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砂糖と健康〜砂糖と甘味の疑問を解説〜(前編)

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最終更新日:2024年9月10日

砂糖と健康
〜砂糖と甘味の疑問を解説〜(前編)

2024年9月

東京海洋大学 学術研究院
海の研究戦略マネジメント機構
准教授 永井 幸枝

【要約】

 砂糖と甘味について、インターネットや健康・生活雑誌などに、明確でなくもやもやした情報がたくさんあり、何を信じればよいのか分からなくなることがあると思います。そこで本稿では、これらの砂糖に関するさまざまな疑問について解説します。今月号の前編では、砂糖とは何であり、どういう栄養なのか、日本人が砂糖を悪者にする理由を中心に説明します。また、後編(本誌2024年10月号掲載)では、生活習慣病と砂糖の関係、日本人の砂糖摂取の特徴、体に良い砂糖、悪い砂糖があるのかどうかを解説します。

1 砂糖とは何なのか?(砂糖の定義)

(1)砂糖って何?

 「砂糖」とは何なの?甘い粉で食品に甘味を付ける調味料?化学品なの?など疑問がいろいろあり、明確に簡潔に回答することはなかなか難しいものです。私は、「砂糖とは、原料植物から抽出して製造される調味料(食品)であり、主成分は植物の光合成によって作られるショ糖(スクロース)である」と説明しています。この定義によると、砂糖には、上白糖、三温糖、グラニュー糖、白ザラ糖、中ザラ糖、氷砂糖、黒糖、ココナッツシュガー、メープルシロップなどがあり、すべて主な成分はショ糖ですが、含まれるショ糖、ブドウ糖、果糖などの成分割合が異なります(表、図1)。表に記載されていないアミノ酸、ラフィノースなどの糖質、ポリフェノールなど他の成分を含む砂糖もあります1)

 似たような例として、かつお節を煮出して(熱水抽出して)できる「かつおだし」といううま味調味料(食品)には、そのうま味成分である「イノシン酸」が含まれますが、かつおだしには他にタンパク質、アミノ酸やナトリウムも含まれています。また、「食塩」は調味料でありその主成分は「塩化ナトリウム」ですが、他にマグネシウムやカリウムも含まれています。



 
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(2)砂糖の原料植物

 世界で消費される砂糖の原料植物はほとんどがサトウキビとてん菜なのですが、他にヤシ、カエデ(メープル)などもあります。一般にパームシュガー、ココナッツシュガーと呼ばれているヤシ糖ですが、ヤシの花序(花のつぼみの集まり)を切り落とし、ここから出てくる樹液を煮詰めて作ります。ココナッツシュガーもココナッツの実から作るわけではなくパームシュガーと同様に作られ、果糖ではなくショ糖が主な成分です。また、メープルシュガーやメープルシロップはカエデ糖と呼ばれますが、主にカナダのケベック地方でサトウカエデの樹液を煮詰めて作られます。これらの樹液を煮詰めたものは、ショ糖が主成分の砂糖です(図1)。一方で、多肉植物から採るアガベシロップは果糖が主成分、はちみつはブドウ糖と果糖が主成分であり、砂糖ではありません。

2 なぜ日本人は砂糖を悪者にしているのか

 砂糖は漂白しているの?砂糖は酸性食品で骨を溶かすの?虫歯の原因になるの?肥満の原因になるの?などの疑問やうわさがあります。このような疑問については、独立行政法人農畜産業振興機構のホームページなどで答えを見つけることができますが2)3)4)、そもそもなぜ日本人は、砂糖を悪者にしているのでしょうか。

(1)砂糖は体に悪いのか?

 砂糖は薬として奈良時代に遣唐使(鑑真(がん じん)という説もあります)が日本に持ってきたといわれており、このころは体に良いものとして扱われていたはずです。体に悪いといわれるには、いくつかのきっかけがあったのです。

 まず、1890年ごろスイスのバーゼル大学の生理学者であるグスタフ・フォン・ブンゲ教授が、食品を燃やして残った灰を水に溶かし、酸性になるかアルカリ性になるかで食品を分類しました2)5)。現在の栄養学では無くなった理論です。日本では1871年に肉食禁止令が解禁されたのですが、これに反対する人たちがこの理論を利用して、「肉や砂糖は酸性食品、体に悪い」と言い始めました。

 次に太平洋戦争中の戦時体制の食糧難では、「ぜいたくは敵」として十分に配給できない砂糖を悪者にすることで国民に我慢させました。その後、高度経済成長時代に一気に砂糖の消費量が増えたため、昭和50年代に中学生の校内暴力についても子供がキレるのは砂糖のせい、心臓病になるのも砂糖のせいというさまざまな理論が出てきました。これらの説は、まだ現代のように栄養学が発展していない時代に大学の教授たちにより広められたため、一般の人には信ぴょう性が高く映ったのだと思います。

 共通して言えるのは、「社会不安があるときに何か(悪者)のせいにしてしまいたい」ということだと思います。経済的に豊かでない時代には砂糖はぜいたく品であり、現在のように食品が豊富にある時代には安い栄養源だから食べ過ぎて太って生活習慣病の原因になるという、批判対象や指標になりやすい食品なのです。

(2)日本人の道徳観・罪悪感

 砂糖や甘いものが悪いと考える理由には、日本人特有の道徳観があると思います。日本では良いことと悪いことは背中合わせで、ご褒美であるおいしいものやお酒は何かを成し遂げたら食べる、何かを成し遂げるまでは我慢するという考えがあります。また、自分を制御できる理想的な自分を基準に、何も成し遂げないままご褒美を食べることを道徳的な罪ととらえ、甘いものを罪悪感のある食べ物(ギルティーフード)と表現したりします。甘いものを食べても他人を不幸にはしないと思うのですが、自分の思う“理想”から外れてしまうと考えるのかもしれません。考えが甘い、詰めが甘い、お前は甘い!のようなネガティブな表現も同様かもしれません。

3 砂糖はエネルギー源であるが、エネルギー源とは何?

