オーストラリアの酪農生産と水資源
最終更新日:2014年5月7日
調査情報部 根本 悠
はじめに
オーストラリアは、広大な土地を利用し、国内各地で農業が行われているイメージがありますが、国土の大半は砂漠や乾燥した草原であり、酪農など農業が可能な地域は非常に限られています。
オーストラリアの自然、気候を表す際に、「オーストラリアは乾いた大陸である。」とのフレーズが用いられるなど、オーストラリアの平均降水量は日本の約1/4と少なく、水資源は重要となっています。
今回、オーストラリアの酪農生産と、その維持に欠かせない水資源との関係について報告します。
オーストラリアの酪農の特徴
オーストラリアの主要酪農地域
一般的にホルスタイン種などの乳用牛は暑さに弱く、同じ牛でも肉用牛と比べて、生乳を生産するために多くの飲用水を必要とします。このため、酪農は比較的気温が低く、飲用水が確保できるオーストラリア南東部(ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州)など一部の地域に限られています。
また、河川からの水資源を利用できる地域では、かんがいによる酪農も盛んです。
放牧地での放牧風景
酪農生産と干ばつ
干ばつ時の牧草地
オーストラリアの酪農生産は、一般的に放牧により行われ、乳牛は牧草を食べて過ごします。しかし、気象条件が変更すると、酪農生産は大きな影響を受けます。
オーストラリアの生乳生産量は、2000年以降、減少傾向となっていますが、これは、度々、干ばつに見舞われたためです。日本ではあまりイメージが沸きませんが、一度、干ばつが発生すれば、放牧地の牧草が枯れ、十分な飼料が質量共に確保できないことなどから、生乳生産量は減少します。
かんがい施設の整備による酪農生産
大規模なかんがい施設
こうした干ばつ被害を踏まえ、最近、オーストラリアの酪農の現場では、「かんがい」施設の整備が進んでいます。「かんがい」とは河川から水を引き、農地に水を
与えることを言います。
大規模な酪農家になると、左の写真のように、大型のスプリンクラー式のかんがい設備を有しています。
オーストラリアでは、酪農以上に水資源が必要となる稲作や園芸作物、さらに肉用牛生産など、農業部門間で水資源の競合が起きているのです。かんがい施設の整備が進んだ地域では、乾燥した気候であっても一定の生乳生産量が維持されており、今後のオーストラリアの酪農生産を担う役割が期待されています。
一方、かんがい施設の整備は、新たな問題を引き起こしています。かんがいには河川水からの水資源の確保が必要となりますが、これには水利権と呼ばれる一定の制限が加えられています。水利権とは、文字通り水を使用する権利のことであり、行政の管理のもと、市場で売買されています。干ばつが発生すると、多くの酪農家が貴重な水を買い求めるため、水利権の価格は高騰します。かんがいを用いた農業が盛んな地域では、2007/08年度の干ばつ後の2年間、水資源を購入する傾向が高まり、水利権の取引量は増加し、取引価格も上昇しました。
また、価格が上昇すると、酪農生産をあきらめ、高い水利権を売ることで収入を得るという生産者もいます。その年の気候により、水利権の取引量や取引価格は大きく変動するため、かんがいを利用する酪農家にとって、水は一つのビジネス資源となっています。
おわりに
近年の度重なる干ばつを踏まえると、オーストラリアではかんがいによる酪農生産は重要になっています。しかし、一方では、水利権取引の活発化に対応して規模を拡大する酪農家と対応できずに規模を縮小する酪農家への二極化も予想されています。
オーストラリアの酪農生産は、水資源の確保が、重要なカギとなっています。
【参考】月報『畜産の情報』2014 年2 月号
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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