【トップインタビュー」都市の暮らしと都市農業の共存を目指して
最終更新日:2014年11月5日
神奈川県横浜市長 林 文子氏に聞く
約370万人の人口を擁する大都市、横浜。
実は、農地が多く都市農業が盛んな都市で、安全・安心な食の提供に積極的に取り組んでいます。
そんな横浜市の林文子市長にお話を伺いました。
横浜市は、港、中華街、ベイブリッジ、みなとみらい21地区といった国際都市のイメージがありますが、実はとても農業も盛んな都市なんですね。
そうなんです。
市内には、郊外部を中心にまとまりのある農地が広がり、3000haを超えていて、横浜市の約7%を農地が占めています。
約4200戸もの農家の方々が、野菜や果樹、米、花、植木、畜産など、いろんな農畜産物を生産され、神奈川県内でもトップクラスの生産量を誇っています。
市民の皆さまの身近なところで農業が営まれ、市内には、農家の個人直売所や農協の共同直売所など、約1000か所の直売所があります。
私たちは、生産地の様子を身近に感じながら、採れたてのおいしい野菜や果物を味わうことができます。
これは、本当に素晴らしいことです。
「いろんな農畜産物」とおっしゃいましたが、横浜市では、主にどんな農畜産物が生産されているのでしょうか。
横浜市の農業の特徴は、畑作が中心で、野菜の生産が多いことです。
なかでも、小松菜の生産量は全国でトップクラスです。
また、キャベツ、ほうれんそう、エダマメ、トマトなども、全国的に見て、生産量の多い品目です。
また、浜では、フランス料理やイタリア料理などでよく使われる野菜など、現代の食文化にマッチした珍しい野菜も作られています。
中には、農家ご自身で新しい野菜の品種を改良されている方もいらっしゃいます。
野菜と並んで果樹も有名で、特に「浜なし」「浜ぶどう」は、横浜の代表的な果物です。
私も毎年いただいていますが、とってもおいしいですよ。
また、豚、乳牛、肉牛、採卵鶏といった畜産も営まれており、「はまぽーく」「横濱ビーフ」などのブランド畜産物もあり人気があります。
市内には、搾りたての牛乳で作ったジェラートを販売しているところもあって、これがまたとてもおいしいんです。
消費者のすぐ近くで農畜産物が生産されているんですね。
そうです。
このように、生産者と消費者が身近にいて、お互いの顔が見える関係にあり、安全・安心な農畜産物を供給できることが、横浜の農業の大きな特徴です。
生産者にとっては、直売などを通じて自分が生産した農畜産物に対する消費者の声を直接聞いて、生産に反映することができます。
何より約370万人という巨大マーケットがすぐ近くにあることは、大きな強みです。
一方、消費者にとっては、自分が食べる野菜や果物などが生産される様子を身近に知ることができるので、大きな安心感を得られます。
市内には農薬や化学肥料を減らして栽培している生産者を、顔写真入りで紹介している直売所もあります。環境面でも、農畜産物を運搬する距離が短く、CO2排出量の削減、地球温暖化の防止にもつな
がっています。
横浜の畑は「七色畑」と言われることがあります。
農家の皆さまは、畑に一つの品目を作付けするのではなく、トマト、キュウリ、小松菜など、様々な品目を作付けしていくことで、年間を通して消費者のニーズにあった多彩な品目を直売できるよう工夫しています。
身近な場所で生産された新鮮な農畜産物に対する市民の皆さまのニーズは、年々高まっています。
地産地消に対する関心の高まりを追い風に、横浜らしい、都市の暮らしと共存した都市農業を発展させていきたいと考えています。
農地が都市の中にあると、どんな良い点がありますか。
農地は、都市の暮らしの中で水と緑を守り、より良い都市環境を生み出しています。
水田には保水機能がありますし、ヒートアイランド対策としての環境保全機能に加えて、市民の皆さまはもちろん、子どもたちが農の営みや食べ物の有難さを感じることができる貴重な場です。
さらに、災害時には、火災の延焼を防ぎ、避難場所になるなど、防災空間としても重要な役割を果た
します。
また、農業は伝統的な料理をはじめとした横浜の食文化の伝承など、様々な役割も果たしています。
農地が近くにあると、横浜市民の農業に対する関心も高いのではないですか。
そうです。
平成24年7月に市民の皆さまに行ったアンケートでは、市民農園など身近に農を体験できる場所を作ってほしいというご意見や、身近な場所で横浜市の農畜産物を購入したいというご意見を多くいただいています。
こうした声に応え、横浜市では野菜の収穫や果物のもぎ取りなどを気軽に体験できる「収穫体験農園」や、市民の皆さまが自ら畑を耕作して、栽培から収穫まで楽しめる「市民農園」など、様々な農園の整備に力を入れています。
また、直売所の開設支援も行っており、現在、市内の農協の拠点直売所などで、旬の農畜産物を購入することができます。
