え、不払いや減額など、農民への対応は不十分とされている。
 また、作付収入保険の掛け金の算定の基礎となる収入額は、農産物の先物価格により決定されるが、先物価格を予測する機能そのものが不完全であることに加え、先物と現物の市場価格で乖離かいりが発生しており、農民は実際の収入に沿った補償を受けることができていない。
 前途は多難であるものの、公的財政からの補助金支出をさらに増加させるなどによって、これらの問題点が克服される可能性は高く、今後の政府の力の入れ方次第では、中国の農業保険が今後もさらに拡大的発展を遂げることは可能であると予想される。
 
(コラム2―注1)中国政府が毎年旧暦の元日(春節。2025年は1月29日)が過ぎてから公表するものであり、その年に最も重視される政治課題が取り上げられるとされる。
(コラム2―注2)保険金によって保障される対象範囲が生産コスト全額という意味であり、このコストは物財費に雇用労賃と借地代を含めた生産費で、実際に支払った費用の合計という性格のものである。ただし、家族労働費、資本利子などの間接的な費用は含まれておらず、本当の意味での再生産が可能な生産費とはなっていない。

(3)25年のトウモロコシ需要と輸入動向

ア 需要の動向
 2025年のトウモロコシ需要を概観するに当たり、まず、7月までの需要動向を確認したい。需要を反映する25年7月下旬までの産地平均卸売価格を見ると、24年12月以降は価格は安定しつつもやや上昇していた(図4)。
 

 
 25年7月時点の現地報道によると、注目すべき点として、工業用加工企業の原料購入価格も上昇したとされており、これは末端消費の回復を反映していたとみられる。また、価格変動の要因として、次の点が挙げられている。
 
・国内市場:養豚生産の回復や家きん類の飼養羽数の増加により飼養需要が増加
・工業用需要:コーンスターチやアルコール生産が活発
・国際市場:米国のトウモロコシ生産量は減産見通しなどにより国際価格が高位で推移
・政策:在庫調整・流通監督の強化、GMトウモロコシ輸入の厳格化
 
 こうした状況から、25年7月時点で中国国内のトウモロコシ需給はややタイトとされ、価格は上昇基調にあった。また、米中貿易摩擦による追加関税の影響で米国産のトウモロコシ輸入が減少したことも、供給がタイトになった一因である。
 いずれにしても、25年7月頃の中国国内のトウモロコシ需給がややタイトな状態を保持し続けることができているのは、政府によるトウモロコシ流通の秩序ある管理・監督が有力な一因と言える。
 もともと、中国のトウモロコシ需給はここ数十年来ずっと「ややタイトな均衡」という状態が続いてきている。このため、
 
(T)需給全体の方向が少しでも「ややタイト」に振れると、トウモロコシ価格は上昇し、輸入量が増加して価格を冷やすということになる。
(U)需給全体の方向が「均衡」に振れると、需給がそれほど緩まなくてもやや供給過剰の雰囲気が出現し、トウモロコシの在庫圧力を感じ始めて、価格は下落傾向を呈する。価格下落が続くと、まず在庫の備蓄用トウモロコシが大量に放出され、トウモロコシ輸入量が激減するため、やがて価格は下げ止まって上昇に転じる。
 
といった動きを7〜12年ぐらいの周期で繰り返すことになる。
 25年の後半は、まさに(T)であり、需給全体がややタイトな方向に振れて、価格上昇が続いている。この状態は、24年から25年初めにかけてトウモロコシ価格の下落が続き、生産農家のトウモロコシ生産意欲の低下が懸念されていたことに比べると、逆の状況が出現したことになる。トウモロコシ需給がタイトになりつつあったことで、トウモロコシ生産者と農政当局は大いに安堵したのではないかと想像させられる。
 
イ トウモロコシの輸入動向
 最近の中国のトウモロコシ輸入の動向について、図5に年度別・月別の輸入数量の推移を示した。中国のトウモロコシ年度は10月から翌年9月までであり、ここでは2022/23年度以降の動きを追ってみた。
 
 
 
