【トップインタビュー】地域の養豚生産者のリーダーとして養豚復興に貢献 〜平成29 年度農林水産祭の畜産部門で天皇杯受賞〜
最終更新日:2018年7月4日
有限会社香川畜産 代表取締役 香川 雅彦 氏 に聞く
養豚業の盛んな宮崎県児湯郡川南町で発生した口蹄疫を乗り越え、
衛生レベルの高い農場に再建するとともに、養豚産地の再生・復興に取り組み天皇杯を受賞された、
有限会社香川畜産の香川代表取締役にお話を伺いました。
養豚業を始めたきっかけについて教えてください。
私は2代目なんです。昭和55年の大学卒業後に就農し、当時は母豚150頭の繁殖肥育一貫経営(※)でした。昭和62年に父から経営を引き継いだものの、養豚は年間365日、仕事があるわけで、家族経営の場合は従事できる人数が限られるため、家族と過ごす時間もなかなかとれません。人並みに休暇が欲しいと思うようになり、家族経営から農場の規模拡大を徐々に進めつつ、併せて従業員、パートを雇用するようになりました。平成7年から8年にかけてはウルグアイ・ラウンド対策で措置された国の補助事業を活用し、隣接地に農場を移転して母豚を540頭に増頭しました。この補助事業を活用したのは、養豚関係では当社が全国で最初だったと思います。
(※) 繁殖経営:雌豚(母豚)を妊娠させ、子豚を取り上げ、その子豚を販売する経営形態。
肥育経営:子豚を肥育し、食用として出荷する経営形態。
繁殖肥育一貫経営: 繁殖と肥育を一貫して行う経営形態。
現在の有限会社香川畜産の経営概況は。
豚の繁殖肥育一貫経営と地域の肥育経営に子豚を供給する繁殖経営を私の妻と長男のほか、常勤とパートを含め22名で行っています。
母豚の頭数は、一貫経営で540頭、繁殖経営では780頭です。当社では、オールイン・オールアウトシステムを採用してます。これは、豚を移動出荷する際、豚舎を空にして洗浄・乾燥・消毒を行うことにより、導入する豚への病気の感染を防ぐという方式で、これにより衛生・飼育環境を整えています。
天皇杯を受賞された感想について。
天皇杯に自分がノミネートされるとは思っていなかったので、驚きました。私が受賞しても良いのかと思いましたが、平成22年に口蹄疫が宮崎県で発生した後、復興に向けて、地域をとりまとめてさまざまな活動をやってきたご褒美だろうと思っていて、とても光栄です。
その口蹄疫ですが、再建にあたって、どのような取組みを行われたのでしょうか。
口蹄疫が発生した際には、自分の農場を含め川南町は全頭殺処分という厳しい事態に直面しました。今後、どう再開すれば良いか悩みましたが、再開するのであれば何か残してやりたいと思い、全国で牛豚1頭もいなくなったのは川南町だけでしたから、オーエスキー病(AD)、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)という豚に繁殖障害を起こす2つの病気を地域に入れないことを目的として、被害にあった養豚農家で「西都児湯新生養豚プロジェクト協議会」を設立しました。このプロジェクトを進めるに当っては、将来にわたって養豚という産業を残すためには、若い人たちの意見を聞きましょうということで、若い世代を全面に出して、活動してきました。
また、口蹄疫の被害を受けた60歳を過ぎた方たちにとって、繁殖も含めて経営を再開しようとすると大変なんです。このため、子豚を購入して、肥育だけ行って出荷しようという農家が何軒か出てきましたが、さきほどのプロジェクトが目指すADやPRR
Sのない子豚が当時は近くにはいなくて、群馬とか秋田から運びました。運賃が、一頭当たり5000円程度かかる上に、48 時間程度かけて運ぶので、到着後、豚は水を飲み過ぎて下痢をし、事故率が高くて、農家は赤字を抱えてしまいます。プロジェクトに協力してくれるこのような方々を何とかできないかということで、私も経営再開直後で苦しい状況でしたが、私が子豚の繁殖を行い、経済連さんを通じて農家に子豚を販売するようにしました。
香川畜産の生産成績は全国でもトップクラスと評価されています。どのような工夫をされていますか。
養豚には繁殖と肥育がありますが、繁殖技術が良い農場と悪い農場を比較すると、母豚1頭あたり年間30頭以上離乳しているところがある一方で、低い所では14頭程度と極端に違います。母豚に対する飼養管理が適正であれば、年間の子豚の離乳頭数が多くなります。当社は繁殖成績を向上させるため、母豚の体型を揃えることに注力しています。体型が一定であれば個体ごとに餌を増やしたり、減らしたりする必要がない。また、豚舎内の温度管理にも注意して、飼養適温を維持しています。室内温度が1度下がれば、餌を70g程度多く与える必要があるのです。したがって、外気温に左右されないよう、豚舎は全て完全ウインドレスにしています。
