【トップインタビュー】皆さん1日350gの野菜を食べていますか 〜8月31日は野菜の日〜
最終更新日:2016年7月8日
一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会 会長 小M裕正 氏 (株式会社カスミ代表取締役会長) に聞く
野菜は各種ビタミンの宝庫と言われていますが、その消費量は近年減少しています。そこで、新たに毎月末を菜の日と定め野菜や果物の摂取が健康増進に重要であることの啓発に取り組んでいる一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会の小M会長にお話を伺いました。
ファイブ・ア・デイ協会の設立の経緯や目的について教えてください。
5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)運動は、野菜や果物の摂取が生活習慣病発症のリスクを抑える可能性が高まるという科学的根拠をもとに、野菜・果物の摂取量を増やそうとアメリカで始まった健康増進運動です。日本の野菜の摂取量が伸びていない中、日本人の健康を考えると、日本でも同様の啓蒙活動が必要ではないかと当協会が設立されました。
当協会は、「1日5皿分(350g以上の野菜と、200gの果物を食べましょう」をスローガンに、野菜・果物の摂取が健康増進に重要であることを啓発し、1日の摂取量を増加させて国民の健康増進に寄与貢献していく5 A DAY運動を行うことを活動の目的としています。
協会の活動について教えてください。
活動の中心は食育です。最近の子どもたちは、確かに体は大きくなったけれども体幹とか筋力がどんどん落ちていて、子どもたちの食べ物、食事の改善をして体力をきちっと作り直さなければいけないと考えています。そのため、子どもたちに対する食育の支援を行い、親御さんも一緒に食について考える場を作ろうということで、平成14年に活動を始めました。当初は、メンバーも少なかったのですが、今では消費者の毎日の食を担う小売や食品企業を中心として100社位まで増加して、地域社会に根付いて消費者に寄り添う健康支援のパートナーとして、継続的な食育活動を推進しています。
また、8月31日は「やさいの日」として既にお馴染みですが、当協会では野菜の“菜と、31の“さい”のゴロをとって、本年3月に毎月31日(31日がない月は月末日)を野菜摂取の重要性を普及させることを目的として、「菜(さい)の日」に制定しました。年に1度の8月だけでなく毎月、月の終わりには、自分の食生活を見直そうと、消費者にとってわかりやすい「月末はカラダ決算日」というスローガンとともに、売場をもっている我々から「菜の日」も発信していきたいと思っています。
子どもたちに対する食育の支援とは具体的にどんな内容ですか。
主軸は、スーパーマーケットの売場と連動した食育体験ツアーです。対象者は、主に小学生や幼稚園児で食の習慣が育まれる前の年代をターゲットにしています。
管理栄養士など協会のインストラクターが、スーパーの店頭で、旬の食材や色とりどりの野菜を目にしながら、子ども参加型の授業を行います。目で見て、触わって、この野菜はこんな栄養があるとか、これは体にいいですよとか、一つずつ説明していきますので、子どもたちもよく理解してくれます。子どもたちも家庭に帰って、今日はスーパーに行ってこんなこと習ってきたと親御さんに言ってくれます。そうすると親御さんはびっくりされますよね。「うちの子は今まで野菜に関心がなかったのに、食べないのに、今日はこんなこと言っている」と喜々として話してくれます。だから、参加した子どもさんたちは野菜に関する認識が変わってきますね。
この活動は既に10 年以上続いていて、今では年間1200回以上の開催で4万人近い子どもたちが参加しています。当協会は、全国で同じレベルの体験ができるよう、地域の栄養士会と提携してこの活動を続けてきました。近年は、会員各社においても地域の消費者に直接、食育を提供できるように、栄養士の資格を持つ社員を中心に講師を務められるよう社内で育成する取り組みも始まっています。また、この他に産地体験のような企画もあります。
野菜の産地を見に行ったりもするのですか。
子どもたちを地元の生産者の畑に親御さんと一緒に連れて行くこともしています。ピーマンやにんじんなど苦手な子どもが多いですけれども、畑に行って生産者の話を聞いて、その場で簡単な料理を作ってもらうと、やはりみんな食べるじゃないですか。だから自分も食べてみようとなって、意外と食べるようになるんですね。そうすると親御さんもびっくりします。やはり、野菜のおいしさは、畑なんですね。そういう体験を積み重ねて、野菜嫌いの子どもが野菜の摂取を増やしてくれるので、続けていきたいと思っています。
小M会長ご自身の野菜との関係や思い入れについて教えてください。