 これを見ると、24/25年度の各月の輸入量が明らかに過去2カ年度と比較して大きく減少しており、期首の10月以降、すべての月で下回っている。過去2カ年度では、多くの月で輸入数量は100万トンを超えていたが、24/25年度は最高でも30万トン台、複数の月では数万トンの輸入量という状態にある。
 次に表2では、各年度のトウモロコシの輸入数量を示した。24/25年度の輸入数量は、前年度比92.2%減の184万トンと大幅に減少した。中国のトウモロコシ輸入量は21/22年度に2000万トン台へと急増し、日本を抜いて世界1位のトウモロコシ輸入国となった。その後も、毎年1500万トンを超える水準の輸入を続けて来た中で、24/25年度の輸入数量の激減は、一見すると特異な動きという印象を受けざるを得ない。
 

 
 ではなぜ、24/25年度の輸入数量がこれほど激減してしまったのか。これについては、中国の国内事情もさることながら、いわゆる「トランプ関税」などをめぐる中国と米国との間の貿易摩擦が挙げられる。
 この貿易摩擦に関するトウモロコシの関税について、25年5月の中国現地報道を基に、具体的な関税の状況とその影響を報告する。
 中国と米国双方による共同声明により、中国側は米国からの輸入に課していた125%の追加関税措置を撤廃したが、追加措置の一部として15%と10%関税を保留しているため、米国産トウモロコシに対しては合計25%の追加関税が残された。このため、輸入関税割当内、割当外の関税は次の通りとなる。
 
〇 輸入関税割当数量内(720万トン)の輸入関税
  1%+15%+10%=26%
〇 輸入関税割当数量外の輸入関税
  65%+15%+10%=90%
 
 このため、結果として米国産トウモロコシについて、輸入関税割当数量内の輸入関税が1%から26%へと、大幅に引き上げられたことになる。
 この二国間交渉の結果だけを見ると、輸入関税の事実上の引き上げのみが、米国からのトウモロコシ輸入を激減させる要因となったような印象を受けてしまうが、実際には、中国の米国産トウモロコシ輸入量は24年第2四半期ごろから減少していた。
 これについて25年8月の中国現地報道で、中国のトウモロコシ輸入先の多角化方針について解説している。この記事によると、中国が米国産トウモロコシの輸入量を削減し、輸入先の多角化を図るようになったのは、23年の米国下院議長の台湾訪問に対する対抗措置として、米国産トウモロコシの輸入契約破棄に始まったものであり、中国国内のトウモロコシ需給動向とはまったく関係のない、二国間の政治的措置の結果とされている。ただし、この背景には、中国政府が18年の米中貿易摩擦を受けて、食料の輸入先の多角化や国内生産強化など食料貿易政策の見直しを進めていた中で、21年から開始した「国民経済・社会発展第十四次五カ年計画(注5)」において、これらの具体的目標が定められ、その成果を収めていたことが挙げられる。また、23年は米国、中国に次ぐトウモロコシ生産大国であるブラジルが増産となり、同国がトウモロコシ輸出の拡大を目指していたことも、中国にとっては都合の良い新たな輸入環境の出現となったこともある(注6)
 
(注5)中華人民共和国は建国以来5カ年計画によって政策を推進しており、同国の経済および社会の発展に係るスローガンとして、2021年から25年までを第十四次五カ年計画期間としている。
(注6)中国政府は2023年1月、初めてブラジル産トウモロコシの輸入を開始している。
 
 さらに、23年4月には、中国農業農村部がGM農産物の管理監督に関する「方案(注7)」を制定している。この「方案」の趣旨は、「中国生物安全法」と「中国種子法」に基づき、生物育種産業の健全な発展を保障するために、生物育種産業チェーン全体の管理監督を強化し、生物育種に関する研究・開発・応用の規範化を促進して、違法な種子生産行為などを取り締まるもの、とされている。この「方案」は、GMトウモロコシの生産が主体となる米国産を念頭に置いたものとみられるが、米国以外にもブラジルでのGMトウモロコシの生産も多く、輸入量が多いウクライナ産トウモロコシの一部はGMトウモロコシに転換しているとされている。このため、中国がすべての輸入トウモロコシに対して輸入検査を強化すると、米国産以外のトウモロコシ輸入量にも影響する可能性があり、トウモロコシ全体の輸入制限にはなっても、輸入先の多角化にはつながらないことになる。現地関係者の見方からしても、おそらく輸入検査を強化しているのは米国産トウモロコシとみられる。
 
