【業務関連情報】
和牛の「遺伝資源」は、わが国が育んだ宝もの
最終更新日:2022年1月5日
はじめに
サシの入ったしゃぶしゃぶ用の和牛肉
海外でも広く知られ、高く評価されている「和牛」。日本から海外へは、その肉が輸出されていますが、精液や受精卵といった「遺伝資源」については、これまで生産者団体などが中心となって海外への不正流出を防ぐ取り組みが進められてきました。しかし、2018年の和牛の遺伝資源が中国に不正に持ち出されようとした事件をきっかけに、遺伝資源については、不正な流通を防止し、知的財産的価値のあるものとして保護強化を図るべきとの声が高まりました。
こうした声を受け、2020年10月、和牛の遺伝資源の管理・保護を強化するための新たな仕組みがスタートしました。
1 和牛の遺伝資源は「知的財産」
日本で飼養されている牛は、肉専用種、乳用種とこれらを交配して作られた交雑種に分けられます。このうち「和牛」と呼ばれる牛は、肉専用種のうち国内で改良されてきた「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」を指します(図1)。
和牛の肉は、きめが細かく、とろけるような柔らかさ、ほのかに甘い脂と口の中で広がる芳醇な香りが特長です。こうした肉は、優秀な雄牛と雌牛の交配・選抜を繰り返し、より優れた牛を作り上げていく改良の成果として生み出されてきたものであり、多くの畜産関係者の献身的な努力の賜物であると言っても過言ではありません。
しかし、その遺伝資源が海外へ不正に流出すれば、わが国の真正な和牛のブランド価値やイメージが毀損され、日本の生産者などが本来得られるべき利益や権利が著しく損なわれるばかりか、和牛の肉の需要が高まる海外市場で商機を失うおそれがあります(図2)。このため、和牛の遺伝資源の適正な流通を確保するべく流通管理を強化し、知的財産としての価値を保護する仕組みが必要です。
2 和牛遺伝資源の不正流出防止対策を強化
以上のような背景から、2020年に「家畜改良増殖法」の改正が行われるとともに、「家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律」が制定されました。これにより、和牛の遺伝資源について、不正に取得したり、契約に反して使用したりした者に対し損害賠償請求などをすることができるようになり、特に悪質な場合は重い罰則が適用されるようになりました。また、家畜人工授精所以外で他人に譲渡する目的で精液や受精卵を保存することの禁止が明確化され、譲り受けや譲り渡しなどを行う際は流通履歴を帳簿に記録することが義務付けられました。さらに、家畜人工授精所の開設許可や家畜人工授精師の免許交付の条件を厳しくし、過去に関係法令に違反して罰金などが課された場合は許可や免許の取得が難しくなりました。
3 不正流出防止強化にalicも貢献
新たな仕組みでは、和牛の遺伝資源の流通管理を徹底するため、精液や受精卵を充填する容器(ストロー)に、採取した牛の名称、生産年月日などの基本的な情報を表示することも義務付けられました。ストローに情報が表示されていれば、万が一、不正流通が発覚した際、帳簿の記録と照合することで流通履歴をさかのぼることが可能となります。alicでは、このようなトレーサビリティを早期に実現するため、家畜人工授精所に対してストローに情報を印字するプリンタなどの導入を支援しています。また、生産現場において精液や受精卵の生産・流通・利用に係る情報が適切に把握・管理されないと流通管理に支障が生じることから、国が構築する情報システムを活用して、これらの情報を把握・管理するための体制づくりに取り組む団体なども支援しています。
おわりに
私たちが今、美味しい和牛の肉が食べられるのは、愛情込めて牛を育てる生産者のおかげであることは日々の生活の中でも実感できることでしょう。しかし、その美味しさの根源を支えているのは和牛の遺伝資源であることはあまり知られていません。
和牛の遺伝資源は、長年の努力により改良されてきたわが国固有の財産であり、「日本の宝」です。こうした認識を社会に広く定着させるため、alicはこれからも関係機関・団体と一体となり、事業を通じてさまざまな取り組みを支援していきます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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