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【alicセミナー】日本産和牛の米国向け輸出動向と輸出拡大に向けた取組

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最終更新日:2024年10月7日
広報webマガジン「alic」2024年10月号
 alicは2024年8月15日(木)〜9月13日(金)、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所の岡田卓也氏によるalicセミナー「日本産和牛の米国向け輸出動向と輸出拡大に向けた取組」を、alicチャンネル(YouTube)で配信しましたので、その概要をご案内します。

1 米国における牛肉の消費動向

 米国における牛肉の消費動向は、ステーキを代表とする食文化のイメージのとおり、生産量(2023年)12,286千トンで世界第1位、また、消費量(2023年)も12,725千トンと世界第1位となっており、日本と比べると10倍を超えます。また、近年、鶏肉消費量が増加していますが、牛肉消費量は維持・やや増加傾向を示しており、「牛肉文化」の根強さを感じます。
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 米国で最も食される部位は、赤肉部位ですが、近年、脂肪分の多い「プライム」や「チョイス」といった部位も増加を示しています。
 また、食べ方としては「ステーキ」、「バーベキュー」、「ハンバーガー」がよく食べられますが、「ステーキ」は、ロイン系である「リブロース」など、「バーベキュー」は、肩にあたる「ブリスケ」が定番であり、「ハンバーガー」は、需要の少ない部位をミンチにしたものとなっています。つまり、米国が輸出する部位は、国内で人気のない部位がメインとなっており、牛一頭を消化する形となっています。

2 日本産牛肉の輸入状況

 米国における日本産牛肉の輸入量は、1,000〜1,200トンで推移しています。過去3年間で大きな伸びはなく、やや伸び悩みの状況といえます。米国は、2020年に日米貿易協定発効後、複数国枠ではあるものの6万5千トンの低関税輸入枠を設置していますが、牛肉生産世界第2位のブラジルからの輸入がその大半を占めています。輸入枠は、早期に消化されてしまうため、年の当初に輸入が集中し、長期保存が可能な「冷凍牛肉」の輸入が増加しました。しかし、日本産牛肉のターゲットとする高級レストランでは、冷蔵牛肉が求められるため、なかなか日本にとって難しい局面となっています。
 一方、部位別に輸入量をみると、米国で人気のロイン系が多く入っていますが、近年、非ロイン系も徐々に増加しています。サプライヤーから見ると、牛1頭の価値を上げるためには、ロイン系のみならず、非ロイン系の需要創出が重要です。
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3 日本産牛肉の米国内流通の実態

 日本産牛肉は、大量輸入をする場合は、海上輸入でロサンゼルス港やロングビーチ港、冷蔵輸入または急ぎで輸入する場合は、航空輸入でロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークから入っています。
 日本産和牛の主な消費地は、輸入・卸売業者が多く集まる輸入の玄関口となるロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークを始めとして、ラスベガス、マイアミなどとなっています。消費地は、流通の容易性、人口、年収水準、高級レストランの有無などの要因が重要な要素となります。
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 流通経路としては、日系輸入・卸売業者が輸入量の90%を占有していると推測されます。そして、和牛の主な利用先としては、高級日本食レストラン、寿司店などで、特に寿司店では“和牛握り”の取り扱いが増えています。その他、小売店や精肉店などでも取り扱いがされています。
 これまで、日系輸入・卸売業者は、直接、小売店などと取引を行い、自社トラックもしくはFedEXなどで配送していました。加工が必要な場合は、食肉加工施設に委託をし、その後、小売店などに卸していました。しかし、最近は、日系輸入・卸売業者が米系食肉・食品卸売業者に卸しているケースが増えてきています。これは、販路拡大のためには、既に顧客を持っている米系の卸を通すことが必要となってきているからだと思われます。
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4 日本産牛肉の販路拡大に向けた課題

 現在、日本産牛肉の輸入量は伸び悩んでいる状態といえます。これを打破するための重要なポイントは、「日本産和牛のロイン系部位が高価格過ぎて、事業者も消費者も購買意欲が高まらない」といった声に応えていくことです。
 その方法として、一つ目は、新たな消費地の開拓です。現在の主要消費地では、既に日本産和牛の認知度も上がり一定の消費が見込める状態で、価格競争が始まっているケースもあります。また、主要消費地以外でも高級牛肉を扱う事業者が増加していることを踏まえると、新規消費地の開拓のタイミングが来ていると言えます。
 二つ目は、非ロイン系部位の需要を創出することです。かなり高価格帯のロイン系部位では、二の足を踏む事業者や消費者に対して、値ごろ感のある非ロイン系部位の需要を創出することが、ターゲット層拡大につながります。このためには、非ロイン系部位を取り扱うための技術開発も同時に必要となり、根気強い教育・普及活動に加え、非ロイン系部位の取り扱いが慣れているアジア系レストランへのアプローチも必要です。

5 日本政府・業界による取組

 政府は、農林水産物・食品の輸出を促進すべく、日本輸出支援プラットフォームを設置し、環境整備の取組を実施しています。現地展開している事業者や現地の日本食レストランなどと設ける協議会と協力して、(1)カントリーレポートの作成、(2)現地主導でのプロモーションの推進、(3)現地拠点を設ける事業者及びこれから現地に進出する事業者への支援、(4)日本食レストラン等と連携した日本食の普及などを実施しています。

 米国のプラットフォームにおける和牛の取組について4つ紹介します。
  1.シェフ等養成機関と連携した教育で「シェフ・ブッチャーの意識改革を狙う」として、ドレクセル大学に「和牛コース」を設置
  2.和牛教育活動プログラムとして、新たな消費地の開拓を目的に米系食肉・食品卸売業者にアプローチ
  3.米系商流に入り込むべく食肉事業者が集う場である「Annual Meat Conference」にて和牛ブース出展
  4.日米事業者共同で「和牛フェスタ」を開催  

 米国への日本産和牛輸出の潜在的な可能性は、課題はあるものの高いと感じています。

 
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このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196