【レポート】豪州のFTAなど締結に伴う牛肉と乳製品の輸出見通し
最終更新日:2016年1月6日
調査情報部 根本 悠
オーストラリア(豪州)は、世界の主要な牛肉・乳製品の輸出国であり、貿易取引を拡大させるため、日本、韓国、中国とFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を結んでいます。そこで今回は、これらFTAなどを踏まえた、今後のオーストラリアにおける日本、韓国、中国向けの牛肉・乳製品の輸出見通しについて報告します。
多くの牛肉・乳製品輸出は、日本・韓国・中国へ
近年、オーストラリアは、日本、韓国、中国をはじめアジア諸国向け輸出を重視しています。牛肉については、国内生産量の増減に応じて輸出数量は変動するものの、日本は米国と並ぶ最大級の輸出先であり、韓国、中国がそれに続いています(図1)。 一方、乳製品については、品目により違いがあります。最大の輸出品目であるチーズを見ると、日本が全体の過半を占める最大の輸出先であり、中国、韓国がそれに続いています(図2)。また、粉乳類(脱脂粉乳など、牛から搾った乳を乾燥させて粉状にしたもの)については、中国が最大の輸出先です。このように、日本、韓国、中国はオーストラリアにとって非常に重要な輸出先となっています。
オーストラリアと日本・韓国・中国とのFTAなどの合意内容
2014年以降、オーストラリアは韓国、日本、中国の順にFTAなどを締結しました。一般的にFTAなどでは、締結した国の間で関税が削減または撤廃されるため、貿易の活発化が期待されます。オーストラリアが締結した一連のFTAなどでも、牛肉・乳製品分野において関税が削減または撤廃されています(表)。
まず、牛肉については、韓国、中国との間では10〜15年かけて関税が撤廃され、日本との間では、15〜18年かけて締結前の半分ほどまで関税が削減されます。ただし、いずれの国においても、急激に輸入量が増加した際は、関税を引き上げる「セーフガード」と呼ばれる措置も組み合わされています。
次に、乳製品については、国ごと品目ごとに異なる合意内容となっています。中国では5〜12年かけて、すべての乳製品の関税が撤廃され、韓国では、粉乳類は対象外とされましたが、バターやチーズの関税は13〜20年かけて撤廃されます。一方、日本では、バターや脱脂粉乳など多くの品目は関税撤廃や削減の対象外となり、チーズについては、一定の条件のもと、関税割当(無税や通常より低い税率で輸入される数量)の拡大などが合意されました。
日本・韓国・中国への牛肉・乳製品の輸出見通し
FTAなどの合意内容を踏まえた、オーストラリア側の牛肉・乳製品の輸出見通しは、次のとおりとなっています。
まず、日本市場については、牛肉は、関税の削減により、一定の輸出増加を見込んでいる一方、乳製品は、直接的な関税の削減や撤廃が行われないため、あまり輸出の増加が期待できないとしています。また、牛肉・乳製品両方に共通して、日本市場については「安定性の維持と価格競争力の低下」と言われています。これは、日本は常に一定量を購入する安定的な市場である一方、価格面に目を転じると、最近は日本より高い価格を提示する中国や中東などに輸出先を変更しているということです。
次に、韓国市場については、牛肉と多くの乳製品の関税が撤廃されるため、FTAの合意を好意的に捉え、輸出の増加を期待しています。ただし、牛肉に関しては米国、乳製品に関してはニュージーランドといった韓国市場での競合国の動向も大きく影響するとみられています。
最後に、中国市場については、牛肉・乳製品ともにすべての関税が撤廃されるうえ、今後需要の拡大が見込めるため、大きな期待を寄せています。ただし、牛肉に関しては、オーストラリアはすでに中国の最大の輸入先であるのに対し、乳製品に関しては、ニュージーランドという中国の最大の輸入相手国と競合することになるため、オーストラリア乳業界の主力品目であるチーズなど価格の高い製品を中心に、差別化を図ろうとしています。
今回、FTAなどを踏まえたオーストラリアの輸出見通しについて紹介しましたが、FTAなどによる関税の削減は、あくまで輸出入の増減を決定する一要素に過ぎないということにも留意する必要があります。実際には、輸入する国の国内生産の動向や他の輸入国の動向、気象条件、外国為替相場、競合国の輸出余力など、さまざまな要因が絡み合って、輸出入量は変動しています。それは、日本への牛肉・乳製品の輸出でも同様であり、その時々の日本の国内生産や需要の動向に加え、近年、急激な需要の拡大がみられる中国の動向なども、今後の日本の牛肉・乳製品輸入に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
【参考】畜産の情報2015年9月号「豪州の経済連携協定締結に伴う牛肉および乳製品の輸出動向と今後の展望 〜日豪EPA、韓豪FTA、中豪FTAを比較して〜」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2015/sep/wrepo01.htm
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