【レポート】EUの牛肉および豚肉をめぐる情勢
最終更新日:2016年9月7日
世界最大級の食肉生産量を誇るEU(加盟28カ国)は、主要な輸出先であったロシアが、ウクライナ問題を契機にEUなどからの農畜産物の輸入を禁止したことなどにより、域内の供給が需要を上回り、食肉の需給が緩和しています。そこで今回は、欧州委員会が2016年7月に公表した需給見通しから、牛肉および豚肉をめぐる最近の情勢について、需給改善のポイントとなる輸出動向などを紹介します。
酪農部門に影響される牛肉生産
EUの牛肉生産量は759万t(枝肉重量ベース)で日本の20倍以上です(2015年)。EU最大の牛肉生産国はフランスで、EU全体の19%を占めています。次いで、ドイツ(同15%)、イギリス(同12%)、イタリア(同10%)と、上位4カ国で過半を生産しています。自給率はほぼ100%で、酪農が盛んなことから全体のと畜頭数のうち約3分の2が乳用種です。そのため、酪農部門の拡大や縮小といった動向が、牛肉生産にも大きな影響を与えることになります。
特に、30年以上にわたりEUの基幹的な政策であったクオータ制度(生産調整)が2015年3月末に廃止されたことから、酪農部門は、市場の動向を受けてこれまで以上に変動していくとみられます。このため、EUにおける牛肉生産は、今後酪農部門の変化に影響を受けていくものと考えられます。
EUの牛肉が緩和状態にある中、2015年のトルコ向け生体牛輸出は8・6万tと前年比6倍近く増加しました。トルコが国内の牛肉供給不足から関税を下げたことが要因で、EUにおける需給改善のポイントの一つとみられています。
EUは、2013年2月、日本産牛肉の輸入を解禁しました。日本もEUの加盟国ごとに牛肉輸入を認めています。ともに自国・地域の牛肉消費が伸び悩む中、新たな市場開拓の機会と捉えています。輸出量は、互いに年々増加しており、さらなる市場拡大に向けたプロモーションなどが行われています。
スペインの動向に注目が集まる豚肉情勢
EU豚肉生産量は、世界の2割程度を占め、中国に次ぐ世界第2位の豚肉生産国・地域となっています。自給率は約110%で、最大の生産国であるドイツは、EU全体の24%を占めています(2015年)。次いで、スペインが17%と、上位2カ国で4割以上を生産しています。
生産量は、2014年以降増加していましたが、同年からのロシアの禁輸で需給が緩和しています。このため、2015年以降、豚肉が不足している中国を筆に、日本、韓国、香港、フィリピン、台湾などのアジア市場への輸出に力を入れています。
また、従来からEU産豚肉は、ハム、ソーセージなどの加工品の原材料用として、日本にも多く輸出されています。2015年の実績では、最大がデンマーク産、次いでスペイン産となっていますが、最近は特に、スペイン産の増加が目立っています。EUの対日輸出量に占める同国の割合は2011年に10%でしたが、2015年には25%に増加しています。
スペインは、EUの中でも人件費も含めた生産コストが低く、低価格で豚肉を生産していることに加えて、豚肉の生産部門から流通、販売部門までの関連部門を統合し、さらに効率化することで、生産拡大を図っています。同国からの輸出は、日本を含めた全世界で拡大傾向にあり、今後の動向は業界関係者から大いに注目されています。
需給改善のポイントは輸出
世界の食肉市場に大きな影響を与えるEUは、今後の大きな方向性の一つとして輸出拡大を掲げています。食肉需給のグローバル化が進む現在において、自らの生産を縮小させることなしに需給の安定を図ることができる最も有効な手法と考えられています。欧州委員会は、市場開拓などの支援策にも重点を置いており、今後のEUの輸出拡大に向けた動向は注目されるところです。
【参考】月報『畜産の情報』2016 年4 月号「EUの食肉をめぐる情勢〜需給改善のポイントは輸出〜」
https://www.alic.go.jp/content/000123720.pdf
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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