【農林水産省から】海外における品種登録の推進について
最終更新日:2017年11月1日
農林水産省食料産業局知的財産課
●はじめに
日本には数多くのおいしい野菜や果物があり、特産品やブランド品として流通しています。これらは、育種者による品種改良、生産者の栽培努力の成果によるもので、日本の品種と栽培技術による農産物は、日本ブランドとして海外でも高く評価され、農産物の輸出振興にも一役買っているところです。
品種の育成者は、種苗法に基づき品種登録を行うことにより、知的財産の一つである育成者権を取得し、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を一定期間独占できるようになります。
品種保護制度は、「植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」により国際的な枠組みが整備されており、育成者権は、国ごとに取得することが決められています。このため、海外で品種登録されていない場合は、その国で育成者権は主張できません。
過去には小豆やいんげん豆が持ち出され、生産物が日本に輸入されそうになったこともありました。最近では、いちごの「紅ほっぺ」が中国で栽培されているとの報道や、ぶどうの「シャインマスカット」が中国や韓国で栽培された上、韓国からアジア市場に輸出されていることがわかっています。このような事態が続けば、海外市場での日本品種のブランド価値の低下や、価格競争に巻き込まれるなど輸出マーケットの喪失につながり、農産物の輸出にも影響を及ぼすものとして懸念されています。
この事態への対策としては、種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、海外において品種登録(育成者権の取得)を行うことが唯一の対策となっています。
●海外での品種登録の重要性
海外で品種登録を行い、育成者権を確保することにより、栽培や販売の差止め、種苗や生産物の回収・廃棄、損害賠償などといった対抗措置を取ることが可能となります。種苗の譲渡契約で、相手方に対して海外持出しを禁止する旨の条項を設定しても、相手方が第三者に譲渡した場合はその先には契約の効力が及びません。このため契約違反した損害賠償請求といった限定的な措置しか取れません。
品種名や流通名称で商標を取得し、ブランドとして品種を保護するという戦略をとる場合も見られますが、商標では「名称」や「マーク」しか保護されず、商品名を変えた場合の生産自体の差止めはできません。
野菜の中でも、特にいちごなどの栄養繁殖する植物は容易に増殖が可能ですので、海外での品種登録は必須といっても過言ではありません。また、日本の種子の多くは海外で採種されていますが、採種地から品種の流出を防ぐという観点からも権利化は不可欠であると考えています。
●海外での品種登録上の留意点
海外での品種登録については、UPOV条約に基づき自国内で譲渡開始後、4年以内(果樹など木本性植物は6年以内)に出願申請を行わなければならず、その期間を過ぎると品種登録はできなくなります。
例えば、市場性を評価・検討している間に、海外での出願期間が過ぎてしまうと、その品種は海外で育成者権を主張できない状態となり、持ち出され、生産・販売されても、それを差し止めることはできません。
また、出願後、栽培試験用種苗を海外審査当局に提出する際に、相手国での通関、植物検疫などで予期せぬ時間がかかったり、提出時期に種苗の準備ができないために追加の手続きが必要となることから、国内で品種登録の出願後、速やかに海外出願することが望ましく、時間的余裕を持った対応が必要となっています。
●農林水産省における海外への品種登録出願支援について
農林水産省では、輸出環境の整備の柱として「本物を守る」ため海外での知的財産権取得などの支援を位置づけ、平成28年度補正予算および平成29年度予算において、海外品種登録出願に係る経費、相談窓口の設置、海外出願マニュアル作成や、東アジアでの品種保護制度の整備を促進するための協力活動などを推進しています。
(1) 海外品種登録経費の支援について(補助率:定額、1/2)
海外への出願を行う場合、出願料、 翻訳費、書類作成費、栽培試験費、提出種苗輸送経
費(通関経費)、手続き事務を行う国内・国外代理人費などの経費がかかることが想定されてい
ます。事業では、植物品種の育成者権者(農業者、種苗業者、都道府県、独立行政法人など)
に対し、これらの品種登録出願に係る経費を支援しています。
(2) 海外出願支援体制の整備について(補助率:定額)
農産物や種苗の主要輸出先国への品種登録出願から登録までの関係法令、出願申請書のひ
な形などの情報を取りまとめた海外出願マニュアルの作成、海外への品種登録出願の相談を一
元的に受け付ける相談窓口を設置しています。
(3) 国際的な植物品種保護制度の整備・充実に向けた取組について(補助率:定額)
アジアの多くの国はUPOV条約に未加盟であり、これらの国において、品種が十分に保護され
る仕組みがないことも課題となっています。このため、各国の政策決定者などが参画する「東アジ
ア植物品種保護フォーラム」の開催、植物新品種の審査に必要な審査技術研修への専門家派遣
などの協力活動を実施しています。
平成30年度予算概算要求においては、引き続き、海 外品種登録経費の支援および海外出願支援体制の整備を行っていくとともに、侵害対応やUPOV条約未加盟国への品種保護制度の整備促進活動などを要求しています。
●最後に
最近でも、都道府県の試験場が開発したいちご品種に関連する名称が、中国で商標として出願・登録される事例が発生しています。この品種は既に海外での品種登録期間は過ぎていますので、仮に種苗が流出し、海外で増殖されていた場合、苗の回収、栽培の差し止めなど対抗できる措置は取れない状況です。いちごについては、個人、都道府県等が育成した品種を問わず、過去から現在に至るまで、たびたび、海外流出事例が見られている野菜の一つです。当面、輸出や海外への種苗の販売など海外展開する予定がなくとも、海外で品種登録しなければ、海外での栽培は自由となってしまい、海外で無断栽培された場合、当該品種を栽培し、それを輸出する多くの農業者にも影響が及ぶこととなります。平成30年度予算が概算決定された際には、「植物品種等海外流出防止総合対策事業」を活用し、我が国の将来有望な育成品種を幅広く海外に品種登録していただきたいと考えております。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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