【レポート】変革期にあるタイの砂糖産業
最終更新日:2016年1月6日
調査情報部 丸吉 裕子・谷村 千栄子
タイは、世界第4位の砂糖生産国、世界第2位の輸出国です。日本にとっては最大の砂糖輸入先であり、2014年には総輸入量の約6割がタイからの輸入となっています(図1)。
今回は、日本にとって重要な砂糖輸入先であるタイの砂糖の生産や需給、製糖企業による経営の多角化について報告します。
日本を大きく上回るサトウキビ生産
砂糖の原料はサトウキビやてん菜ですが、タイでは、サトウキビから砂糖を生産しています。
2 0 1 4 / 1 5 年度(2014年10月〜2015年9月)には、約150万haの栽培面積で、約1億tのサトウキビを生産しています。これは日本のサトウキビと比べて面積で約50倍、生産量で約85倍に相当します。サトウキビの生産者戸数は約30万戸(日本の約12倍)、1戸当たりの平均収穫面積は7ha程度(同約8倍)です。
拡大する砂糖の需要と供給
タイの砂糖生産量は、サトウキビの増産により、500万t程度だった10年前から飛躍的に増加し、近年は1000万tを超えて推移しています。
国内消費量も近年は300万tを超えています。これは、加工食品向けの需要が高まっていることが理由の一つです。タイに工場を持つ日系企業も、砂糖を使った果物の缶詰などの加工品を生産しています。
輸出量は年間600万〜800万t程度で推移しており、主にASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国(インドネシア、マレーシア、カンボジア、シンガポール、ミャンマーなど9カ国)や日本などの東アジアの国・地域へ輸出しています(表1)。
エタノール生産による企業の経営多角化
砂糖以外に、サトウキビからは、発酵や蒸留により、自動車燃料などに利用できるエタノールを生産することができます。
これまで、タイでは、砂糖を製造する過程の副産物である糖みつからエタノールが生産されていましたが、現在は、砂糖を製造する前段階のサトウキビの搾り汁からも、試験的なエタノール生産が認められるようになりました。これは、企業の経営安定のため、サトウキビから砂糖以外の製品を生産できる選択肢を増やすことができるよう政府が講じた措置です。
タイの製糖企業は、砂糖の国際価格が低迷する中、砂糖とエタノールの両方の価格動向を見ながら、砂糖のみならずエタノールも生産し、経営を多角化することで収益拡大を図っています。
さらなる発展を目指す貿易政策
タイは、経済成長戦略の一環として、日本やオーストラリアなどの国々とFTA(自由貿易協定)などの貿易協定を結んでいます。
特に、タイの砂糖産業にとって重要なのは、ASEAN加盟国との貿易協定です。ASEAN内の砂糖の関税率は、2010年には最大40%でしたが、2015年には0・5〜10%にまで削減されて、輸出国であるタイにとって大きなメリットが得られています。
2015年末に発足したASEAN経済共同体(AEC)では、砂糖を含む製品の関税が撤廃される予定であり、ASEAN域内のモノ・人・サービスの自由化が目標として掲げられています。タイ国内では、サトウキビ生産者や製糖事業者、食品企業、一般消費者などが一体となって、AECの発足に合わせた国内の砂糖流通の自由化など、砂糖政策の見直しが検討されています。
砂糖の国際価格の低迷やAECの発足などの影響などから、タイの製糖業界は付加価値の高い製品やエタノール生産などの経営の多角化を迫られています。現地では、「タイの製糖業界は変革の時を迎えており、生産量が多い今こそ、チャレンジする適期」との声も聞かれ、タイの砂糖産業は、まさに「変革期」にあると言えます。タイを最大の砂糖輸入先とする日本にとっても、今後の動向が大変気になるところです。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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