【トップインタビュー】鶏肉はヘルシーで消化吸収のよい良質なたんぱく源〜10月29日は国産とり肉の日〜
最終更新日:2016年9月7日
一般社団法人日本食鳥協会 会長 佐藤 実 氏に聞く
鶏肉の生産および消費は、消費者の健康志向の高まりなどを背景に増加傾向で推移しています。そこで、鶏肉の生産・流通の改善や消費拡大に取り組んでいる一般社団法人日本食鳥協会の佐藤会長にお話を伺いました。
日本食鳥協会について教えてください。
日本食鳥協会は、食用の鶏にわとりや七面鳥などを扱う食鳥産業における生産・流通の改善や消費の普及増進などを図ることにより、畜産の発展と国民食生活の改善向上に寄与することを目的に昭和35年に設立されました。生産動向の情報収集や消費拡大対策、適正表示の普及推進など、さまざまな事業に取り組んでいます。
当協会の会員・賛助会員合わせて200者は、食鳥の素もと雛びなの生産、食鳥の生産、食鳥の処理加工、食鳥の卸売りから小売りまで食鳥産業を縦断的にカバーしており、利害が対立する会社もうまく共存して運営している珍しい団体です。国内の肉用鶏の出荷羽数に対する会員の割合は、95%と大多数を占めています。
消費拡大対策とは具体的にどんな内容ですか。
当協会は、国産鶏肉の安全性やおいしさをPRする目的で10月29日を「国産とり肉の日」に制定し、普及を図っています。10月は干支の10番目が酉とりであるために、29日は「に(2)く(9)」の語呂合わせから定めました。この日を中心に、全国各地の市場やスーパーで、試食や即売を行う「国産チキンまつり」を開催し、国産鶏肉の消費拡大に努めています。
また、国産鶏肉の信頼感・安心感を表現した「国産チキンシンボルマーク」を4年前に導入し、「あんしんも、おいしさも。」というスローガンとともに徐々に浸透しつつあります。さらに認知度が高まってくれば、スーパーの食品パックなどに広めていきたいと思っています。
国内で生産される鶏はどのように育てられるのですか。
国内で、食用に飼養される鶏は、「いかに少ない飼料で、短期間に、多くの肉を得るか」という目標のもとに品種改良されています。成長が早く、国内ではふ化してから50日程度の肥育で、体重が3kg程度に成長したところで出荷されます。そのため、肉質が柔らかくてマイルドな味わいが特徴です。出荷するまでに使用される飼料の量は体重の約2倍で、豚の3.5倍、牛の8倍と比べ効率的に生産されています。
鶏肉の消費量と国内生産量の推移について教えてください。
鶏肉の消費は、消費者の低価格や健康志向の高まりなどを背景に増加しています。平成26年度は過去最高の223万tで前年度比1.4%増、10年前と比べても23.3%増となっています。国内の生産量も26年度は過去最高の149万tで前年度比2.4%増、10年前と比べても20.3%増となっています。26年度の国産の割合は約67%です。
用途別にみると約4割が店頭で販売される家計消費、残り約6割が中食や外食、加工用です。店頭で販売される鶏肉は国産が圧倒的に多いですから、中食や外食など加工用の分野で輸入品の割合が高いことになります。また、国産鶏肉の一部は輸出されていますが、輸出の約9割は、モミジ(鶏足)と呼ばれる日本ではあまり食べられない部位であり、今後は正肉の輸出を増やしていきたいと考えています。
鶏肉の魅力について教えてください。
鶏肉は、アミノ酸バランスに優れ、消化吸収がよく、たんぱく質が多く、肉の中に脂肪が入り込んでいないので低脂肪です。
ビタミンB、E、Kやミネラルも豊富で体力維持や老化防止に、また美肌効果があるコラーゲンを多く含んだ部位もあります。
そのため、たんぱく質の効率的な摂取を求める高齢者から、ヘルシーさや美容効果を求める若者まで、幅広い年代で魅力的な食材の一つです。
最近は抗酸化作用のあるイミダゾールジペプチドという、鶏のむね肉に多く含まれる物質が注目されています。この成分には疲労回復効果があることが分かっており、渡り鳥が大海を渡ることができるのは、疲労回復効果のあるこの物質が羽の付け根に豊富に含まれているためといわれています。また、抗酸化作用すなわち活性酸素の除去作用の効果については、今後の研究を待たなければなりませんが、活性酸素は遺伝子や細胞を傷つけることによりさまざまな疾病を引き起こす要因といわれていますので、多くの効果があると期待されています。
鶏肉のもう一つの魅力は、料理の多様性にあると思います。鶏肉は、焼く、煮る、蒸す、揚げるなど、どのような料理にも適しています。素材となる鶏は、生後3カ月齢未満の若鶏のほか、地鶏、採卵鶏や種鶏を廃用した成鶏など、さまざまな料理に合うものを選ぶことが可能です。成鶏は、生後500日近くたっていますから肉質は硬いですが、美味しい出汁が出るので筑前煮なんかにすると美味しいです。ラーメン屋では成鶏などからスープを取っています。
会長ご自身の鶏肉との関係や思い入れについて教えてください。