(注7)『2023年農業遺伝子組換え生物管理監督工作方案』という文件であり、これは日本での行政官庁が発出する通達に相当する文書である。
 
 加えて、25年には「トランプ関税」に対する対抗措置の一つとして、すでに締結していた米国産トウモロコシの輸入契約を破棄し、輸入量を削減させた。この輸入契約の破棄については、輸入者が国有企業の場合は政府の命令があれば廃棄の手続きを取らざるを得ないが、輸入者が民間企業の場合は政府による一方的かつ強制的な破棄はできない。このため、GM農産物検査の厳格化という理由で、さまざまな追加検査や追加資料を要求することで、輸入契約を履行できない状態に追い込まれ、やむなく輸入契約を破棄せざるを得ないという状態になっているとみられる。民間企業による輸入は、中国が世界貿易機関(WTO)への加盟交渉時の加入条件として約束した中国のトウモロコシ輸入に関する関税割当数量(第一次関税適用分)720万トンのうち、半数の360万トンが国家貿易(国有企業による輸入)によるものであり、残りの360万トンが民間企業の輸入によるものに基づくものとなる。このような措置により、24年後半から中国のトウモロコシ輸入量は激減し、25年も輸入量が激減したままの状態が続いている。
 これまでは、中国政府のトウモロコシ輸入方針として、関税割当数量である720万トンを毎年の輸入量の上限とするというのが基本とされていたようであるが、ここ数年は720万トン以下に輸入量を抑えることができなかった。それが、24年後半からは今までにはないような強引とも言える措置により、一気にトウモロコシの輸入量を720万トン以下に抑え込んだ。米国の貿易政策を契機に、中国政府のトウモロコシ輸入に対する措置が、25年の国内トウモロコシ価格の動きにつながる一因と言えるのかもしれない。
 

(4)25年の消費動向

 最近の中国のトウモロコシ消費動向として、消費量全体の65%を占める飼料に関し、中国農業農村部が毎月公表する「農産物需給動向分析月報」の内容を踏まえると、養豚の生産調整により飼料需要が減退している中で、全体的にはトウモロコシの需要が戻りつつあるように見える。ただし、主要飼料価格は安定しており、今後も安定して推移するとされている。この飼料価格の安定は、飼料需要を左右する養豚の生産調整により需要が減退しているにもかかわらず、大きな変化に見舞われていないということを表している。言い換えれば、現在の中国の飼料需給が緩やかに縮小均衡の方向に進んでいるとの政府の見方を表わしたものであるかもしれない。

 

3 おわりに

 中国農業農村部が公表する「中国農産物需給状況分析」によると、2025/26年度のトウモロコシ需給は、生産量は微増で、消費量はほぼ横ばい、輸入量が輸入関税割当数量内に収まるという、かなり低調な予測がなされている(表3)。

 
 この低調というのは、中国のトウモロコシ需給が全体的にゆっくりと縮小均衡に向かって行くのを感じさせるという意味である。コロナ禍以降の中国経済が、不動産バブル崩壊による景気減速や、内巻競争(注8)の社会問題化などにより、物価の上昇ペースが鈍化している現状では、悲観的な見方にならざるを得ないということかもしれない。ただし、このような予測は、生産の下振れや消費の上振れなどわずかな動きでも、今後のトウモロコシ価格の上昇につながる可能性が高く、生産農家に対する大きなインセンティブとなって、トウモロコシ生産量の拡大に結び付く可能性もある。おそらく行政当局の思惑も、この生産農家に対して増産へのインセンティブを与えるという点にあると思料される。
 今後のトウモロコシ価格のさらなる上昇を懸念している市場関係者からすると、この予測は、むしろトウモロコシの価格上昇を歓迎している行政当局の希望的な数値になっているのではないかとも考えられる。
 いずれにしても、現時点の予測では、25/26年度のトウモロコシ輸入量は低い水準にあり、これは中国の食料貿易政策の見直しの結果とも言えることから、トウモロコシに関しては、国際市場を左右した中国による輸入の影響は薄まりつつあるようである。
 
(注8)企業間の過当競争による価格競争が生じている状態。これにより、企業は収益悪化に直面している。