【トップインタビュー】世界NO.1を支えた食へのこだわり〜トップアスリートとして伝えたい食の魅力と大切さ〜
最終更新日:2015年3月4日
元プロテニスプレイヤー 杉山 愛氏に聞く
現役時代はプロテニスプレイヤーとして年間250日間を海外への遠征で過ごされ、各国選手たちとの交流のなかで和食の魅力にも気付いたという杉山愛氏。
自身の体験から、体の基礎となる食生活について思うこと、食との関わりなどを伺いました。
バランスのよい食生活はどのように育まれたのでしょうか。
食生活は、自分の体を作る上で大切ですので、選手時代は常にバランスのいい食事を心掛けていました。
特に、母は料理が上手だったので、手料理もパパッと短い時間で4、5品作って食卓に並べてくれるという環境に育ちました。母からは、実践というか普段の生活の中でバランス良く食べることの大切さを学びながら生活していました。
また、食に関しては私自身も興味がありましたし、本を読んだりもしました。
17年のプロ生活の間、大きな怪我も無くプレーできたのは、食事や体のケアという日常生活の一つ一つがうまくできたからだと思っています。
食に関する知識や興味が、あるのとないのとではパフォーマンスに直接響いてきます。そういう意味では食べることの大切さを常に意識していました。
選手時代は、どのような食生活でしたか。お肉が多かったですか。
選手時代は、1日5食は食べていました。
練習も午前と午後したりするので、お腹いっぱいだと動けません。腹6分目くらいで抑えないと、いい練習が出来ないんです。
だから、選手時代は、お腹いっぱいに食べることはありませんでした。
試合の前後やトレーニング期間でも、食べ物を選んでいました。
自分が食べたい物と、選手として必要な物が違うこともありました。
試合の前日にステーキをドーンと食べると、消化に時間が掛かってしまって、体が重くなるということもあるので、そういう時は炭水化物を多く摂ったりしていました。
でも、試合の後は痛めた筋肉や疲労したところに、良いタンパク質をきちんと補充しないと次のリカバリーが遅れてしまったりするので、その時々に必要な食材を選んで食べていました。
トレーニング期間は、タンパク質を多く摂っていく、試合前は燃やすエネルギーを蓄えなければいけないので炭水化物が中心になります。
それに加えて繊維質やビタミン・ミネラルを摂るため野菜も積極的に食べて、バランス良く偏った食事をしないようにしていました。
また、テニスは頭を使うスポーツでもありますから、脳のエネルギーになる砂糖は、疲れた時に意識して摂っていましたし、牛乳やチーズ・ヨーグルトなどの乳製品は、好きでよく摂っていました。
引退後の食生活は、大きく変わりましたか。買い物や料理などもされていますか。
食べる量は、選手時代の半分以下になっていますけれども、今も風邪とかひきたくないですし、なるべくエネルギッシュでいるためにバランスの良い食事を心掛けています。食事は、体だけでなく気持や精神にも直接働きかけるものと思います。食って楽しいものですし、リラックスだったり家族の会話だったりとか、喜びをもたらしてくれる時間だと思います。自分で料理することも楽しんでいますし、外で食事する時もみんなで楽しい時間を持つことを意識しています。
買い物は、自分でスーパーに行ったりもします。食材選びも好きですし、農畜産物を買う時は、国産のものかどうか、それがどこでとれているのかなどは気になりますね。
食から学んだことなどありましたら教えてください。
小さい時は食が細くて、せっかく母が作ってくれた料理が並んでいても口に運べないということがありました。食べられないことでいいパフォーマンスが発揮できず、食の大切さを痛感したことがありました。
夏の暑い日のことでしたが、ジュニアの試合は1日に2〜3試合あるんですが、その試合の間にエネルギーの補給をしなきゃいけなかったんですが、その時に、暑かったり疲れていたりで、何も食べなかったんですね。
そしたら、2試合目に入って初めの方は調子が良かったんですけれども、パタッとエネルギーが切れたのを感じて、そこから本当に動けなくなったんです。食べないとエネルギーって無くなるんだなと、その失敗から食べることの重要性を身をもって体験しましたね。
一日何試合もあれば、ちょこちょこ食べなくちゃいけないということを学びました。
胃腸の調子とか体調は、メンタルが影響すると思いますが。
そうですね、メンタルが大きく影響しますね。試合前で緊張すると、やはり胃腸の調子がよくなかったりします。普段は食べても平気なものでも試合前に食べると消化不良を起こしてしまうこともありました。
ですから、常に自分の体と対話し、これを食べたら調子が良かったとか、逆にお腹が重くなったとかフィードバックしながら食に向き合ってきました。
四季のある日本ならではの旬の食材や和食についてどのようなイメージをお持ちですか。
現役時代は、年間250日間くらいは海外に行っていましたから、旬を逃して食べられなかったといった時もありました。
