【トップインタビュー】栄養補給品としても見直される飴(キャンディー)の魅力 〜ホワイトデーはキャンディーの日〜
最終更新日:2018年3月7日
全国飴菓子工業協同組合 顧問 中西 信雄 氏(株式会社みやこ飴本舗 会長)に聞く
砂糖や水飴を原料に作られる飴は、おいしく見た目にもきれいで、ホワイトデーの定番商品の一つです。また、最近では栄養の急速補給、備蓄食料としても見直されています。そこで、飴菓子の品質の向上のほか、ホワイトデーの催事化などにも取り組んでこられた全国飴菓子工業協同組合の中西顧問にお話を伺いました。
全国飴菓子工業協同組合について教えてください。
全国各地に点在する飴屋に、全国的な組織はありませんでしたが、昭和29年に全国組織を設立し、2回の改組を経て昭和48年に全国飴菓子工業協同組合(飴組合)となりました。現在は、準組合員を加え75企業ですが、ピーク時は1000企業を超えたこともありました。
飴屋は、家族経営の小さなところが多く、砂糖の価格が乱高下した時代には、砂糖の共同購入により、安価な砂糖が手当てできて助かった組合員も多かったと思います。また、水飴の一斗缶(いっとかん)販売の製造中止の話が出た時には、和菓子業界と一緒になって、少量での購入が継続できるよう一斗缶での販売継続を要望してきました。
最近では、製造技術の向上、食品衛生、表示義務の徹底などに取り組んでおり、大企業が少ない我々の業界では、個々の力は小さくても、飴組合に集うことで大きい力を発揮できるというメリットがあります。
ホワイトデーを催事化したのは飴組合ですか。
そうです。バレンタインデーの贈り物にお返しする風潮が生まれ、マシュマロやクッキーなどの業界がお返しの品として宣伝する動きが見られるようになりました。そこで、お返しの風潮を飴の販売促進に結び付けようと、「キャンディーの日」を作ろうとなったんです。「白は、日本の花嫁さんが白無垢(しろむく)を着たり、何色にも染まるとの良いイメージがあり、飴の主原料の砂糖の色でもある」との発想から遊び心で「ホワイトデーは、キャンディーを贈る日」との企画をしたところ、デパートからの賛同も得られて昭和55年3月の催事化に成功しました。
当初は、ホワイトデーを商標登録しようという話もありましたが、私はさまざまな業界に使ってもらわないと普及しないと考え、登録しませんでした。すると、最初は様子を見ていたファッション業界も徐々に使い始めて、今では暦(こよみ)に載るところまで普及しました。
飴菓子の歴史は。
日本書紀に「あまずら(甘葛)」といって、蔦(つた)の一種を切り刻んで、滴下した液を煮詰めたものが、お供え用に使用されたとの記述があります。諸説ありますが、これが日本の飴のルーツではないかと言われています。平安時代には飴が市販され、室町時代には飴の行商が始まったようです。また、江戸時代に入ると、京都や大阪に飴の有名店が出現し、その飴が江戸に伝わり、「下り飴」と称され庶民の甘味として定着したようです。
飴菓子の作り方や種類は。
飴の製造方法は、主原料の砂糖と水飴を煮詰めて、必要な味付け・香味付け成分を添加し、冷却して形を整えます。
砂糖は、グラニュー糖やざらめ糖を使います。ざらめ糖で作った飴の方が仕上がりが良いという人もいれば、グラニュー糖の方が吸湿性が低いため、べたつきにくいという人もいます。成分は同じショ糖で違いはないはずですが、結晶の大きさで違いが出るのかもしれません。水飴の原料は、ジャガイモやサツマイモなどがありますが、どちらも飴の仕上がりに大きな違いはないようです。
飴菓子の種類は豊富にありますが、定番商品としてはべっ甲飴、ニッキ飴、ハッカ飴、黒飴などで、この他に、グミやマシュマロも含まれます。また、その形態によって定番商品やドロップなどのハードキャンディーとグミやマシュマロ、キャラメルなどのソフトキャンディーに分類されます。
飴菓子の生産や消費量は増えていますか。
平成28年の飴菓子の生産量は17万4700t(対前年比103・4%)、同小売金額は2610億円(同104.0%)となっており、ともに前年を上回りました。要因として、ハードキャンディーは、子供向け商品(小袋)や健康志向などの機能性を持たせた商品、また、グミなどを中心としたソフトキャンディーが好調でした。
飴の輸出は、東南アジアなどの暑い地域では輸送方法によって飴が溶ける心配があるため条件が厳しいですが、中国や香港を中心に少しずつ増えています。また、台湾は暑くても商品管理が良いので輸出は伸びています。
これらの輸出は、飴組合が団体として相手国まで交渉に行ったから成立したんです。個人だったら、誰も相手にしてくれなかったと思います。
