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【トップインタビュー】〜農福連携で誰もが安心して暮らせる地域を目指して〜

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最終更新日:2020年11月4日

社会福祉法人こころん  理事長 関 元行氏に聞く

 令和元年6月、内閣官房長官が議長を務める農福連携等推進会議において農福連携等推進ビジョンが取りまとめられ、農業分野における障がい者の活躍によって社会参加や就業を支援する農福連携が注目されている中、福島県泉崎(いずみざき)村の社会福祉法人こころんは、10年以上農福連携の活動を行っています。施設利用者の賃金・工賃が全国平均を上回るなどの成果を挙げている同法人の取組について、内科医でもある関 元行理事長にお話を伺いました。
GAPを取得した梨の畑と生徒たち

Q.貴法人の概要について教えてください。

 平成14年にNPO法人こころネットワーク県南を立ち上げ、誰もが安心して暮らせる地域社会を目指し、特に、精神障がいを持つ方(利用者)が住み慣れた地域の中で就労を実現できるよう、支援活動を開始しました。平成18年には地域の農業法人などと共に里山再生プロジェクトに参加し、休耕田の活用や農業体験を通じたセラピー、障がい者の自立支援などに取り組むようになりました。この取組をきっかけに当法人も農福連携(※1)を展開し、農業や里山再生という地域資源を生かした活動を加味した支援事業を行うようになりました。
 平成23年4月から現形態の社会福祉法人に移行し、直売・カフェ「こころや」を設立しました。社会福祉法人への移行後は、特に、農業に携わるスタッフを充当し、地域の農家の協力も得ながら加工、販売まで行う6次産業化も進めており、生産部門である農業の当法人における貢献度は非常に大きいと感じています。
(※1)12ページ参照。

Q.どのような農畜産物を生産しているのでしょうか。

えがみ
 外からの空気や日光を取り入れられる約300平方mの鶏舎内において平飼い(※2)で約1000羽を飼養し、採卵しています。地元のお米を中心に牡蠣殻といった海の産物なども多く取り入れて自家配合した飼料を給餌しているほか、飲み水には井戸を掘って汲み上げた地下水を利用しています。飲み水や飼料に加え、平飼いといった飼養環境が奏功しているようで、鶏の健康状態が良い上に、懸念された臭いや鳴き声についても周辺住民から苦情も少なく、安心しています。

(※2)鶏が自由に地面の上を歩き回れるようにした飼養方法。
 
 養鶏以外にたまねぎ、キクイモ、オクラ、スナップエンドウなどの野菜を2.5haの畑で栽培し、1haの水田で稲作も行っています。さらに、養鶏場の鶏ふんを堆肥として畑で利用することで化学肥料を用いない有機栽培を実現しています。
 現在、養鶏場に3名、田畑に10名の計13名の利用者が農業に携わっています。農業に従事するスタッフも6名おり、利用者はスタッフから指導を受けながら少しずつ農業のノウハウを習得します。収穫作業はもちろん、除草や耕耘作業、袋詰めや納品まで利用者が行っており、大きな役割を果たしています。

Q.農業がもたらす利用者への効果についてどのように思われますか。

子豚
 まず、利用者の健康増進に役立っていると思います。農業は、屋外での肉体労働であり、目覚めてから眠るまでの間に紫外線を一定時間浴びることとなります。これらは利用者の自律神経のバランスを良くし、意欲の向上にもつながっているように思います。これは大変嬉しくありがたいことですが、意欲の向上に合わせて仕事量が増加し過ぎると、利用者の身体状態が心配になるところでもあり、農場の規模拡大などを検討する場合には私たちが留意する必要があると思っています。
 次に、土を耕し作物を収穫することで利用者は達成感を得られると思います。特に泉崎村近辺は非常に自然に恵まれた地域です。私たちは自然を制御することはできませんが、様々な状況下に身を置きながら収穫に至るというのは利用者にとって大きな喜びとなり、この体験が原動力となって、さらに仕事に身が入るようです。内科医として、実際に利用者の皆さんが健康で生き生きと仕事をしている姿や素晴らしい笑顔を見ると、非常に喜ばしく、私たちがそうした場を提供することができてよかったと感じるところのひとつです。
 直売所やカフェなどで販売される農作物や加工品を待ち望んでいる方々がいるということも力強い応援となり、利用者の皆さんは地域の応援に応えるべく仕事をしているようにも感じます。

Q.地域とのかかわりについて教えてください。

 商品を待ち望んでくださっている地元の方がたくさんおられまして、直売所やカフェに訪れる皆さんに時々お話を伺うと、「非常に時間がゆっくり流れていて、ほっとする空間」「非常に癒しになる」といった大変ありがたい感想をいただきます。また、直売所以外に、軽トラックを改造して冷蔵機能を付けた販売車を用いて高齢者宅や保健センターなどを定期的に回る移動販売もしています。積み込んだ荷物はほぼ完売する状況で地域から好評を得ています。野菜の他、果物やお菓子といった嗜好品も含め直売所で販売しているものをほぼ網羅して販売しており、ルート外の施設からも来てほしいといった要望の声があるほどです。
 一方で、商品を購入してくれるだけでなく、田畑や、農業機械のほか直売所で販売する野菜なども地域の方々から提供いただいていますし、農業技術についてもお力添えをいただいています。例えば、田畑については、近年増加している休耕田や休耕地を貸していただき、農業機械も使用していないものを譲っていただいて大変助かっています。また、卵とたまねぎについてJGAP(※3)を取得した際にも、私たちだけではどうしてもノウハウが分かりにくいということがありましたが、地域で農業法人を経営されている方々にアドバイスをいただくことができました。今後、農畜産物の販路拡大などへの貢献が期待されるJGAPを取得できたのは、地域からの支援によるものが大きかったと思っています。
 当初、直売所やカフェの分野に新規参入する際には反対意見もあるのではないかと思ったこともありましたが、お互いの良さを認め合い、今では地域の中で当法人も必要とされる立場になっていると感じています。