引退して5年になりますが、今では日本の四季を味わい、旬のものを「あぁ季節だー」って感じながら、また、スーパーでも並んでいるものが変わってくるので、この季節にったらこれ食べたいなとか、ありますよね。だいたい旬のものは栄養価が高いですし、安くて、手が出やすいですよね。
海外のいろんなところに行きましたけれども、日本の食のレベルの高さというのは、本当に外国に行けば行くほど痛感させられます。和食が無形文化遺産に登録される前から海外では和食がブームで、健康志向という点もあり、寿司や日本のビーフは、質の高さというのが海外でもうけていて、外国人選手も「愛、どこに行ったらいい?」とか「何食べたらいい?」とか結構その土地、土地で、みんな聞いてきますね。私自身、遠征地でもその土地ごとに行きつけの和食屋さんがありました。
日本の農畜産物についてどのようにお感じですか。
日本の農畜産物は、野菜とかも、味が全然違いますよね。日本の農家の皆さんは、こだわりを持って、作っていると感じます。
食材は、やっぱり信頼できて安全ということが重要です。食べたものが実際に自分の体になりますから、そういう意味では安心して食べたいなという気持ちから、かなりこだわりますね。
お仕事で農家にも行かせてもらいましたが、土作りへのこだわり、手作業で虫を取り除いたりとか、手間をかけて、愛情持って育てていると感じました。
日本の農家の質の高さやこだわりというものは、なかなか海外にないと思います。
私は、これからも日本の農畜産物をサポートしていきたいなと思っています。
これからスポーツで活躍したいというお子さんたちに食について伝えたいことはありますか。
トレーニングを積んだり、厳しい練習を乗り越えたりすることももちろん大切ですけれども、それと同じくらい自分の体の管理も大切です。特に、お子さんはこれから成長していく段階で、食べているものが自分の肉となり骨となり血となります。
質の高い筋肉を作るためには、食べることもトレーニングの一環としてとらえることで、バランスの良い食の大切さが分かったり、食に対しての意識も高まっていくと思うんです。
そういったことをきちんとできないと、世界のトップにはなかなか行けないですし、怪我にも直結します。そういう意味でも、高いレベルの意識を持って食べることが大事だとお伝えしたいと思います。
トップを目指す選手は、食に関しての勉強もしていますし、相当考えながら自己管理しています。そのように意識を高く持っている人がトップに行く。
そこをないがしろにすると、自分に返ってきちゃいますから。怪我ってアクシデントみたいなもので、起きてしまう時は起きてしまうけれども、事前に自分で防げることもありますから、そのための日々の積み重ねが大切です。毎日の食事は、すごく重要な部分なのかなと思います。
一方で、その日の天候だったり相手の調子だったり、自分ではコントロールできないことってあると思うんですよね。でも、自分自身のことはコントロールできるので、そこを管理しないことには、なかなか納得のいくパフォーマンスは出来ないと思います。
コントロール出来ることをしっかりやっていれば、上手くいかなかったときも、全てを出し尽くして、かなわなかったらしょうがないな、自分が足りないな、じゃあ何が足りなかったのかっていうことが明確に答えとして出てくると思うんです。挑戦していく上で自分がやるべきことは全部やれたっていうことが、自分の中では納得できる前進の仕方だと思うので、やらずにはいられない、という感じでしたね。
また、子育てをされているご両親には、一緒に食卓を囲む家族だんらんの時間に「今日どうだった?」と何気ない声かけをしてあげて欲しいと思います。
今後はどのような活動をされていくご予定ですか。
今後は、テニスの指導にも力を入れていきたいと思っています。今年4月から大学院に通い、コーチ学を学ぶ予定です。大学院で2年間勉強した後に、もうちょっと本格的にテニス界にエネルギーを注いでいきたいと思っています。
「食」というのは、生きている限り付き合っていくものですし、また、年齢とともニーズが変わってくるので、食の大切さも勉強していけたらと思っています。
超高齢社会を迎え、出来る限り健やかに楽しく生きていくために、常にアンテナを張りながら、何が自分に合っているのか、個人差もあると思うので自分に合った食というのをそれぞれが見つけていくことが、大切かなって思います。
元テニスプレイヤー 杉山 愛
昭和50年生まれ
4歳でラケットを握り、15歳で日本初の世界ジュニアランキング1位に輝く。
17歳でプロに転向し1772試合の公式戦を転戦。
平成21年10月 東レ パン・パシフィックオープンを最後に引退。
平成22年には、第1回ユースオリンピックで日本人唯一「アスリートロールモデル」に就任し、世界中の若い選手の指導的役割を果たす。
現在は、スポーツ番組のキャスターや情報番組コメンテーター、グランドスラム解説など多方面で活躍。
<主な戦績>
WTA(女子テニス協会)ツアー最高世界ランキング:シングルス8位、ダブルス1位
グランドスラム(4大大会)では、女子ダブルス3度優勝、混合ダブルス1度優勝
シングルスでは、グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196