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【寄稿】世界農業遺産(GIAHS)に認定された阿蘇の草原の維持と持続的農業

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最終更新日:2023年7月5日

広報誌「alic」2023年7月号

阿蘇地域世界農業遺産推進協会

熊本県阿蘇地域とは

地図

 九州の中央に位置する阿蘇地域は、火山活動によって形成された広大なカルデラの中で育まれた日本最大級の草原と、熊本県内の地下水を支える豊富な水源を有する国内有数の景勝地として知られています。水稲や畜産、野菜(トマト、ほうれんそう、アスパラガスなど)、花きといった農畜産物の生産も盛んに行われており、中でも和牛の一種「あか牛」の放牧は、阿蘇の風物詩となっています。
 阿蘇の人々が作り上げてきた美しい景観と豊かな農業は、熊本県の誇りです。

阿蘇地域世界農業遺産(ASOGIAHS)

 平成25年、阿蘇地域は世界農業遺産(GIAHS)として認められました。
 世界農業遺産とは、次世代に受け継がれるべき重要な伝統的農業や生物多様性、伝統知識、農業景観などを全体として認定し、その保全と持続的な活用を図るものです。そのため、農業遺産は「過去の遺産」ではなく、環境の変化に適応して進化を続ける「生きている遺産」と言われています。
 今でこそ、阿蘇では多種多様な農畜産業が行われていますが、元来は高地の冷涼な気候である上に、火山性土壌のため生産性が低く、農業生産に適した土地ではありませんでした。
 こうした不利な条件を、人々は知恵と努力をもって克服してきました。その取り組みこそが、草原保全の要であり、世界農業遺産にも認定された「野焼き」「放牧」「採草」というサイクルを軸とした阿蘇独自の農業システムです。
 阿蘇では、雪解け後の2月から4月にかけて、「野焼き」が行われます。低木を除去し、初夏にはススキなどを再び繁茂させる、省力的で効率的な草原の管理技術です。表面を素早く焼くことで、土中の根や種に影響を与えないため、生物多様性の観点でも重要な役割を担っています。
 野焼き後、4月から11月ごろまで「放牧」が行われます。春から秋まで連続放牧するやり方が主流で、あか牛が草原に放牧されている風景は阿蘇の象徴です。
 初秋に、冬場の貯蔵飼料を得るための「採草」が行われます。一般的に、草資源は、放牧や家畜の飼料に使われますが、阿蘇では田畑にすき込んだり、野草堆肥にしたり、茅葺(かやぶき)屋根材にするなど、その活用は多岐にわたっており、農業システムの中心的な役割を果たしてきました。現在の阿蘇で多種多様な作物を栽培できるのは、こうした長年の農地改良の成果です。
 
世界農業遺産
 正式名称は、Globally Important Agricultural Heritage Systems(GIAHS)、世界重要農業遺産システム。社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープおよびシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)であり、国際連合食糧農業機関(FAO)により認定される。令和5年2月現在、24カ国74地域、うち、わが国では阿蘇地域の他12地域が認定。

阿蘇の草原の維持と持続的農業

「農業師匠」制度の取り組み 〜担い手の確保・育成に向けて〜

 阿蘇独自の農業システムを後世に残していくために、阿蘇地域では平成28年から、後継者を育成する「農業師匠」制度に取り組んでいます。
 本制度は、新規就農希望者の相談窓口を設置するとともに、研修受け入れ可能な先進的農家を「農業師匠」として登録し、新規就農者を育成する仕組みです。窓口は、就農希望者の相談内容を元に農業師匠とマッチングし、体験研修や面接の後、2年以内の技術指導やその後の就農手続きなどをサポートしています。
 これにより、さまざまな就農相談に広域かつ迅速に対応できるとともに、新規就農者が準備に時間を要する農地の確保や施設・機械の整備などに対しても継続して支援を行う体制が構築されています。
 阿蘇地域全7市町村に各分野の農業師匠がおり、農業師匠の元で研修を積んだ多くの方が、阿蘇地域で就農し、活躍されています。

これまでとこれから

ロゴマーク

 阿蘇地域は認定を受けてから10年間、農業師匠制度の実施や草原再生活動、阿蘇世界農業遺産ロゴマークの活用、国内外での販売・PRイベントの開催など、さまざまなかたちで農業遺産の保全や情報発信に取り組んできました。
 平成28年の熊本地震では、草地の地割れや牧道の損傷が発生するなど被害がありましたが、地域の人々の努力により復興が進んでいます。
 特に近年は、令和3年度に、阿蘇で採草に取り組む草原再生オペレーター組合が九州農政局「ディスカバー農山漁村の宝」に選定されました。さらに令和4年度には、阿蘇市が「農泊食文化海外発信地域(SAVOR JAPAN)」に認定されるなど、阿蘇の農業を国内外に発信する機運が高まっています。
 世界に認められた「阿蘇の草原の維持と持続的農業」がこれからさらに1000年続くように、当協会は、今後も関係機関と連携しながら阿蘇の農業を守っていきます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196