都心部にも直売所が欲しいという声にお応えして、みなとみらい21地区の公園でも、月に一度「みなとみらい農家朝市」を開いて、ご好評をいただいています。
市民の皆さまも横浜の農業を応援してくださっているんですね。
小松菜の畑から、みなとみらいの風景が見えます。
そうなんです。横浜市では、地産地消に取り組む農家や市民団体、企業の方々を対象に、毎年「はまふぅどコンシェルジュ講座」を開催し、すでに280人の方々が受講され、修了生の皆さまを「はまふぅどコンシェルジュ」に認定しています。
皆さま、それぞれの分野で活発に地産地消を実践してくださっています。
横浜市としても、フォローアップ研修会や、地産地消に関する情報提供、「食と農のフォーラム」などの地産地消イベントへの参加など、市民の皆さまの「食」と「農」の現場をつなぐ活動のネットワークを広げてくださるよう、継続的に支援しています。
ネットワークづくりでは、企業や団体との連携も大切ですよね。
はい。農家の皆さまにとっては、農畜産物を安定的に買い取っていただけるお相手を見つけたい。
加工・流通を行う企業の皆さまにとっては、新鮮な地元産の農畜産物を利用したいという双方のニーズをつなぎ、農家の皆さまと企業等とのマッチングを進めています。
浜で生産された農畜産物を企業の皆さまが商品に積極的に取り入れていただくことによって、市民の皆さまに横浜の農業を身近に感じていただくことができます。
さらに浜の農畜産物を企業の皆さまが継続的に使用することにより、ブランド力の向上や新たな販路の確保など市内農業の振興につながると思います。
今後、この分野の取組には、一層力を入れていきたいと考えています。
農業には、農家の減少や高齢化などの課題もあると思いますが、これらに対する対応はいかがですか。
横浜市には、大規模経営を行っている方、環境に配慮して農薬や化学肥料の使用を減らした農業に取り組んでいる方、近くのレストラン等と契約して多品目少量生産を行っている方など様々な農家がいらっしゃいます。
横浜市では、こうした意欲的に農業に取り組む農家の方を「横浜型担い手」として、研修会の実施など、様々な支援を行っています。
さらに、農業経営や地域活動等に主体的に関わる女性農業者の皆さまを「よこはま・ゆめ・ファーマー」として認定し、研修や視察、交流会の開催など女性農業者の自立やネットワーク化に向けた支援を行っています。
認定者は既に100人を超え、女性ならではの視点や発想力を活かして、これからも横浜の農業を元気にしていってほしいと思います。
また、横浜市では、農業への新規参入を希望する方への相談対応などのサポートを行っており、毎年、神奈川県内で最も多い新規就農者がいらっしゃることを、大変心強く感じています。
新たに農業を始めた若手の皆さまは、地域の皆さまとの交流や、新規の販路拡大にも積極的で、活動の輪が広がることを期待しています。
今後どのように横浜市の農業を育てていくお考えですか。
私は、市民の皆さまが、旬の新鮮で安心な農畜産物を味わうことができ、野菜や果物の収穫を体験したり、四季折々の農の風景を楽しめるなど、身近に「農」と触れ合える豊かな都市の暮らしを実現していきたいと考えています。
市内の開発や都市化が進む中、農地面積や農家戸数が減少するなど、農業を取り巻く環境が厳しさを増しています。
一方で、身近なところで作られた新鮮な農畜産物に対する市民のニーズの高まりなど、近年、都市農業の可能性は広がりを見せています。
今後4年間の市政の方向性を示した「横浜市中期4か年計画」の策定を進める中で、「活力ある都市農業の展開」を政策の柱にしっかりと位置づけ、横浜市が目指す農業施策の方向性を示していきます。
あわせて、「(仮称)横浜都市農業推進プラン」の策定も進めており、効率的な農業生産への支援や、多様な担い手の育成、地域の魅力ある農畜産物の積極的なプロモーションなど、具体的な取組を進めていきます。
さらに、時代の変化に対応した新たな施策として、先進的な栽培技術の導入や、農畜産物の付加価値を高める取組なども進めていきます。
こうした取組を着実に進め、浜らしい都市の暮らしと共存した都市農業の発展を目指してまいります。
神奈川県横浜市長 林 文子
昭和21年生まれ 東京都立青山高等学校 卒業
昭和40年〜東洋レーヨン株式会社(現東レ)等 勤務
昭和52年〜ホンダオート横浜株式会社に入社、トップセールスとして活躍。
その後、BMW東京株式会社代表取締役社長、株式会社ダイエー代表取締役会長兼CEO、日産自動車株式会社執行役員等を歴任。
平成21年〜横浜市長に就任(平成25年8月より2期目)。
現在、指定都市市長会会長、文化庁・文化審議会文化政策部会委員等を務める。
また、平成20年米フォーチュン誌「世界ビジネス界で最強の女性50人」など受賞歴多数。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196