【alicセミナー】「ニュージーランドの牛肉生産・輸出動向」「韓国のパプリカの生産、流通および日本への輸出動向」
最終更新日:2019年7月3日
alicの調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しています。平成31年4月16日(火)に開催したalicセミナーにおいて、肉用牛飼養頭数が減少する一方で、酪農の拡大により牛肉生産量を維持しているニュージーランド(以下NZ)の牛肉と、輸出向けのほぼ全量が日本向けであり、生産量を着実に拡大してきている韓国のパプリカについて調査結果を報告しましたので、その概要を紹介します。
NZ、「クリーン・グリーン」なイメージで日本向け冷蔵牛肉をプロモーション
世界第5位の牛肉輸出国であり、日本にとって4番目の牛肉輸入先国であるNZの牛肉生産・輸出動向を、調査情報部(当時)大塚健太郎から報告しました。
NZの牛肉生産は、放牧による牧草肥育が一般的です。しかし、都市化の進展により放牧地が減少しているうえ、土地利用では酪農や園芸、林業と競合関係にあります。さらに、世界的な乳製品需要の拡大を背景に、収益性の高い酪農への転換も増加していることから、肉用牛飼養頭数は減少しています。一方、乳用牛の飼養頭数は過去30年間で2倍近くになり、酪農由来(酪農経営から生産される乳用種など)の牛肉が約6割を占めています。これらは加工原料向けの赤身肉として輸出を拡大してきました。
今後は、牛肉生産量の増加が見込まれないことから、付加価値の高いテーブルミート(小売店等で販売される直接消費用の精肉)向けの冷蔵牛肉の輸出を増やしていく方向性を示しています。しかし、テーブルミート向けに適した肉用牛飼育頭数の増加が見込まれない、放牧前提の生産体系により、冬場の牛肉生産が減少し年間を通じた安定供給が困難、などの課題があります。そんな中、現地は新たな取り組みとして、牧草肥育を全面に打ち出し「クリーン・グリーン」なイメージを訴求したプロモーション活動により他国産との差別化による需要の拡大を図ろうとしています。
好調な韓国産パプリカ、振興国への輸出も模索
ソウル市内の量販店でのパプリカ
写真:韓国パプリカ生産者自助会HP
日本で流通しているパプリカの約9割は輸入品であり、現在その8割を占める韓国のパプリカの生産、流通、輸出動向を調査情報部(現企画調整部システム調整課)の青沼悠平より報告しました。
日本の量販店などで販売されているパプリカは日本産の方が高い傾向にあります。同じ東アジアの環境でなぜ韓国産は安いのか、そこには特徴的な背景があります。
もともと韓国のパプリカは、1994年から輸出を目的に栽培が始まり、政府支援によって温室建設が広まりました。現在はハード面での直接的補助はないものの、農業用重油に対する免税処置や農業用電気の低価格設定、ICT技術を活用した栽培施設に対する補助など、間接的な支援があるため、生産コストが抑えられています。また、賃金が安価なアジア諸国の従業員を雇用して人件費も抑えています。
こうした支援のもと普及したICT技術や、10年以上パプリカを生産している熟練農家が多いことなどから、生産性が向上し、最大で約25t/aという高い単収を実現しています(日本の単収は約14t/a)。供給量の増加、生産コスト削減といった価格競争を維持する強みのほかにも、最大の輸出先国である日本での地位を確立するため、安全性や品質確保に関する取組やプロモーションといった輸出振興にも努めてきました。これらのことから、日本への輸出は今後も安定的な成長が見込まれています。
栽培開始当初はほぼ全量が日本への輸出向けでしたが、近年、韓国の消費者にパプリカの栄養学的な価値が認知され、国内需要が増加してきました。現在は生産量全体の約6割が国内向け、約4割が日本向けです。また、国内、日本だけでなく、今後は中国や台湾、香港などへの販売活動を強化していきたいとしています。
一方、日本のパプリカ生産に目を向けてみると、建設会社など他産業からの参入による大規模生産が増加し、収穫量は増加傾向にありますが、2016年時点では国産品と輸入品のシェアに変化はありません。国産品には収量の低さや割高な施設導入費など課題も多くあります。今後、国産シェアの拡大には、低価格の韓国産と競合するのではなく、日本の持ち味である新鮮さや食味、ブランドを前面に出した販売戦略が必要です。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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