飴菓子の味わい方は。
飴の作り方は単純ですが、主原料の砂糖と水飴の比率で出来上がりが違ってきます。機械で作る飴は、砂糖と水飴の比率は約6対4です。近年の飴は、水飴の比率が増加しています。一方、おいしさを追及した昔ながらの手作りの飴は約9対1まで水飴の比率を落とします。皆さん、飴は舐めるものだと思っているかもしれませんが、私はおいしい飴はカリカリ食べるもので、砂糖の比率が高いものを噛んで食べることで口の中に、味が広がると思っています。また、口どけのよい飴を作るためには、原料の比率に加えて高温で炊くことも必要です。細工飴や金太郎飴などは、舐めることや見た目を楽しむために低温で仕上げられます。
年中行事で食べる飴菓子は。
七五三に食べる「千歳飴」は、有名ですね。子どもたちの健やかな成長と長生きを祈って、長い飴を作ったのが始まりといわれています。この他も、正月は「干支(えと)の飴」、節分の福豆の代わりとなる「福飴」、ひな祭りには「ひな飴」、最近は結婚式で新郎新婦がお土産に飴を手渡しすることも増えました。それと夏には、清涼感のあるハッカ飴がよく売れます。
機能性を持った飴も増えましたね。
そうですね。熱中症予防でミネラルや塩分を添加したものもあります。飴は、栄養補給に加えて、甘さが疲れた体と心を癒してくれるため、災害時に即効性のある緊急用食料にも向いています。飴1粒に救われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際に、アメリカの兵隊さんは、非常食として飴を携帯していると聞いています。
また、最近では、甘酒ブームに乗って甘酒を入れた飴、体が温まるように葛(くず)やしょうがの入った飴、さらにはコラーゲン、ヒアルロン酸、抹茶など、さまざまな物を加えた飴が販売されています。このように、飴は何でも入れることができるんです。何がヒット商品になるか分からないので、飴屋もアイデア勝負です。
今後の課題は何ですか。
やっぱり、輸出を伸ばしたいですね。国内のマーケットは、人口もどんどん減って限られてくるので、海外で通用する飴をみんなで作りたいですね。飴屋は小さい企業が多いですから、生産の効率を高めるため、工場の生産ラインは一つにして、各企業が交代で独自の製品を作って、それぞれの地域社会とコラボした飴を販売すればいいんです。
例えば、おなじみの川崎大師の参道にある飴屋さんは、飴きりの実演販売がお参りに欠かせない風物となっています。自分一人で儲けようと思わないで、地域社会を盛り上げるため、地域社会に溶け込んだ飴を作れば売れるんじゃないでしょうか。
ただ、伝承された技術や新たな技術を生かし手間隙(てまひま)をかけてでも、しっかりしたおいしい飴を作っていくことも大事です。小さな飴屋では、量産しているメーカーとの価格競争はなかなか厳しいことです。妙な背伸びはしないで、最低限の利益を確保した値段で、自分が責任を持てる手間隙かけて作った商品を売る。そして、その値段の価値を分かってくれる人を増やす努力をすればいいと思います。それがお店の信用、看板になるんじゃないでしょうか。そのための、技術の伝承も大切です。
飴職人を育てることも大切ですね。
飴職人の希望者は減っており、後継者のいない飴屋さんも多いです。飴職人は技術だけでなく、食文化の知識や季節感も必要なため、一人前になるのには、多少時間がかかります。家族経営でも、自信を持って頑張っているところは、ちゃんと儲かっています。朝から晩まで働いても、儲からないと言って自信をなくしているところには、後継者も育ちません。経営者が次の世代に経営を渡すには、それなりの努力、ファイトがないと駄目なんです。経営者が自信をなくさず、夢を持たせて次の世代にバトンタッチしていくことが大切です。飴組合としても、みんなで力を合わせて、生き残り策を考えていきたいと思っています。
全国飴菓子工業協同組合 顧問 中西信雄 氏(株式会社みやこ飴本舗 会長)
昭和10年生まれ
昭和41年 株式会社みやこ飴本舗 社長就任
昭和53年 全国飴菓子工業協同組合 ホワイトデー委員会発足
昭和55年 ホワイトデーのイベント開始
平成 8年 全国飴菓子工業協同組合 理事長就任
平成13年 藍綬褒章 受賞
平成14年 株式会社みやこ飴本舗 会長就任(現職)
平成18年 全国飴菓子工業協同組合 顧問就任(現職)
旭日小綬章 受賞
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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