【レポート】増加するマレーシアの牛肉需要
最終更新日:2017年1月4日
マレーシアの人口構成は、30歳未満の若年層が約5割と日本の3割弱に比べて多くなっています。また、経済成長により一人当たり国民総所得(GNI)は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中では、シンガポールおよびブルネイに次いで高い水準にあります。そこで今回は、若年層の増加や所得の増加により、今後増加すると見込まれる同国の牛肉需要などについて紹介します。
粗放的な肉用牛の飼養
肉用牛の生産は、母牛を飼育し子牛を生産する繁殖農家と、その子牛を購入して太らせる肥育農家といった日本のような分業スタイルは少なく、オイルパーム(アブラヤシ)園などのプランテーションで下草(野草)を食べさせる粗放的な一貫経営が中心です(写真1)。マレーシア政府は、プランテーションでの放牧が、牛にとっては園内に自生する下草が飼料になり、オイルパーム園にとっても下草刈りに要するコストを年間で最大72%まで削減できるなど双方にメリットがあるとしてその普及に力を入れています。しかし、牛肉の国内自給率は23.5%にとどまり、残りは輸入に大きく依存しています。
増加傾向にある牛肉消費
マレーシアは、マレー系62%、中華系21%、インド系6%、その他11%から成る多民族国家であり、食肉の消費にも民族構成が大きく反映されています。主にイスラム教を信仰するマレー系では、豚肉の摂取は禁忌とされています。中華系は、中華料理を基本とする食文化で宗教的な禁忌はありません。インド系は、ヒンドゥー教の教えから牛肉をはじめ肉食を避ける傾向があります。
同国で最も消費が多い食肉は、家きん肉(鶏肉、鴨肉など)で、次に豚肉となっています(表1)。牛肉の消費量は最も少ないのですが、伸び率は所得の向上を反映して最も高くなっています。一方、民族別の世帯月収は、中華系が最も高いものの、2014年の世帯月収は2009年に比べて全ての民族で大幅に上昇しています(表2)。今後も、経済発展に伴う所得の向上は見込まれており、中華系やマレー系の中間・上位層を中心に、牛肉の消費量が増加するとみられています。
食肉は常温での販売が主流
マレーシア人は、共働きの世帯が多く外食を好む習慣があり、量販店などでは、購入した商品をその場で食べられるようイートインスペースを設けているところが多くあります。味付けは、濃いものや甘いものが好まれます。カレーや鍋料理のスチームボードなどの煮込み料理がマレー系の伝統料理であるため、日本のようなサシの入った牛肉ではなく、かたやももなど赤身の部位が多く販売されています(写真2)。また、伝統的に常温こそが新鮮であると認識され、冷凍は不衛生なものというイメージが浸透しているため、常温販売されるウェットマーケット(生鮮市場)が量販店とともに主要な流通チャネルになっています(写真3)。
期待される日本産牛肉の市場参入
日本からマレーシアへの食肉輸出は、現在、動物検疫上の理由で不可能ですが、牛肉については、解禁に向けて両国間で協議をしています。
業界関係者によると、寿司やラーメンなどの日本食はタイ料理に次いで人気のある外国料理であり、牛丼などの日本の多くの外食チェーンが進出していて、日本ブランドのイメージも良いとのことです。日本食を食べるマレーシア人の中心は、所得の高い中華系ですが、最近ではマレー系の間でも日本食への関心が高まってきていて、中間層以上であれば月に1、2回は食べに行ける程度の所得水準になってきています。
既に量販店やデパートがマレーシアに進出し日本に対する印象は良好である中、多数の日本食レストランも進出し、日本食のブランド認知度は広く浸透しています。このような状況の中、価格を気にしない一部の富裕層を主なターゲットとして日本産牛肉のビジネスを広げる機会は十分にあり、同国への日本産牛肉の輸出解禁が期待されます。
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