私は、大阪の下町で生まれ育ち、野菜について詳しくありませんでした。それでも母は、野菜を食卓に出してくれたので、人並みには野菜を食べていました。昔は、生野菜を食べる習慣があまりありませんでしたから、煮物やなべ物、ほうれん草の和え物などで野菜を食べていました。体は丈夫でしたが、健康に対する意識はそれほど高くありませんでした。しかし、協会の活動を通じて野菜摂取の重要性を意識するようになりました。先々代の会長の富永祐民先生(当時、愛知県がんセンター名誉総長)のお話は、疫学に基づき野菜の摂取の重要性について、説得力があるものでした。それまでは、美味しいものを食べればいいと思っていましたが、年とともに体重が増え体型が変わってきて、人間ドックとかでいろんなことを指摘され、健康を意識して食べ物のバランスなども注意するようになりました。それで野菜を主体にした食事を取ろうと家内と話して、意識して野菜を取るようにしました。はくさいやキャベツをベースにした鍋物や野菜炒めなどを増やしました。3〜4カ月もすると体重も減って、お腹の調子も良くなって、やはり野菜はいいものだなぁと、今も続けています。
また、私の会社では、スーパーマーケットのお客さまにもっと食の情報提供が出来るよう社内資格として食育士制度を導入したり、社員食堂では学生さんが考案した1食に140g以上の野菜を取れる健康メニューを提供するなど社員に対する食育にも取り組んでいます。5 A DAY運動は、販売促進だとか商売に結びつけては駄目ですね。これはスーパーマーケットをやっている企業の義務であり使命だという位置付けで社内にメッセージを送り続けたいと思っています。
野菜を販売していて感じるお客様の求めるものについて教えてください。
私は、16年前に茨城県に来たのですが、当時は青果の中央市場から商品を仕入れて供給する野菜ばかりでした。それでも茨城県は全国でも有数の生産地ですから地元の野菜がある。野菜は鮮度が大事ですから、地元で採れる時期は地元の野菜を提供しようと考えました。そこで、地元の生産者にお願いして茨城県産の野菜を売り場に展開させてもらうようになりました。すると同じほうれん草でも、地元のほうれん草が先に売れるんですよ。お客さまは、顔が見えるというか、生産者が分かって安心する、そういうものを求めていると感じています。
最近では、各地のスーパーで同じような販売方法が広がっています。地元から野菜を仕入れるに当たって、生産者に対して安全管理とか農薬の使用などの基準も設けています。そのため、うちのバイヤーはよく畑に行くようになりました。バイヤーの野菜に対する意識だけでなく、消費者に対する生産者の意識も高まってよかったと思っています。
野菜の販売方法は変わってきていますか。
私の店では、スーパーマーケットの基本は野菜だと考えていて、全体の売り上げの中で野菜のシェアを上げようと取り組んでいます。肉や魚と違って、野菜は毎食とも何かの形で出てくる食材ですから、野菜の売り場を広げました。次に、地元の野菜を優先的に扱うことにしました。一方で、最近は小家族化が進んでいますから、販売の単位を工夫しています。以前だったらはくさいを丸のまま売ることが多かったが、最近は4分の1で売るなど小ロットで販売しています。この割合は、都心に近い店ほど高くなります。家で腐って捨てることにならないよう、「頻繁にお店に来ていただいたら鮮度の良い野菜がいつでもありますよ」と思ってもらえるようにしていきたいですね。
今後の課題などについて教えてください。
野菜の摂取量が不足しており、1日の摂取量を目標の350gまで増加させることと考えています。実際の野菜摂取量はだいたい290gで1皿分ほど足りていない状況です。働いている成人に絞ってみると、協会では200g程度と推定していて1日5皿の目標に対して2皿分ほど足りていません。1皿を視覚的に分かりやすく説明すると自分の握りこぶしで、その5個分の野菜を食べるということが5 A DAY運動です。
この運動によって、新鮮な野菜をたくさん食べてくれる人が増えて、生産者も青果売場も活性化し、国民も健康になり日本の健康寿命も伸びて、医療費の高騰も抑制されれば、誰もがハッピーです。当協会は、今まで小売業が中心で活動してきましたが、今後は生産者や消費者を巻き込んで、行政とも連携して野菜摂取拡大を全国的な国民運動としていければと願っています。そういう機運を盛り上げていくのが当協会の存在意義だと思っています。
また、5 A DAY運動は、世界30カ国以上に広がりを見せています。当協会もアジア代表として、毎年、国際会議に参加しており、広いネットワークを持っているので、日本の優れた農産物なども、こうしたネットワークを通じて、紹介できる日もあるだろうと思っています。
一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会 会長 小M 裕正(株式会社カスミ 代表取締役会長)
昭和16年 大阪府出身
昭和40年 神戸商科大学卒業、株式会社ダイエー入社、マルエツ副社長、ダイエー専務取締役などを
経て、株式会社カスミ入社、平成14年から平成22年まで同社 代表取締役社長
平成22年 同社 代表取締役会長に就任
平成23年 一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会 会長就任
平成27年 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社代表取締役会長
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196