『とげなし美茄子(ビーナス)』がもたらした産地の活性化〜愛知県のなす産地 西三河地区の取り組み〜
最終更新日:2015年5月13日
◆愛知県の独自ブランドなす『とげなし美茄子』
愛知県の中央部に位置する「西三河地区」
愛知県西三河地区は、昭和30年頃から促成なす栽培が盛んで、野菜の集団産地として国の指定産地となっています。
この地区では、農家の高齢化等による産地の衰退に歯止めをかけ、産地の活性化を目指して平成22年から愛知県農業試験場が育種した画期的な品種の『とげなし美茄子(ビーナス)(※1)』の栽培を本格的に始めました。
『とげなし美茄子』の特徴は、ヘタや茎、葉のどこにもとげがなく、皮のつややハリが見事で、まさにビーナスの名の通りの美しさです。さらに、しなびにくく日持ちが良いという魅力もあります。また、受粉せずに果実を形成する「単為結果」という特性を持つため、着果を促進させるホルモン処理が要りません。
同試験場がこの品種を開発したきっかけは、生産者の高齢化対策でした。なす栽培で大変なホルモン処理がないので大幅な省力化となり、とげがないので作業中のけがも減り、さらになす同士が傷付かないのでロス率も低下するなど、大きなメリットがあります。
※1:登録品種名称は「とげなし輝楽」
◆画期的な新品種導入までの道のり
へたにとげがなく見事なつやの『とげなし美茄子』
導入当時、この地域では別の代表的な品種が栽培され、最も標準的な等階級(※2)の半分が漬物業者に納められていました。
作業が大幅に省力化できる魅力の多い『とげなし美茄子』ですが、当初は生産者が作り慣れ、一定の需要がある従来の品種から、『とげなし美茄子』に切り替えてもらえるのかどうか、県の普及指導員の方も含め関係者には不安がありました。
そこで、関係者の様々な取り組みが始まります。県の普及指導員は、生産者が持っている新品種導入への不安を払拭するため説明会を開催して意見を調整したり、マイナスの特性である色が赤くなりやすいこと、芽吹きが穏やかなこと、高温では単為結果性が不安定であることといった問題への対策を、生産者との現地研究会で繰り返し練っていきました。
さらに経済連と市場各社により、量販店等に品種特性や商品としての魅力の理解促進を行い、売り先確保に努めました。
その結果、品種の切り替えはスムーズに進み、市場関係者からも高い評価をいただくことができました。
また、バラ売りにも向く見栄えの良さから量販店への販路開拓にもつながりました。
※2:漬物業者に収めるなすは「千両のLサイズ」とされていた。
◆一丸となって『とげなし美茄子』を主力ブランドへ
現在、「西三河促成なす部会」には57名の生産者が加入しており、作付面積は12.7ha、生産量は約1800tで、『とげなし美茄子』は西三河地区の生産量の約8割を占めるまでになりました。
生産者は、ホルモン処理作業が省力化できたことから、なす一本一本の品質を向上させ、より有利な販売につながる取組に力を注ぐことができるようになりました。
例えば、生産者が出荷前の果数を数えて週に1度管内のJAに報告し、それらをJAあいち経済連の販売担当者がエクセル表に入力して、何日後にどの程度の出荷量となるかを取りまとめています。この表は県の普及指導員が作成したシンプルなものですが、グラフ化して出荷予測として利用しています。
そのデータを市場に提供しており、予測値と実績値の差を見ることもできるため、市場からの評価も高い貴重なデータになっています。
生産者も、これらのデータを参考にしながら、より計画的に作業を進められるようになりました。
「売り方を間違えて価格を下げることはしたくない。」と話されるJAあいち経済連の販売担当者が取りまとめているグラフは、生産者、普及指導員、JA、経済連が協力して西三河地区の主力ブランドとして『とげなし美茄子』を育て上げてきた協働の象徴とも言えます。
◆『とげなし美茄子』の更なる挑戦
生産拡大に向けた更なる取組も始まっています。『とげなし美茄子』の収量を上げるため、試験的にC02発生機を導入してその効果を検証しています。生産者がC02発生機導入の初期投資を軽減できるよう、経済連では機器のレンタル制度が創設されました。
今年は試験段階のため1名の生産者ですが、27年度から新たに4名の生産者が加わります。
C02発生機導入によって収量を上げ、「いずれは若い人達に向けても、『とげなし美茄子』はこんなに稼げる品種ですよと言えるように努力を続け、東海地域を中心に出荷を拡大していきたい。」と関係者の皆さんは力強く語っておられました。
愛知県西三河地区のJAから出荷される冬春なすは、当機構で実施する指定野菜価格安定対策事業に加入しています。
このため、販売価格が一定水準より下落した場合に交付金が交付されるので、産地の維持や生産者の経営安定に貢献しています。
(野菜需給部)
熱心に話し合う件の普及指導員、生産者、JAあいち経済連担当者。関係者の熱い思いが『とげなし美茄子』を支えています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196