【第一線から】逆境を乗り越えたブランドねぎ 〜「九十九里海っ子ねぎ」の生産現場から〜
最終更新日:2021年1月6日
九十九里海っ子ねぎを生産する川島さん
ねぎ出荷量日本一の千葉県〜山武(さんぶ)地域〜
千葉県は温暖な気候で平坦な土地が多いことや、大量消費地である東京都や神奈川県に近接する恵まれた立地条件から、野菜の生産が盛んで、野菜の産出額は全国3位(注1)です。
なかでも、ねぎの出荷量は日本一(注2)を誇り、九十九里浜に面した千葉県東部の3市3町で構成される山武地域は、県内有数のねぎの大産地として知られています。
今回はそんな山武地域で生まれたブランドねぎで、海水をかけて栽培される「九十九里海っ子ねぎ」の開発に携わったJA山武郡市の中村さんと生産者の川島さんをご紹介します。
(注1)農林水産省「平成30年農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)」より
(注2)農林水産省「平成30年産野菜生産出荷統計」より
太平洋の海水と潮風で育った、甘くて美味しい元気なねぎ
九十九里海っ子ねぎの特徴は、生育後期のねぎの葉に10倍に薄めた海水を5回以上散布して栽培している点です。散布した海水に含まれるミネラルにより、太くて甘く、柔らかいねぎが出来上がります。
しかし、塩分は一般的には農作物の大敵として知られています。料理中に野菜を「塩もみ」すると、野菜に含まれている水分がたくさん出てくるのと同じように、農作物の根や葉に塩が付着すると、そこから水分が蒸発して枯れてしまうためです。
それでは、なぜ、ねぎに海水を散布するようになったのでしょうか?これまでの農業の常識を覆すとも言えるこの栽培方法は、どのように生まれたのでしょう。
そのきっかけとなったのは、19年前にこの地域を襲った台風でした。
九十九里海っ子ねぎの誕生物語〜ピンチをチャンスに〜
平成14年10月に発生した台風により、大量の海水を含んだ潮風が九十九里沿岸地域の畑に吹きつけ、多くの農作物に甚大な塩害をもたらしました。
しかし、なぜかねぎは被害が少なく、さらに収穫して食べてみると、例年よりも甘くて美味しいねぎが出来ていました。
当時、新しいブランドねぎの開発に奮闘していた中村さん達は、これをヒントに「海水とねぎ」の関係性に着目し、20品種のねぎを対象に海水散布試験を始めました。
中村さんは「栽培方法は未知数で、海水の濃度や散布のタイミング、回数を何度も変えて、試行錯誤の連続だった」と話されます。
そして、2年に亘る歳月を経て、栽培方法や品種が決定し、ついに「九十九里海っ子ねぎ」として市場出荷を開始しました。
2度目の試練を乗り越えて
販売活動が順調に進んでいた矢先、平成23年に東日本大震災が発生し、再び試練に直面しました。原発事故がもたらす海への影響の懸念から、生産を1年間中止することが決まったのです。
それでも、「九十九里海っ子ねぎを食べたい」「また売って欲しい」という再販売を求める消費者の強い要望により、翌年、海水放射性物質検査を実施した上で、生産を再スタートしました。中村さんは「これまで積み重ねてきた九十九里海っ子ねぎを再出発させるため、より一層、宣伝活動に力を入れた」と話されます。
その結果、テレビや新聞などの様々なメディアで紹介され、九十九里海っ子ねぎは、より多くの人に認知されるようになりました。
徹底した品質管理
現在、九十九里海っ子ねぎの生産者は14名で、その一人である川島さんは「九十九里海っ子ねぎの栽培は、ルールが厳しく、手間がかかるのも事実」と話されます。ブランドねぎとしての厳しい選果に合格するために、徹底した品質管理が求められるためです。
例えば、栽培に使用する海水は必ず水質調査を実施した上で、JAの一括管理の下で、生産者全員が同じ海水を使用するというルールが設けられているほか、減農薬栽培にこだわり、農薬の使用回数は千葉県が定める標準使用回数の半分以下を目指しています。
それでも、消費者からの「美味しい!」という声が生産へのモチベーションに繋がると川島さんはおっしゃいます。そして、「体が動く限りは生産を続けるよ」と笑顔を見せます。
最後に
九十九里海っ子ねぎの出荷期間は、11月20日〜4月20日で、まさにこの時期、出荷のピークを迎えています。ねぎは血行を良くし、免疫力を高める効果があることが知られています。2度に亘る逆境を乗り越えた九十九里海っ子ねぎ。私達も九十九里海っ子ねぎを美味しく健康的に食べて、コロナ禍の逆境を乗り越えませんか。
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