”資源循環型農業”ってなあに?
最終更新日:2015年1月6日
自然の資源のつながり
米や野菜などの農産物を収穫した後のわらや収穫くずが家畜のえさとなり、その家畜のふんから堆肥が作られ、その堆肥で農産物が育つ。このように、有機資源を循環させながら農産物を生産する営みは、地力を維持し、持続性が高い理想的な農業体系といえます。
ところが、化学肥料や農薬への依存が進み、ある地域では堆肥などの有機質が極端に欠乏することによって耕地が年々やせ、また、畜産の盛んな地域では、牛ふんなどの家畜排せつ物による環境問題が発生するなど、わたしたちの「食」を支える農業は将来にわたって持続していけるのだろうかという問題
が浮上してきました。
こうした中、畜産や農業で出る廃棄物などを地域の有機資源として有効に活用し、環境に配慮した持続性の高い農業、いわゆる資源循環型農業≠ノ取り組む動きが各地で見られるようになっています。
今回は、当機構の業務に関係の深い畜産、野菜、砂糖、でん粉の各分野で、資源循環型農業に取り組んでいる事例をご紹介します。
土作りで日本一のブロッコリー産地を目指す(埼玉県JA榛沢)
埼玉県の榛沢農業協同組合(JA榛沢(はんざわ))における堆肥を利用した土作りは、息の長い取り組みとなっています。
大消費地の近郊にあるJA榛沢は、ブロッコリー、スイートコーン、ねぎなどの野菜の作付けが多く、特に、ブロッコリーは、ブロッコリーの産地なら榛沢といわれるほどに名前が浸透し、卸売市場や量販店から高い評価を得ています。また、肉用牛の肥育や養鶏といった畜産業も盛んです。
ブロッコリー産地日本一を目指す取り組みは、昭和60年にスタートしました。
その前年の昭和59年、価格が大暴落して生産を縮小する産地が多い中、JA榛沢は拡大路線を選択し、日本一になるためのブランド化を目指したのです。苗の移植の機械化、鮮度をより長く維持するための真空予冷施設の建設、量販店での試食キャンペーンの実施など、生産・流通・販売のすべての面でさまざまな取り組みを行いましたが、中でも、力を注いだのが堆肥の投入による土作りです。これは、「地力を高めることが作物の品質向上に直結する」という考えに立ったものでした。
JA全農さいたまのブ
ランドである「菜色美人」の認証を受けた平成2年以降は、管内のすべてのブロッコリー農家が、肉用牛肥育農家から提供される堆肥を利用した生産を行っています。
堆肥の散布は、ブロッコリー農家が個々に行うのではなく、JA榛沢が農家ごとの必要量をとりまとめて散布業者(オペレーター)に依頼する形で行われています。
オペレーターは、地元の肉用牛肥育農家から排出される牛ふんを約1年かけて発酵させた完熟堆肥を、マニュアスプレッダーといわれる専用の機械で散布します。
ブロッコリー農家にとっては、堆肥の投入でほ場の水はけが良くなり、甘みが増すなど、ブロッコリーの品質が向上する上、畜産農家にとっても、堆肥の販売でふん尿の処理コストを賄えるというメリットが生まれています。
JA榛沢を仲立ちとしたすべての生産者による堆肥の利用は、全国有数のブロッコリー産地を支える柱の一つとなっています。JA榛沢の取り組みは、資源循環型農業による高品質の野菜生産の優良事例といえるでしょう。
ほ場に堆肥を散布するマニュアスプレッダー
根が張り、茎がしっかりしたブロッコリー
島全体で資源循環型農業を実践(鹿児島県奄美市)
さとうきび産地である鹿児島県の奄美大島では、製糖段階で発生する副産物を活用した資源循環型農業が実践されています。
さとうきびから砂糖を製造する際には、さとうきびの収穫残さ(ハカマ)や絞りかす(バガス)、バガスの燃えカス(灰)、製糖過程で発生する不純物(ケーキ)など、さまざまな副産物が発生します。一方、奄美大島は肉用子牛の飼育も盛んで、牛ふん堆肥が、さとうきび畑などの肥料として以前より用
いられてきました。
そこで、平成18年に完成した奄美市有機農業支援センター(以下「ゆうのうセンター」)は、ハカマなどの副産物と牛ふん、鶏ふん、島内の木材チップセンターから受け入れる樹皮(バーク)などを混ぜ合わせて堆肥を製造し、さとうきび生産者はもちろんのこと、野菜や果樹の生産者に販売しています。
さとうきび生産者は、センターで製造された堆肥を畑に散布し、化学肥料の使用で地力が低下してし
まった土壌の改善に役立てています。
一方、肉用子牛生産者も、ゆうのうセンターから提供されたバークや、さとうきび生産者から提供されたハカマを、敷料という牛の寝床に敷くものの中に混ぜ込んで利用しています。
さらに、さとうきびの先端の茎や葉は栄養価が高く、牛が好んで食べるため、飼料として利用されています。
このように奄美大島では、さとうきびが各分野の農業の結びつきを強め、資源循環にも大きな役割を果たしています。
(模式図) 奄美大島におけるさとうきびを中心とした地域資源循環
でん粉分野でも家畜の飼料化などに貢献(北海道、鹿児島県)
でん粉分野でも、資源の有効活用に向けた取り組みが進められています。
北海道オホーツク地域にある小清水町農業協同組合(JAこしみず)は、ばれいしょでん粉を製造する過程で生じる副産物のほぼ全量を乳牛用の飼料として利用しています。
でん粉の精製過程で発生する排液は、腐敗が進みやすく飼料化になじまないと考えられていましたが、JAこしみずは、酸を利用して排液中に含まれるタンパク質を回収する技術を開発し、飼料にすることに成功しました。その結果、家畜飼料のタンパク源として一般的に利用されている大豆粕と同等、またはそれ以上の栄養価でありながら、大豆粕よりも安価な飼料原料として利用できるようになりました。
JAこしみずは、排液から回収したタンパク質を同じくでん粉の製造過程で発生するでん粉粕と混ぜて、町内のTMRセンター注や酪農家へ供給しています。
注: 粗飼料と濃厚飼料を組み合わせた牛の飼料を製造し、畜産農家に供給する施設。
排液タンパクを混ぜたTMR 飼料を食べる牛
ばれいしょ(じゃがいも)の畑
また、鹿児島県では、でん粉などの原料となるかんしょ(さつまいも)の茎葉(つる)を飼料化するための機械の開発や牛への給与試験が行われています。
さつまいもの茎葉は、収穫前に刈り取っておく必要があるために収穫作業の負担となっていますが、水分を調整して発酵させるなどの処理を施すことで、牛の飼料として適切に利用できることがこれまでの
研究で明らかにされています。
このような取り組みが広がれば、生産物の垣根を超えた連携が一層進むことが期待されます。
かんしょ(さつまいも)の茎葉(つる)収穫機
当機構では、今回ご紹介した事例など、わたしたちの「食」を支える農業のうち、当機構の業務に関連する情報を収集し、情報誌(「畜産の情報」、「野菜情報」、「砂糖類・でん粉情報」)やホームページを通じて、関係者の皆さまに提供しています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196