私は、牛肉や豚肉関係の仕事もしていましたが、この協会の仕事をするようになってから肉は全部鶏肉です。続けて食べても飽きないです。鶏のすき焼きは、協会の会員の方たちも、食べ方をあまり知らないんですよ。東京に「鶏すき」の有名な店がいくつかあって、そこに行ったところ、鶏肉はやっぱりすき焼きが美味しいねとなったんです。だからもっと牛肉に対抗した鶏のすき焼きを広めていきたいと思っています。栄養価も高いし、価格が安いので気楽に食べられます。特に、もも肉と比べ安価で、パサパサ感のイメージがあるむね肉でも十分に美味しいです。気軽に食べられる料理は「鶏すき」だと、私はいつも皆さんに言っています。
スローガンの「あんしんも、おいしさも。」について教えてください。
「あんしん」についてですが、生産段階で飼料や薬品について厳しい規制を遵守して生産されていることに加え、食鳥の処理段階でも獣医師の資格をもった検査員が各処理場に常駐して、一羽一羽を3段階でチェックしており、合格したものだけが出荷されています。
衛生管理は、各処理場で場内の温度管理や消毒などを徹底して行っています。また、マイナス2℃〜0℃の凍結しない低温チルド輸送で、新鮮なうちに店頭へ運ばれます。
「おいしさ」についてですが、通常は店頭でパック詰めされるもののほかに、最近は処理場で包装したものをそのまま店頭に並べられる「産地パック」という形態も増えてきました。深ふか絞しぼり包装といって、真空パック包装して、そのまま冷蔵・冷凍保存ができ、消費期限は変わりませんが鮮度を長持ちできるのが特長です。スーパーでよく見かけるトレイを使用しないものが多くゴミの削減(CO2排出量削減)にもつながります。
販売される時の表示や選び方について教えてください。
食肉販売時は、肉の種類や部位の表示が義務付けられています。鶏では「鶏」、「チキン」、「鶏肉」、「若どり」などの名称、部位では「手羽もと」、「骨つきもも」、「ささみ」などと表示されています。原産地は、国産品は「国産」、輸入品は原産国名を表示すること、また、凍結品や解凍品がわかるように表示することも義務付けられています。
鶏肉を選ぶ時は、触れると弾力があって皮付きのものは、毛穴が盛り上がっていることがポイントです。鶏肉は、常温で放置しておくと肉の変質が早いので、できるだけ、その日に使う分だけ購入するのが一番です。やむを得ずまとめて買う場合などは、冷凍にして上手に保存します。
鶏肉を食べてヒトが鳥インフルエンザに感染することはあるのですか。
食品として鶏肉を食べることによって、ヒトに感染した例はありません。これは、鳥インフルエンザウイルスは、酸に弱いため胃酸で不活化したり、熱に弱いため加熱調理で死滅するためです。
海外におけるヒトへの感染は、生きた鶏とヒトとが日常の生活環境・流通過程で近接していることによるものが要因で、わが国の鶏肉流通事情と全く異なっています。
農場ではどのような鳥インフルエンザ対策を講じているのですか。
農場では、関係者以外は立ち入りを制限するなど感染には細心の注意を払っています。ヒトがウイルスを持ち込んでしまうことのないよう、鶏舎に入る時は、シャワーを浴び、服を全て着替えて殺菌ルームで消毒するなど防疫管理を徹底しています。施設面では、野鳥が鶏舎に侵入しないよう万全の対策を講じています。
鳥インフルエンザは、家畜伝染病予防法上の法定伝染病として、まん延を防止するため、発生した場合は、発生の届出、隔離、殺処分、焼却、消毒などが義務付けられています。そのため、感染した鶏が食品として市場に出回ることはありません。
今後の課題などについて教えてください。
残念ながら中食、外食産業は安価な輸入鶏肉の使用割合が高い状況にあります。今後期待される需要の増加分が輸入鶏肉に置き換わるのではなく、国産鶏肉の使用量を高めていきたい。そのため、国産鶏肉の質的向上を図りつつ、量的拡大に対応する供給体制を整備していくことが、当協会の課題だと考えています。
また、地鶏などの海外輸出を増やしていきたいですね。相手国の制度上の対応から現在の輸出可能な国は、香港、ベトナム、カンボジアに限定されています。国にはこの輸出可能対象国を増やしていただきたいと考えています。これまで、海外のイベントでセミナーや試食を行い、好感触を得ても、その後、継続的な販売につながっていませんでした。そこで、これからは海外で常設の販売拠点を設置し、日本の鶏肉を販売する体制を整え輸出を増やしていきたいと考えています。
一般社団法人日本食鳥協会 会長 佐藤 実
昭和27年 山形県出身
昭和51年 東北大学農学部畜産学科卒業
同年 株式会社ニチレイ(旧 日本冷蔵株式会社)入社後関東営業支社・本社・九州営業
支社・関西営業支社等に勤務
平成17年 分社化に伴い株式会社ニチレイフレッシュに転籍同社執行役員畜産事業本部副本部長
に就任
平成19年 同社取締役副社長畜産事業本部長に就任
平成26年6月 同社退職
平成26年7月 一般社団法人日本食鳥協会 会長に就任
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196