【トップインタビュー】栄養素がバランスよく豊富に含まれる牛乳について〜6月1日は牛乳の日(6月は牛乳月間)〜
最終更新日:2016年5月11日
一般社団法人Jミルク会長宮原道夫氏(森永乳業株式会社代表取締役社長)に聞く
子どもの頃から学校給食などで馴染みのある牛乳は、私たちの体位・体力の向上に大きな役割を果たしてきたと言われています。そこで、酪農乳業関係者が一体になって、牛乳・乳製品の消費拡大と酪農乳業産業の発展に取り組んでいる一般社団法人Jミルクの宮原会長にお話を伺いました。
一般社団法人Jミルク設立の経緯や目的について教えてください。
Jミルクは、ミルクの生産者である酪農家、乳業メーカー、牛乳販売店のミルクサプライチェーンを構成する3者で作られている団体です。酪農と乳業、流通までの関連業界を縦断的につなぐ珍しい組織だと思っています。これは、牛乳が生鮮食品としての特徴を持っていることから、酪農家と乳業が密接につながっていたため無理なく酪農乳業が一体となって、昭和55年に前身の全国牛乳普及協会が設立されたのが始まりです。私は、森永乳業鰍ナ地方の工場長も経験しましたが、酪農家や同業者とも頻繁にお会いして、一緒に牛乳の安定供給に取り組んできました。酪農と乳業は、車の両輪というより一輪であると思っています。
Jミルクの目的は、酪農と乳業の共通の課題への対応と牛乳の価値向上です。現在の課題は、生乳(搾ったままの乳)の生産基盤が弱体化して生産量が減少する中で、いかに安定的に牛乳・乳製品の供給を図っていくかです。そのため、需給情報の公表や生乳の安定的な生産基盤を強化するための活動を進めています。また、牛乳・乳製品の価値を総合的に高めるため、健康栄養に関わるエビデンスや乳文化の定着、食育などの価値情報を開発するために「乳の学術連合」と連携した研究活動も行っています。
牛乳の日は、国際的にも定められているですか。
平成13年に国連食糧農業機関(FAO)が、牛乳に対する関心を高め、酪農と乳業の仕事を多くの方々に知ってもらうことを目的として、放牧された牛たちが元気よく新しく伸び始めた青草を食べる時期でもある6月1日を「World Milk Day(世界牛乳の日)」と定めました。今では世界43カ国の関係者がさまざまな活動を行い、参加国も年々増加しています。
日本では、平成20年にJミルクが毎年6月1日を「牛乳の日」、毎年6月を「牛乳月間」と定めました。「牛乳の日」に合わせ、Jミルクでは学術フォーラムの開催、全国の小学生を対象とした牛乳ヒーロー&ヒロインコンクールを実施しているほか、酪農乳業関係団体がイベントや工場見学などの牛乳の普及啓発活動を全国190カ所以上で実施しています。残念ながら、「牛乳の日」の認知度は15%程度で、認知度の向上に向け新たな取り組みを企画しています。
牛乳の飲用の歴史や魅力、消費について教えてください。
日本では、明治3年以降に牛乳の栄養が評価され、当初は病気療養時の栄養補給品として飲まれ始めました。明治43年から大正初期には、体を作る健康栄養食品として位置付けられ、戦後は学校給食で牛乳が子どもたちに飲まれるようになりました。
骨や歯を強くするカルシウムは、日本人のどの世代でも不足していると言われる中で、牛乳は手軽に摂取できる食品です。また、タンパク質は、「ロコモティブシンドローム(運動器の障害)」にも有用で、骨の周りの筋肉を強くするので子どもや若い女性、高齢者の方々にもぜひ飲んでいただきたいと思っています。最近では認知症や高血圧などさまざまな生活習慣病の予防に対する牛乳の機能性の研究も進んでいます。
牛乳の消費量は、平成5年頃をピークに徐々に減少してきました。この傾向は、先進国ではほぼ同じような状況で、海外の動向を見ても、今後はヨーグルトやチーズなどの消費が増加すると考えています。一方、中国や東南アジア、中近東、アフリカなどの新興国では、経済発展とともに牛乳の消費が伸びていて、今後は世界の牛乳・乳製品需給にも影響を及ぼす可能性が高く、注視する必要があります。
より美味しく安全な牛乳を提供するための取り組みについて教えてください。
酪農家は、給餌や搾乳、日々の健康管理、出産、糞尿の処理、自給飼料作りなど365日休みなく、生きもの相手に従事されています。出産時などは昼夜も問わず、大変な作業を続けています。一方で、酪農乳業に求められる食に対する安全や安心というのは非常に厳しいものがあり、私たちも衛生管理に対して高い意識を持って取り組んでいます。
私もLL(ロングライフ)牛乳の製造に携わり苦労しましたが、牛乳は本来、生ものですから衛生管理には厳しい基準があります。酪農の現場では搾乳から出荷までなるべく外気に触れないようにする設備の導入、乳業メーカーでは生乳の受入後の殺菌から充填の工程の中では国が定めたHACCPなどの手法を取り入れるとともに、小売店までの流通の段階まで徹底した衛生管理や温度管理に努めています。このように、酪農と乳業、流通のすべてのプロセスで安全安心で安定した品質の牛乳をお客様へお届けするよう全力で取り組んでいます。
牛乳は、体に良くないという報道もありますが、どのようにお感じになりますか。