(※3)食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証。参照:https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001229.html
えがみ

Q.貴法人の取組に対する地域外からの支援や反応などはいかがでしょうか。

 福島県から資金面以外にも農業指導といった支援があり、手厚くサポートしていただいていると感じています。また、平成29年度にディスカバー農山漁村の宝(※4)を受賞したことをきっかけに、地域外からの来客が増えました。一度に30名来訪されたこともあり、スタッフにとっては負担もあったかと思いますが、カフェで食事を召し上がっていただき、施設を見学していただきました。こうした受賞や見学者の来訪は地域活性化に貢献できていると評価いただいているということであり、スタッフのやる気につながることから非常にありがたいと思います。

(※4)内閣官房及び農林水産省は、地域の活性化、所得向上に取り組んでいる優良事例を選定し、全国へ発信することとしており、社会福祉法人こころんは、平成29年度に特別賞を受賞している。
 

Q.貴法人の今後の方向性や課題について教えてください。

 地域の方も「こころん」「こころや」というブランドの品質や安全性などを認めているからこそ購入してくださるのだと思っていますので、今後も有機栽培などにこだわって農産物や卵、加工品を作っていきたいと思います。一方で、地域内のスーパーなどと比較すると多少割高であり、販路の拡大が大きな課題となっています。一部インターネット販売なども行っていますが、今後は、商品の価値を理解いただける方に広く届けていく方法も検討しなければならないと考えています。
 また、人手不足も課題の一つです。利用者の就労を目指した支援活動であることから、就職が決まり、自立される利用者の方々がいる一方で、新たに利用者になる方もおられます。新たな利用者に一から指導することは苦労しますが、スタッフの勉強にもなるということで一生懸命従事してもらっています。しかし、スタッフにもいろいろな事情があり、その人数を維持することは簡単ではありません。人手不足はどこの福祉事業所も抱えている課題だと思いますが、当法人では、課題解決の方法の一つとして農業従事スタッフではない地域の方に協力をお願いするなど工夫をしています。例えば、農作物を早朝に収穫することが必要な場合には、サポートスタッフとして高齢者の方々に朝4時頃から収穫してもらい、7〜8時頃にスタッフが出勤してくるまでに収穫が終わり、利用者の皆さんが来る頃には袋詰めができるようにするといった取組をしています。
 さらに、自然災害への対策にも取り組む必要があります。農場の中には、地滑りや鉄砲水が起こる可能性のある地域も含まれており、必要な整備を行わなければなりません。また、近年の天候不順により作物の出来具合に影響が出て販売に響くこともあります。そのような中でも、引き続き地域の方たちとの連携を深めて、その理解と協力を得ながら安定的な運営を実現し、地域活性化に貢献していきたいと考えています。
おくら

Q.今後、農福連携を推進する上でどのようなことが重要だと思われますか。

養豚場
 持続的に農福連携を推し進めていくには、地域の行政などにも働きかけて私たちの活動を広範囲に認めてもらうということが重要だと思います。横の連携といいますか、いろいろな立場の方々との連携を更に広く、強いものにできれば、取組を持続的に行っていくことができると思います。
 また、新型コロナウイルスの感染拡大により、農福連携を行っていない他の福祉事業所では仕事が全てなくなったとか販売先がなくなったという話を聞きました。しかし農福連携の事業所からそういった話は聞いておらず、各事業所が工夫して売上げも回復してきているそうです。当法人も一時期直売所を休業する期間もありましたが、三密にならない場の提供ができるよう工夫した上で再開し、一時は2割程度減少していた売上げも徐々に戻ってきています。
 このような中で、農業は人々の食につながり、社会において必要不可欠であるということを改めて認識し、農業はいわゆるエッセンシャルワークであると強く思いました。その農業に携わる農福連携は人々の心の健康に寄与するものであり、自然に恵まれた資産と上手につきあいながら続けていけばSDGs(※5)にもかなっていくのではないかと思い、私たちはこの取組を進めていく所存です。
 
(※5)2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
江上先生
関 元行(せき もとゆき)?氏
1948年生まれ。福島県出身。
日本医科大学卒業後、同大学第三内科入局。
1979年に福島県白河市内で関医院を開業。2004年にNPO法人こころネットワークの理事を経て翌年からNPO法人こころんの理事長に就任し現在に至る(2011年 社会福祉法人へ移行)。一般社団法人白河医師会の会長も務める。
 
本インタビューは新型コロナウイルス感染防止のため、Webによるオンラインで令和2年9月9日に実施しました。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196