【レポート】デンマークの脂肪税
最終更新日:2013年8月5日
はじめに
肥満は、生活習慣病などの原因になるとされています。健康な生活を送るためには、肥満を避けることが重要ですが、それには日頃から適度な運動とバランスの良い食生活への配慮が求められます。
特に、脂肪分の過剰な摂取は、肥満を引き起こす要因の一つですが、あくまでも「過剰」な場合であり、脂肪そのものは重要な栄養素として認識されています。
しかし、食生活の欧米化が進む日本では、脂肪の過剰摂取は課題となっており、日本よりも脂肪分の摂取量の多い欧米諸国では、肥満が大きな社会問題として取り上げられています。
こうした課題に対処するため、デンマークでは食品中の飽和脂肪酸に対して課税する「脂肪税」を、世界で初めて導入し、2011年10月より施行しました。これは、脂肪を構成する化合物の一つである飽和脂肪酸の含有量の多い食品に対して課税することで、その購入を抑制し、脂肪分の過剰な摂取を防止することを目的としたものです。
「脂肪税」の概要
具体的に脂肪税の仕組みについて、ご紹介します。詳細は、表1に整理してありますが、ポイントとしては、(1)飽和脂肪酸を一定割合以上含む食品が課税対象となること、(2)食品の製造者もしくは販売事業者が納税することです。(図)
(2)について説明しますと、消費者がスーパーマーケットなどで、バターを購入した場合、そのバター一個について、課税されるのではなく、製造業者がスーパーマーケットに卸した段階で課税されているということです。
つまり、消費者が買い物をした際、自らが「脂肪税」としていくら支払ったのかを明らかにすることは難しいのです。
表1 脂肪税の概要
図 脂肪税の納税対象者の分類
畜産物への影響
では、実際にどの程度食品価格が上昇したのでしょうか。具体的な数値は、表2のとおりです。
この表によれば、バター(250g)ではおよそ30円程度、豚ミンチ肉(1kg)では、およそ20円程度価格が上昇し、課税額と同額分が食品価格に上乗せされました。この点において、違和感を覚えるかと思います。
前述のように、納税者は製造事業者もしくは販売事業者です。日本では、小売に至る流通段階で発生した追加コストは、そのまま最終小売価格に転嫁されることはなかなかありません。消費者の感覚として、生産コストの上昇分を、単純に値上げされることが受け入れがたいからです。
しかし、デンマークではこうした価格転嫁が当然のように行われているのです。なぜならば同国では、日常生活にかかわる物価が毎年のように値上げされるという社会背景が存在し、消費者が値上げに慣れている状態にあるといえます。
このため、本税の施行後、課税対象となった食品は一時的に売上が落ちたものの、数カ月以内に施行前の消費を取り戻しました。
畜産物への影響という点では、施行後、十分な時間が経過していないということもありますが、大きな影響はみられませんでした。
表2 脂肪税導入による価格変化
今後の影響など
本稿では割愛しますが、本税の導入にあたっては、国内外の食品製造業者や、消費者から多くの反発がありました。
その理由は、生活必需品への増税は生活を苦しめるという主張から、課税の過程が不透明であり、また飽和脂肪酸含有量を適正に評価する仕組みが不十分という意見まで様々でした。しかし、財政難の解消のため、政府として、このような増税に踏み切ったとみられています。
調査段階では、消費減退など畜産業全体への大きな影響はみられませんでした。
しかし、ハンガリーやイギリスなど他のEU加盟国でも、脂肪や糖分を含む食品に対する課税が導入、または検討されています。ユーロ圏の経済不況が続く中、新しい課税手法として注目されているものと思われます。
また、世界から注目を集めたデンマークの脂肪税ですが、本稿の執筆時点で、雇用の喪失などを理由に廃止も含めて議論されているとの報道もあり、食品を巡る情勢の一つとして、今後とも話題に上るものと考えられます。
なお、機構のホームページに『デンマークにおける「脂肪税」の導入と畜産物への影 響』と題したレポートを載せておりますので、こちらもぜひご覧ください。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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