アンチミルクに対する対応は、科学的根拠をもって正しい情報を、継続して発信していくことが必要と考えています。その上で、消費者の方々にご判断いただき、牛乳を選択していただければと思っています。牛乳を飲むようになった歴史からみると、戦後のわが国の平均寿命延長には、給食などに提供されてきた牛乳がその一翼を担ってきたと感じています。
牛乳の国内流通はどうなっているのですか。
平成26年度のわが国の需要量は生乳換算で約1170万tですが、国内の生産量は約730万tで、不足分の約440万tは輸入に頼っているのが現状です。国産730万tの約半分が牛乳やヨーグルトとして消費されており、国内の牛乳は100%国産の生乳を使っています。
都府県の生乳の多くは、地元の乳業メーカーに出荷され、ほぼ全量が牛乳に使用されてきました。一方、北海道は牧場の規模も大きく、生乳生産量が多いものの道内の人口は首都圏などと比べ少ないことから、牛乳向け以外の生乳をバターやチーズ、生クリームなどの乳製品に仕向けることで都府県の生乳との調整が出来ていました。しかし、昨今では酪農家戸数が減少し、都府県での牛乳向けの生乳不足が発生しやすくなったことから、これを補うために北海道の生乳の一部が都府県に移送されるようになり、バターなど乳製品に仕向けられる生乳は減少しています。
機能性ヨーグルトなど乳製品の需要は増えているようですが、今後どんな乳製品に期待しているか教えてください。
ヨーグルトは、消費者の健康や栄養志向から中高年や高齢者の方々が引っ張っているのか、この30年で需要が4倍くらい伸びています。乳業メーカー各社による、乳酸菌の研究がだいぶ進んでいて、整腸作用だけでなく、他のいろいろな作用、機能性を持つ商品が出てきていますので、まだまだ伸びていくと思います。
また、プロセスチーズの原料用ナチュラルチーズは海外からの輸入が主体になると思いますが、国産の原料を活用しながら日本の技術が加味されたチーズの分野は、これからまだまだ伸びていくと期待しています。
バター不足に対する、業界の取り組みについて教えてください。
バター不足の真因は、生乳生産量の減少です。生乳生産量は、この10年間で830万tから730万tに100万tも減少しています。この減少が需給の調整機能を持つバターなど乳製品の需給に影響してしまいます。乳牛を増やせばよいのですが、乳牛は子牛を産まなければ乳を出しません。生乳増産のために雌の子牛が生まれたとしても、乳を出すまでには育成から、妊娠、出産と2年以上もかかります。そのため、現時点では国内で不足する乳製品はどうしても輸入に頼らざるを得ず、国のタイムリーな輸入判断が重要であるとともに、洋菓子店などのバターの需要者に対して正しい需給情報を提供していくことが必要と考えています。いずれにしても、バター不足の根本的な解決は、国内の生乳生産量を750万tまで回復させることが重要です。牛乳・乳製品は国民にとって重要な食品の1つで、中長期的な安定供給のことを考えると生産者、乳業メーカー、政府による一体的な対策が必要です。また、乳業メーカーには、酪農出身の技術者も沢山いますので、生産者の生産効率化のお手伝いも出来ればと考えています。
TPPや生乳基盤の強化など今後の課題を教えてください。
TPP大筋合意で、乳製品はバターや脱脂粉乳では一定量のTPP枠が設けられたものの、現行制度が維持されました。チーズなどは段階的に関税が削減され、数年後には撤廃となっています。この合意内容に対して、Jミルクとしても、世界の乳製品需給などを冷静に判断して、適切な情報を収集・発信し、今後の国内対策をどう進めていくか行政とも相談するなどして、短期・中期・長期それぞれの視点で対応していきたいと考えています。
乳製品の輸出国は限定的であることから、国際貿易は極めて不安定な状況にあります。中国など新興国の需要は増加傾向で、国際市場ではすでに赤ちゃんの粉ミルクの原料などは調達が難しい状況も生じており、将来、輸入国側が必要な乳製品を確保することが難しくなる可能性も否定できません。そのため、世界の牛乳・乳製品の需給動向などに関する情報や輸出国側との関係構築も重要で、alicには期待しています。乳製品の国際市場が落ち着いている間に、alicが実施する補助事業を活用するなど、関係者が団結して生産基盤強化のための対策も早急にとっていきたいと思っています。
また、生乳生産量が回復した後には、日本の生乳で作った高品質な乳製品を世界へ輸出できる状況になればと願っています。
一般社団法人 Jミルク会長宮原道夫氏(森永乳業株式会社 代表取締役社長)
昭和26年 東京都出身
昭和50年 早稲田大学大学院理工学研究科修了
同年、森永乳業株式会社入社後、 東京多摩工場製造部長、
盛岡工場長、常務執行役員生産本部長などを経て、
平成23年代表取締役副社長に就任
平成24年6月 同社 代表取締役社長に就任
平成27年6月 一般社団法人Jミルク 会長に就任
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費課)
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