(1)三大栄養素

 三大栄養素は、炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質の三つで、このうち脂質は細胞膜やホルモンの原料に、タンパク質は血液や筋肉の原料になり、体の構成成分になります6)。自動車でいうと、金属やプラスチック、ガラスなど、自動車本体を形成する原料ということです。一方で、炭水化物はエネルギー源であり、自動車でいうとガソリンや電気に当たります(図2)。
 
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 エネルギー源といっても、特にスポーツはしていないし、もう大人で成長しないから、そんなに必要ないんじゃない?と思われるかもしれません。しかし、ただじっと寝ていても、食べたものを消化吸収していても、呼吸するときにも、頭の中で何かを考えるだけでも、さらには、体温を調節したりするなど、生きるためにエネルギー源は必要です。食べた炭水化物は唾液、胃などで大まかに分解され、小腸で単糖に分解されると同時に吸収されて肝臓に運ばれます。ブドウ糖はそのまま、他の糖質は肝臓でブドウ糖に変換されて血糖(血液中のブドウ糖)になり、各細胞に運ばれてエネルギーになります(図3)8)。脂質もエネルギー源にはなりますが、脳・神経細胞、赤血球は、基本的にブドウ糖だけしか利用できません。一方、筋肉ではブドウ糖も脂質もエネルギー源として利用できます9)。ヒトは自動車ではないので、生きるためにエネルギー源が必要です。
 


 

 図3の摂取割合とは、一日に摂取する総糖質量に対する各糖質の大まかな推定値で、「日本食品標準成分表(八訂)」1)および「日本人の食事摂取基準」2020年版7)を基に計算しました。糖質が含まれる食品は、主食としてコメ、パン、麺などがあり、ジャガイモやサツマイモも含め、これらは水分を除くと7、8割またはそれ以上が糖質であり、糖質のほぼ100%がデンプンです。砂糖や異性化糖は調味料として使用される分がほとんどで、家庭で使われる砂糖もありますが、いずれも菓子だけでなくさまざまな加工食品や飲料に配合されたものを摂取しています。乳糖は牛乳と乳製品由来の糖類です。ブドウ糖、果糖、麦芽糖、その他の糖が野菜や果物に含まれますが、野菜や果物100グラム当たり5%に満たないものがほとんどであり、食べる量もそれほどたくさんではないので、摂取されているものはおおむねこの図に示すものになります。

 それでは、炭水化物(糖質)が足りなくなったらどうなるのでしょうか?まずは、筋肉などのタンパク質が分解されて糖に変換されます。次に、脂肪を分解して、ケトン体ができていきます。脳の重さは体重のわずか2%(1200〜1500グラム)ですが、摂取エネルギーのうち約20%を消費します。脳のエネルギー貯蔵量は10〜15分でなくなってしまうので、安定した血糖値(空腹時でも70−109mg/dL)が必要です。糖質制限をすると、頭がぼーっとしたり、考えがまとまらなくなったりするのは、脳に糖(エネルギー源)が足りなくなっているからです。

(2)体のエネルギーとは?

 ところで、エネルギーって何なのでしょうか。ヒトは呼吸をしますが、呼吸というのは、酸素を吸って二酸化炭素を吐くこと(外呼吸)だけではありません。吸った酸素は肺から血液中の赤血球に運ばれて各細胞に取り込まれ、そこで糖や脂肪のようなエネルギー源を分解するとエネルギー(細胞が動くもと)が得られます。同時に二酸化炭素と水ができ、その二酸化炭素はまた血液に運ばれて肺に行き、吐く息で排出されるという細胞呼吸(内呼吸)があります。前述のように、脳・神経細胞、赤血球は基本的にブドウ糖しか利用できないのですが、酸素だけがあってもエネルギー源となる糖がないと細胞はエネルギーを取り出せず、機能しなくなるのです(図4)。

 炭水化物の中の糖質(炭水化物のうち食物繊維以外)には、デンプン、砂糖(ショ糖)、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖などが含まれ、これらは1グラム当たり4キロカロリーのエネルギー源です。疲れたときに甘いもの(砂糖)を食べて、エネルギー補給をすることは必要なことなのです(図5)。

 次号後編では、糖尿病や肥満など生活習慣病と砂糖の関係、日本人の砂糖摂取の特徴について解説します。



 
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【参考文献】
1)文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)第2章データ及び増補2023年炭水化物成分表編〈https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html〉(2024/6/14アクセス)
2)砂糖類情報「砂糖 豆知識」〈https://sugar.alic.go.jp/tisiki/tisiki.htm〉(2024/6/14アクセス)
3)砂糖類情報「砂糖 視点 食と文化」〈https://sugar.alic.go.jp/japan/view/cat02.htm〉(2024/6/14アクセス)
4)農林水産省「ありが糖運動」砂糖あれこれ
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/kansho/kakudai/questionanswer/question.html〉(2024/6/14アクセス)

5)山口県栄養士会 栄養相談 相談窓口
https://www.paradise-mall.co.jp/eiyoushikai/we61i031Action.do〉(2024/6/14アクセス)
6)厚生労働省 実践的指導実施者研修教材食[1]生活改善指導担当者テキスト(3)栄養指導〈https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info03k.html〉(2024/6/14アクセス)
7)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」2020年版
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html〉(2024/8/9アクセス)
8)『糖質の生命科学』(2014)丸善プラネット株式会社 120pp.
9)『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書30版』(2016)丸善出版株式会社 982pp.
 
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