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分みつ糖工場の働き方改革に関する現状と達成に向けた取り組み

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最終更新日:2021年2月10日

分みつ糖工場の働き方改革に関する現状と達成に向けた取り組み

2021年2月




農林水産省 政策統括官付地域作物課 加工第1班 国内産糖係 
岡田(おかだ) (たく)()
 

【要約】

 平成31年4月1日に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に基づき、全業種を対象とした時間外労働の上限規制が導入されました。鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業については、施行後5年間の適用が猶予されたことから、令和6年3月までに時間外労働を単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする必要があります。

 鹿児島県、沖縄県の各工場においては、働き方改革に対応するため、長時間労働の削減などの取り組みが行われています。働き方改革の達成に向けた効果的な取り組みについて紹介します。

1.働き方改革とは

 平成31年4月1日に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に基づき、全業種を対象とした罰則付きの時間外労働の上限規制が導入されました。具体的には、時間外労働の上限について、月45時間かつ年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも単月100時間未満、複数月平均80時間かつ年720時間を限度に設定されました。これらの上限規制は大企業については31年4月1日、中小企業については令和2年4月1日より適用となっていますが、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業については5年間の猶予期間が設けられ、令和6年4月1日から適用となり、令和6年3月までに時間外労働を単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする必要があります。

2.砂糖製造業の現状

 鹿児島県および沖縄県における産地(各島)の製糖工場(図1)は、サトウキビ生産および関連産業とあわせて、地域の雇用・経済を支える重要な役割を担っています。サトウキビは収穫後、品質劣化が進むため、できるだけ早く工場に持ち込み搾汁する必要があり、各島で収穫されたサトウキビは各島で製糖し、粗糖の状態にしてから島外に輸送しています。

 製糖工場は島の雇用を支える側面もあり、構造上多くの人手を必要とする形で造られてきました。また、作業がサトウキビの収穫時期に集中する上、離島などの立地条件から労働力確保が難しく、少人数の社員と季節工による長時間労働を前提とした運営が常態化しており、中には月の時間外労働が150時間を超えている者もいます。

 働き方改革に対応し、長時間労働を是正するためにさまざまな検討、取り組みを進める中で製糖工場は島ごとに多くの課題に直面しています。中でも多くの島が抱える問題として、(1)製糖工場は製糖期間中(12月ごろ〜4月ごろの約5カ月間)、昼夜休みなく稼働するため夜勤が必要であり、2交代制では1日12時間労働となってしまい、恒常的に長時間労働が発生してしまうこと(2)一部の作業には難易度の高い資格や長年の経験が必要であり、その作業が可能な人材に交代要員が少なく、長時間労働が集中してしまっていること(3)昭和30年代に建設された工場も多く、多くの人員を必要とする施設や設備が用いられていること−があります。
 

3.働き方改革の達成に向けた取り組み

(1)農林水産省の支援事業

 農林水産省では平成29年度から製糖工場の働き方改革に対応した長時間労働の是正のための取り組みを支援しています。離島に立地する製糖工場は労働力を確保しにくいという状況にあるため、人員募集のみならず今いる人員の能力向上や工場の自動化などによる必要人員の削減など、働き方改革を達成するためには多方面からのアプローチが必要です。そのため、具体的には(1)コンサルタントなどの専門的な知識を持つ方による工場の人員配置や設備などの操業体制の検討・検証に対する支援(2)省力化・効率化に資する施設整備に対する支援−のソフトとハード、両面からの支援を行っています。

 ソフト面の代表的な取り組みとして、交代制勤務の見直しなどを含めた検討を行っています。これは主に2交代制を採用している工場で行われている取り組みで、現行の体制のままでは時間外労働の上限を超えてしまうため、3交代制や変形労働時間制の導入、3つのグループで2交代を行う3直2交代制の導入などさまざまな体制案を模索し、それぞれの問題点を洗い出し、実現可能性を検討しています。ほかには、製糖工場の工程(図2)ごとに長時間労働の原因となっている事案を洗い出し、それぞれに対応するための対策案の検討などを行っています。

