alicセミナー
最終更新日:2013年7月3日
農業・農政のあり方を考える
名古屋大学大学院 生命農学研究科 生源寺 眞一 教授
5月28日に開催したalicセミナーでは、日本の農業・農政について、講演を行っていただきました。
食料と農業の半世紀
生源寺 教授
1960年以降、食料自給率は継続的に低下していますが、昭和と平成では、その要因が変化しています。
「畜産3倍・果樹2倍」という農業基本法のスローガンの下、野菜、果実、畜産物等の生産は増加し、農業生産指数(総合)は1960年代から80年代後半まで増加しました。食生活も変化し、一人当たりの供給純食料は、1955年度と2005年度との比較で、肉類は8.91倍、牛乳乳製品は7.59倍になりましたが、自給率計算の約束事で、エサを大量に輸入している場合は自給率は落ちるのです。昭和の自給率の低下は、農業生産が拡大する中で食生活の変化が要因でした。
80年代後半以降は、食生活の変化のスピードは鈍化する一方で、農業生産はピークに達して縮小傾向になりました。平成の自給率低下は、農業生産の縮小をそのまま反映していて心配です。
日本の農業を一律に論じることはできません。施設園芸や畜産などと、高齢化が著しく持続性に危険信号がともっている水田農業とは大きな開きがあります。どちらか一方だけ議論すると本当の姿を見失いかねません。強い農業と残念ながら後退を続けてきた農業があることを認識しておくことが必要です。
混迷の度を深めた農政
1992年に「新しい食料・農業・農村政策の方向」が打ち出され、この5〜6年は別として、その前まではほぼこの農政の方向をフォローしてきています。93年には、農業経営基盤強化促進法で「認定農業者」への農地集積や資金の貸与が定められ、95年に食糧法の施行と食管法の廃止がありました。99年には食料・農業・農村基本法が制定され、その後、5年に1回基本計画を作っています。2006年に担い手経営安定新法が制定され、翌年、経営所得安定対策が本格導入されましたが、これは92年に打ち出された道筋が大きな柱として具体化したものです。
しかし、2007年の参議院選で民主党が圧勝し、このあたりから政策が揺れ動き始め、この年の秋から冬にかけて自民党主導で担い手政策・米政策の見直しが行われました。鳩山政権の基本計画やマニフェストでは、戸別所得補償制度によって小規模農家や兼業農家も農業が継続できることを強調していましたが、菅内閣・野田内閣では、平地で20〜30ha、中山間地域で 10〜20haの規模の経営体が太宗を占める構造を目指すとしました。これが両立するとは思えません。
また、現場が混乱した例としては、「認定農業者」と「中心となる経営体」のちぐはぐな関係があります。2012年4月から、「人・農地プラン」をすべての市町村・集落で策定することとしました。これに記載された「中心となる経営体」が新しいカテゴリーで、これに向けて施策・事業を集中展開し、公庫資金の金利低減などを行います。公庫資金を借りる資格が「認定農業者」で、金利負担の軽減を受けるためには「中心となる経営体」にならなければならないということが起こっています。
2007年の参議院選挙の後、法制度面の整合性を欠いた方針や施策が積み重ねられています。ぶれない農政の構築に向けた検討が必要です。
農政の中長期的な課題
稲作は、現行技術で規模を拡大すると、10haぐらいのところでコストダウン効果は終わり、あとは横ばいになります。現状の稲作経営は1ha程度なので10倍への規模拡大は一つの目安となります。また、家族経営だけでなく、100〜200haという大型法人経営にも、高齢でリタイアされる方の農地を貸し出してもらう必要があります。
経営の厚みを増すために、食品産業や観光への多角化を図ることや、施設園芸などの集約型農業と土地利用型農業を組み合わせることも効果的です。
米の生産管理のあり方について、問題は、生産調整を長期的に維持することが妥当か否か。過渡的な制度であるならば、廃止に向けて補償水準を段階的に圧縮し、他方で専業・準専業農家や法人経営に対する支援策の厚みを増していくことも一考に値する方向だと考えます。
最後に農地制度については、だんだん借地を容認する形になり、2009年度農地法等の改正によって、農地を借りる形であれば、一般の企業やNPOの農業参入はどの地域であっても可能となました。一つの大きな流れとしてはおかしくない方向です。しかし、農地の権利移動に関する運用組織が複線化し、情報一元化やマンパワーの分散という意味で非効率であることや不在村の農地所有者の増加など、多くの課題があります。伝えられる「中間的な受皿組織」が問題の解決になるのでしょうか。
基本的な政策のところで議論すべきものがずいぶん残されていると思います。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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