また、衛生管理に関しては、農場の外から病気を持ち込まないことは徹底しています。例えば、飼料の配送に際しては、トラックは2回消毒してから農場に入ってもらう、運転手さんには農場で用意した長靴や手袋を使ってもらうといったことを行っています。
6次産業化、自社のブランド化などの取組みをされていますか。
自社ブランドの取組みについては特に行っておりませんが、農場HACCP(※)の認証を近いうちに申請予定です。普段から日本の農畜産物の安心・安全とは何かと考え続けています。事務的なことを含め大変なところはありますが、農場HACCPなどの認証をとることが、国産の農畜産物の安心・安全の目に見える形での一つの担保になるのではないかと思っています。
(※) 農場HACCP(Hazard Analysis CriticalControl Point)とは、農場での作業工程で発生するおそれのある危害要因(微生物、化学物質、異物)などについて、その危害要因を防止するための管理ポイントを設定して、継続的に監視・記録することにより、畜産物の安全性を向上させる取組みをいう。
香川畜産においては、働きやすい職場づくりに努めているとお伺いしましたが。
経営に参画した当時は労働時間が週48時間の時代でした。土曜日や日曜日に子どもにどこかに連れていってほしいと言われると、朝6時ぐらいに農場に入って、8時、9時まで仕事して、それから子どもを連れて外出して、夕方18時ごろに帰ってきて、また農場に入るっていうような生活を10年ぐらいしました。365日仕事をしていたので、これだけ頑張ってもサラリーマン家庭のようにならないのかっていう思いがありました。従業員も、普通のサラリーマンと同じような休みが取れる体制が目標です。家族経営だと、誰かが病気やけがをした時、その負担を誰がするのかっていう話になります。長期入院とか、けがをした場合は、手が回らなくなってしまうから、その間の豚の生産成績は、間違いなく下がります。農場の規模を拡大する一方で従業員を雇用した結果、平成10年からは週休2日制としています。
また、事務所内に研修施設を設けて、定期的に外部から講師を招き養豚経営における成績向上のための視点などさまざまな勉強会を開いているほか、福利厚生の一環として従業員同士の懇親会などの交流を深める場も設けています。
地域農家との連携や地域住民との関わりで大切にされていることはありますか。
この地域の農家18軒のうち、後継者が決まっているのは5軒です。最終的には、今の地域の農地を4、5軒で管理していくしかないのが現状です。また、農地の守り手として地域の人から応援してもらえるようになってきました。地域の奉仕活動などで例えば野菜を栽培している農家と、今年の生産状況はこうだったとか、そういう話を聞いて、養豚の話もします。そうすることで情報の共有になります。養豚は、今年利益を出しても、来年はどうなるか分からないですし、野菜も同じように需給に影響されるから話がよくかみ合います。このような他品目の農家との情報共有を大切にしています。
また、当社は堆肥を全量販売していて、地域の農家に使ってもらっています。ただ、これだけの量の堆肥が出てきますと、地域外の農家にも使ってもらうようになっており、地域の枠を越えた連携の形になっています。
今後の目指す方向性、課題について教えてください。
若い就農者が仕事をしやすい環境づくりが重要だと思います。地方の田舎に行けば行くほど、過疎化が進んでいるので、労働者が減少しているわけですから、若い世代が安心して養豚を継続できるような工夫を行う必要があると思います。
国際環境に目を向けると、TPP、日EU・EPA経済連携協定を見据えれば、国産豚肉を消費者の方に引き続き選んでもらえるよう、輸入品とのコスト価格競争において、コストを下げ、価格差を縮める努力が必要だと思います。
また、中食や外食で、原産地表示を進めていただく、これに加え、我々生産者が国産豚肉を更にアピールする。この二つが両輪になって、国産豚肉の消費も伸びてくるのではと考えます。産地がわかれば消費者の安心につながります。我々生産者は業界を挙げて国産豚をアピールしていくということになりますが、その中で、国産豚肉の安心・安全を確保する努力をし、消費者に国産豚肉の品質の良さや安全性をPR出来るような環境を整えることが必要だと考えています。
有限会社香川畜産 代表取締役 香川 雅彦 氏
昭和33年 宮崎県児湯郡川南町生まれ
昭和55年 大学卒業後と同時に就農
昭和62年 代表取締役に就任
平成22年 宮崎県にて口蹄疫の発生により、全頭殺処分になるも同年経営を再開
平成28年 平成28年度全国優良畜産経営管理技術発表会 農林水産大臣賞受賞
日本養豚協会(JPPA)筆頭副会長に就任
平成29年 平成29年度第56回農林水産祭天皇杯受賞
平成30年6月 日本養豚協会(JPPA)会長に就任
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