alicセミナー
最終更新日:2013年7月3日
スイスの次期農政改革欧州における酪農事情
株式会社 農林中金総合研究所 平澤 明彦 氏
調査情報部 矢野 麻未子
4月17日に開催したalicセミナーでは、欧州の農業政策についての共同調査結果を報告しました。
<スイスの次期農政改革>
スイスの農業条件
スイスはアルプスを擁する人口756万人の小さな山岳国です。所得水準が高く、山がちで農業には不利という点で、欧州の中でも比較的日本に似ています。EUには加盟しておらず、農地のうち約7割が永年草地で酪農が盛んです。
これまでの農業改革
スイスは2度の世界大戦で食糧難を経験したことから、国境保護や価格支持による高水準の農業保護を行い、自給力の強化に努めてきました。しかし、1980年代以降は、ECの設立や冷戦の終結で食料安全保障の確保に対するリスクが低下、GATTにより国際貿易ルールが変更され、競争力の強化が必要となるなど、国際情勢が変化しました。また、国内でも供給過剰で財政負担が大きくなりました。
このため、1993年から農業の多面的機能を新たな理念として掲げた農政改革を進め、直接支払いを中心とする政策体系に移行してきました。
1996年には環境団体(WWFスイス)の提案が国民投票で支持され、高度な環境保全が直接支払いの要件になりました。また、2009年には生乳の生産割当制度(生乳クオータ制度。生産枠を定め、生乳生産量を制限する制度)を廃止したため、生産量の増加により、乳価が下落しました。
そのほか、価格や販路の保証の廃止、関税引き下げなど、1993〜2011年にかけて、段階的に改革を行いました。その結果、農業部門所得が下落したため、その半分を直接支払いで補填する形になっています。飼料穀物の作付減少や森林化による農地の減少、環境保全への対応の強化などが、課題として残されました。
図1 スイスの直接支払い予算の組替え
次期農業改革 「農業政策2014-17」
昨年夏、2025年へ向けた農業政策の長期戦略が発表され、既存の政策見直しと、農業政策に食品産業政策を統合する、という2つの戦略が発表されました。その第一歩として「農業政策2014-」17年」がまとめられました。
「農業政策2014-17 」の目玉は、今まで14種類あった直接支払いを7種類に再編、所得支持ではなく「農業景観支払い」等多面的機能への支払いとして、公共の利益に資するサービスの提供を求めたことです。所得支持は移行支払いを導入して、段階的に縮小廃保障については牛乳過剰を解消するため、牛の頭数支払いを廃止し、新たな面積支払いを導入しました(図1)。
また、農業と食品の政策統合として持続可能な消費や品質戦略、食料主権(環境や多様な文化、社会的要素などと農業生産性との共存)など、新たな概念を導入しました。
スイスは先進諸国に先んじて、農業を所得支持ではなく多面的機能のみで支えるという新しい方向へ踏み出しました。
<欧州の酪農事情>
EUの酪農概況
EUにおいて酪農は、畜産の中でも生産額が高く、風土に適した農業として重要です。世界の生乳の約3割がEUで生産され、生産量は増加傾向にあります。EU域内の流通は、単一共通市場が形成され、関税はかかりません。また、EUは乳製品の主要な輸出国でもあります。
EUの乳価は2012年初頭に一時下落しましたが、その後の天候不良により生産が減少に転じたことから回復し、2013年も夏期まで高水準で推移する見通しです。乳製品の輸出はユーロ安に支えられ、2012年は増加、特にチーズは過去最大の輸出量を記録しました。
生乳クオータ制度の廃止
E U の生乳クオータ制度は、2015年3月31日に廃止されることが決定されています。急激な需給の変化をもたらさないよう、クオータ割当量を毎年1%ずつ引き上げる措置が取られています。
欧州委員会によると、生乳クオータ制度廃止により生乳生産量の増加と乳価の下落が予想されますが、2020年までには市場原理に基づき、安定すると見込まれています。また、制度廃止により、大規模な経営による効率化が可能なフランス北西部、オランダ、ドイツ北西部などで生乳生産が増加すると見込まれます。
EUの主要乳業メーカーの動向
生乳クオータ制度廃止に向けて、乳業メーカーは、まず自国の市場の確保に力を入れました。次にE U 域内市場、3 番目にEU域外市場の確保へと動いています。また、乳製品の市場戦略として、地理的表示の認証取得や機能性食品の開発、粉乳の高付加価値化を図る動きも見られます。
CAP(共通農業政策)
改革の動向について 現在、次期CAP改革が検討されています。グリーニング(緑化)(直接支払いの受給条件として更なる環境保護を要求)の導入や、単一面積支払い(地域における補助率格差の是正)の促進などが、主な焦点となっています(図2)。
図2 EUの2013CAP(共通農業政策)改革案
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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