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【この人に聞く】「ブラウンチーズ」が熱い!〜栄養豊富なホエイの魅力を探る〜 (後編)

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最終更新日:2025年1月6日
広報webマガジン「alic」2025年1月号
 
株式会社プティレジャポン(Petit lait JAPON)スーパーバイザー(SV)久保 晶子さんにインタビュー
 
 今月号では、ブラウンチーズの魅力や可能性等について、ブラウンチーズ専用製造機のユーザーで、東京都下でオリジナル商品の開発に取り組む株式会社プティレジャポン(Petit lait JAPON)のSV:久保晶子さんから伺ったお話を紹介します。

※前編(令和6年12月号:「日本オリジナル」のブラウンチーズの開発や専用製造機の開発事情等)は、こちらから
 (注)ブラウンチーズは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(乳等命令)」(旧乳等省令)におけるチーズには該当しませんが、本稿では便宜上、商品名として                         広く認知されている『ブラウンチーズ』と表記することとします。 
<工房外観と久保さん(久保様提供)>

Q1 日本では比較的馴染みの薄いブラウンチーズに注目した理由や背景について、お聞かせください。

A1 私は、元々は酪農に携わってはいませんでした。ある時ナチュラルチーズの魅力に引き込まれ、専門書を片手に世界のチーズを味わいながら、牧場や工房の風景を想像しているうちに、「作り手はどんなことを考えてチーズを作っているのだろう」と思うようになりました。そんな、職人の生の声を聞きたくて、じっとしていられなくなった私に扉を開いて下さったのが、当時、栃木県那須塩原市でチーズ工房を主宰されていた落合一彦さんです。
 落合さんは、2019年のチーズの世界大会(World Cheese Awards 2019) でベスト16(SuperGold)を受賞される等、日本を代表するチーズ職人のお一人ですが、私は落合さんのご支援のもと、工房近くに滞在し、連日、製造に携わりながら、職人の皆さんのチーズへの思いを直接伺うことができました。
    その後、東京に戻り、色々なチーズ講習会やコンテストに足を運んでいたある時、三浦先生の芳醇なブラウンチーズを口にした私は大いに感動し、そして那須の滞在中、落合さんがチーズの更なる改良に挑みながら、同時に、ホエイを廃棄しないといけない状況を憂慮されていたことを思い出しました。そこで私は、ホエイを活用して美味しいブラウンチーズを継続的に作ることができれば、ホエイの廃棄問題の解決に少しでもお役に立つことができるのではないか、また、門外漢の私にチーズ製造の手ほどきをしてくださった落合さんに報いることができるのではないかと考え、ブラウンチーズへの情熱と愛情、また、落合さんへの感謝の思いを支えに、これまで試行錯誤して参りました。

Q2 商品開発のご苦労や課題等について、お聞かせください。

A2 ブラウンチーズの作り手になる決意をした私は、三浦先生に師事して、まずは修練期間と考え、試作を繰り返しました。ホエイは、製造されるチーズの種類や製法の違いにより、その性質は多様となりますが、原料であるホエイの違いが、ブラウンチーズにどのような差をもたらすのか、幾たびの試作を通じ学び取りながら、製造の基本的技術を習得していきました。この度、満を持して工房を設立しましたが、試作段階とは扱うホエイの量も機材も異なります。同じ手順を踏んでいるのですが、製品の味わいが想定と異なることもあり、この度導入した機材での製造ノウハウを、改めて構築することの必要性を感じています。使用する原料が大量になると、上手くできなかったときにもブラウンチーズが大量にできてしまうので、ちょっと落胆してしまうのですが、「試作でできたのだから、次はきっとできる!」と信じ、日々がんばっています。
<プティレジャポンにおける試作品>