 ハード面での代表的な取り組みとしては、さまざまな工程の操作、監視を行うことのできる集中制御室を整備し、各工程の設備に張り付き、手動で制御を行っていた人員を削減する取り組みがあります。また、今までは手動で行っていた操作を電動化や自動化して改良することなどで必要な人員を減らす取り組みも働き方改革を達成する上で効果の高いものです。
 

(2)各工場の対策の取り組み例

 各工場では農林水産省の事業などを活用し長時間労働の是正に向けた取り組みを実施しています。取り組み例についていくつか紹介します。

ア.多能工化の取り組み

 多能工化とはさまざまな作業が可能な作業員を育成し、人材の流動性を向上させるものです。

 製糖工場で時間外労働が多い要因の一つとして、特殊技能を持つ特定の人物が操業する上で欠かせないこと、その技能を持つ者の人数が少ないことが課題となっています。この課題の解決のために、(1)資格取得のための講習会やOBを呼んでの技術講習などを通じた職員の能力向上(2)資格取得者に対して給与面での優遇や正社員での登用などのインセンティブを用意することで、資格取得の意欲向上−の取り組みを行いました。これらの取り組みによって5人の職員が2級ボイラー技士免許を取得し、ボイラーと電気の管理が行えるようになったことで、人数の少なかったボイラー技術者の交代勤務が可能となりました。

イ.施設整備などによる必要人員を削減する取り組み 

 (1)集中制御室(写真1)を整備し、圧搾から分離までの各監視制御を1カ所に集約することでそれぞれに必要だった監視制御要員をより少ない人数に削減する取り組みがあります。

 整備前は各工程の制御装置の近くに1〜2人、合計10人ほどの配置が必要だったところ、集中制御室を整備することで5人ほどに減らすことができます。 


 

 (2)一定時間ごとに製品(粗糖)のサンプルを採取して水分量を測定する作業が必要であり、自動水分測定が可能なセンサーなどを設置することによってサンプリング作業を大幅に削減する取り組みもあります。

 整備前はサンプリング作業を行う職員が1人必要でしたが、整備後はほぼすべてのサンプリング作業が自動化され、職員1人分の作業が削減できます。

 (3)清浄工程で使われる石灰混和層(写真2)では定期的に付着したごみなどを洗浄する作業が発生しますが、ごみなどを自動で排出することができるように改良、整備することでこの洗浄作業を大幅に削減しています。

 整備前は104時間かけて行っていた清掃作業の8割が削減され、およそ83時間分の労働時間が削減できます。



ウ.労働環境を見直すことで長時間労働を是正する取り組み

 労務管理を徹底し、不必要な長時間労働を削減することと、労働時間が基準に迫るような職員に対して定時での退社を促すような取り組みで長時間労働を是正しています。定時での退社を促した場合、各工程で1人少ない状態での作業になってしまいますが、監視作業以外の先にできる作業を終わらせておくなどの工夫を行い、少ない人数での稼働を可能にします。

 また、農作業を行う期間や工場施設の洗浄を行う期間などを計画的に設定し、製糖を止めることで休日を作る取り組みも行っています。

4.最後に

 今回紹介した事業を活用することなどにより、すでに長時間労働を是正し、働き方改革を達成している工場もありますが、達成していない工場では人員不足や作業の集中、施設整備による省力化など解決すべき課題が残っています。それらの課題解決のために今回紹介したような、他の工場で行っている取り組みを進めるほか、島ごとの状況に応じて生産者や自治体と連携して地域一体となり働き方改革の達成に向けて、取り組みを進めていくことが重要です。
岡田 拓真(おかだ たくま)
【略歴】
平成27年農林水産省入省。
東海農政局総務部会計課(補助金係)、大臣官房秘書課(給付係)を経て、令和元年10月から政策統括官付地域作物課加工第1班(国内産糖係)にて、予算関係業務、砂糖品目における貿易協定等の国際交渉業務、製糖工場の働き方改革関係業務等を担当。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272