2015年に世界保健機関(WHO)は糖類摂取に関するガイドラインを公表しました
1)。これは、遊離糖類の摂取量を摂取エネルギー全体の10%未満にすることを強く推奨することと、5%未満にするという条件付きの推奨でした。遊離糖類というのは、上白糖やグラニュー糖などの調味料、加工食品、はちみつ、シロップ、果汁・濃縮果汁に含まれる単糖・二糖類のことで、デンプン、オリゴ糖や糖アルコールは含みません。表の赤枠で囲んである成分のことです。強く推奨するというのは、すべての国でこの基準に合わせた方がよいという内容で、条件付きというのは、国によって医療や栄養に関する状況が異なるので、状況に合わせてくださいということです。このガイドラインの目的は「非感染性疾患(NCD)を減らすため」ですが、NCDとして具体的には虫歯と肥満を挙げています。10%というのは、1日2000キロカロリー摂取するとして、200キロカロリー(糖類約50g)、5%は100キロカロリー(同約25g)に相当します。ちなみに厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」2020年版
2)では、タンパク質13〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%の摂取バランスを示しており、1日2000キロカロリーとすると、タンパク質65〜100g、脂質44〜67g、炭水化物250〜325gになります(
本誌2024年9月号前編の図2参照)。糖尿病や虫歯になっても治療するのが困難、体重計を持っていない、歯を磨く習慣がないという国と、病気になる前から病院や歯科医院で健診をしている国とでは状況が異なります。WHOのガイドラインの条件付きで推奨というのは、このような点を考慮するということです。
2000年ごろからアジアやアフリカの開発途上国は、経済発展により所得が急激に上がっていき、NCDの罹患率が増え、医療費が急増しました。また、ヨーロッパや米国など経済的に発展している国においても、各国の肥満率が非常に増加していることから、WHOは国際的な提言をする必要があるとガイドラインの中に記載されています。
WHOは、糖類摂取量と虫歯との関係、糖類摂取量と肥満との関係について、公表された論文をできるだけ集め、それらのエビデンスの強さを確認し統計的に解析したシステマティックレビューを行い、その結果を推奨の強さに反映させました。
肥満に関するシステマティックレビューでは、糖類(飲料形態)自体または一緒に食べる食品によってエネルギー摂取が増えてしまう場合に肥満が生じたが、糖類を他の炭水化物に置き換えた場合には体重は変化しなかったという結果でした。また、10%、5%という数値の根拠は、肥満ではなく虫歯のシステマティックレビューが根拠であり、5%未満という根拠は日本の第2次世界大戦前後の国民調査を比較した3件の低いエビデンスが根拠になっていることが分かりました。健康栄養状態も悪く、そのケアもできない時代のエビデンスです。このことから、5%未満の摂取というのは、条件付き推奨ということになったのです。
これについては、WHOのホームページからガイドラインの全文が1)、また日本栄養士会雑誌にその解説がありますので、興味のある方はぜひ読んでみてください3)。