Q3 ユーザー目線において、専用製造機の良い点と気になる点(使い勝手等)について、お聞かせください。

A3 機械の役割はおおまかに言うと加熱と攪拌(かくはん)なので、慣れれば操作も簡単で、誰にでも不安なく扱えると思います。構造も比較的シンプルだと思いますので、故障のリスクも低いと期待しています。組み上げの精度も高く、ガタツキがなく、各部品も高品質でしっかりしています。全体がギュっとまとまったコンパクトな印象で、設置スペースの観点で自由度も高いのではないかと思います。とはいえ、専用機導入の最大の長所は、メーカーの「手厚いサポート」を受けられることだと思います。大生機設さんは、ブラウンチーズ研究の第一人者である三浦先生と共同開発されたメーカーだけあって、食品加工製造機の設計・製造の経験をバックグラウンドとした、ブラウンチーズ製造におけるノウハウを豊富に持っています。保守やトラブル対応といった視点とは別に、製造上のアドバイスを得られるのは有難いです。反面、気になる点は寸胴鍋の重さでしょうか。長時間の加熱等の工程に耐えることができるよう、高品質でしっかりしている分、重たい印象は否めません。華奢な私では(笑)、洗浄の際の取り外し時にはいつも、「どっこいしょ!」となってしまいます。 
<仕様:W630×D534×H1100。最大処理量:30kg。三相200V:0.2KW。 寸胴鍋重:約8kg>

Q4 消費者の皆さま、また、ブラウンチーズの製造や専用製造機そのものに関心のある方々に向け、一言お願いします!

A4 インターネットやスマートフォン等の普及を背景に、ウェブサイトやSNSを通じて様々な情報があっという間に共有されるようになりました。楽しいこと、かわいいこと、美味しいもの等には、誰もが敏感に興味をもっています。そんな時代にあって、ブラウンチーズは大きな可能性を持っていると思っています。豊かな味わいは、老若男女を問わず、美味しいと感じてもらえると思っています。ホエイを主原料にしており、栄養価が高いことも、消費者としてうれしい情報だと思います。いままで廃棄されていたホエイを活用して製造されることも、消費者の喜びや満足感といった共感を生みだす可能性を持っていると思います。せっかく牛さんから分けてもらった乳を、一部だけ利用して残りの多くを廃棄してしまったら、牛さんに申し訳なくって。。。そんなブラウンチーズを、沢山の人に味わってもらうことを願っています。
 また、ブラウンチーズが多くの人に愛され、食品として我が国に根付くには「生産者(供給)が増えて、根付くこと(安定的・持続的に消費されること)」が重要だと思います。ブラウンチーズは原料の状態や性質等から受ける影響が比較的少ないと考えられ、しぼりたての生乳でなくとも、一般に流通している紙パックの牛乳でも質の高い製品を作ることが可能です。郊外のチーズ工房で生み出されたホエイを冷凍保管したのちに、都市部に輸送して製造することも可能ですし、市販で流通されている、殺菌された牛乳でも大丈夫です。このように原料調達の制約が少ないことも、工房の立地自由度の高さとして取り上げることができると思います(弊社が都内の住宅地に設立できたことで、見てとることができると思います)。
 私たちは、多くの新規参入企業があることで製品の多様性が生まれ、食文化としてブラウンチーズが我が国に根付くことを願っています。そして、それが牛乳や乳製品等の消費を増やし、酪農分野の裾野を広げることにわずかでもつながれば幸せに思います。
<3台の専用製造機が並ぶ姿は、圧巻です!>

取材を終えて

 昨今の物価高騰や不安定な動きを見せる為替変動は、私たちの日常生活だけでなく、酪農業をはじめとした多くの農畜産業に影響を与え、また、円安傾向が持続する中、燃料や飼料等原料の多くを輸入している我が国の農業の現場では、SDGsや再生産等の観点から、様々な問題が顕在化してきています。
 今回の取材を通じ、国産食材の有効活用に向け、誌面ではご紹介できなかった、様々なご苦労や工夫・アイデアの他、開発への熱思い等といった貴重な「ストーリー」についても、直接、お話を伺うことができました。本記事を通じ、様々な商品の裏に隠された「ストーリー」について興味を持っていただき、日々の商品選択の一助にしていただければ幸いです。


<参考資料>
 ・日本獣医生命科学大学HP「食のいま 第72号:ブラウンチーズでホエイをアップサイクル!」                                                                                        
    https://www.nvlu.ac.jp/food/blog/blog-072.html/
 ・大生機設株式会社HP  http://taiseikisetsu.co.jp/
 
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