平成25年、阿蘇地域は世界農業遺産(GIAHS)として認められました。
世界農業遺産とは、次世代に受け継がれるべき重要な伝統的農業や生物多様性、伝統知識、農業景観などを全体として認定し、その保全と持続的な活用を図るものです。そのため、農業遺産は「過去の遺産」ではなく、環境の変化に適応して進化を続ける「生きている遺産」と言われています。
今でこそ、阿蘇では多種多様な農畜産業が行われていますが、元来は高地の冷涼な気候である上に、火山性土壌のため生産性が低く、農業生産に適した土地ではありませんでした。
こうした不利な条件を、人々は知恵と努力をもって克服してきました。その取り組みこそが、草原保全の要であり、世界農業遺産にも認定された「野焼き」「放牧」「採草」というサイクルを軸とした阿蘇独自の農業システムです。
阿蘇では、雪解け後の2月から4月にかけて、「野焼き」が行われます。低木を除去し、初夏にはススキなどを再び繁茂させる、省力的で効率的な草原の管理技術です。表面を素早く焼くことで、土中の根や種に影響を与えないため、生物多様性の観点でも重要な役割を担っています。
野焼き後、4月から11月ごろまで「放牧」が行われます。春から秋まで連続放牧するやり方が主流で、あか牛が草原に放牧されている風景は阿蘇の象徴です。
初秋に、冬場の貯蔵飼料を得るための「採草」が行われます。一般的に、草資源は、放牧や家畜の飼料に使われますが、阿蘇では田畑にすき込んだり、野草堆肥にしたり、
茅葺屋根材にするなど、その活用は多岐にわたっており、農業システムの中心的な役割を果たしてきました。現在の阿蘇で多種多様な作物を栽培できるのは、こうした長年の農地改良の成果です。
世界農業遺産
正式名称は、Globally Important Agricultural Heritage Systems(GIAHS)、世界重要農業遺産システム。社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープおよびシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)であり、国際連合食糧農業機関(FAO)により認定される。令和5年2月現在、24カ国74地域、うち、わが国では阿蘇地域の他12地域が認定。 |