【トップインタビュー】畜産経営に女子力の発揮 〜持続可能な畜産経営の実現に向けて女性の力を集結〜
最終更新日:2017年11月1日
全国畜産縦断いきいきネットワーク会長 小林 陽子 氏に聞く
全国の畜産に携わる女性が飼養畜種を越えて集まり、時には日頃の悩みを相談し、時には経営や畜産技術に関する情報を交換するなど、
畜産女性の活躍をけん引してきた、全国畜産縦断いきいきネットワークの小林会長にお話を伺いました。
会長の就農、全国畜産縦断いきいきネットワークに参加したきっかけ。
私は、銀行に勤めていたのですが、結婚と同時に就農しました。農家に嫁いで、最初は近くに友達もいないし、家族みんなの食事を用意してお昼も一緒に食べるなど、自然と家の中で閉じこもった生活になりがちでした。しかし、三重県内の専業農家に嫁いだ若嫁さんたちを各地区で集めた「若妻の会」に出席したのがきっかけで、少しずつ簿記やパソコンの勉強会、会員同士の交流会などに参加するようになりました。
そうした中、全国畜産縦断いきいきネットワーク(以下「いきいきネットワーク」という。)の事務局である中央畜産会からのお誘いを受け、いきいきネットワークの設立に向け105名の発起人の一人としてメンバーに加わったことがきっかけです。発足式には、発起人と全国の都道府県から約150名の畜産女性が集まりました。
いきいきネットワークについて教えてください。
畜産に携わる女性たちは、家庭と両立しながら畜産経営を営んでいます。最近では、女性の持つ感性を生かし、自ら生産した農畜産物の加工・直売への取り組みや子どもたちへの生命教育、消費者との交流などを実践し、畜産の大切さを伝えようと活動されている方々も数多くいらっしゃいます。そこで、平成17年に全国の畜産に携わる多くの女性たちが飼養畜種を越えて集まり、相互の交流と研さん、消費者との交流などを通じて、より魅力ある畜産の実現を目指して設立されました。
会員の皆さんは、どんな悩みを相談したり、情報交換されているのですか。
親との同居や家族のことから、後継者のこと、従業員のこと、新しい畜産技術のことまでさまざまです。年に1回、夏に開催する大会は、意見交換のほか寸劇などの楽しさの要素も盛り込んでいます。最近では、女性が元気で頑張ろうと「女子力アップ」や後継者不足に悩む方もおられる中で「後継者」をテーマに成功例を聞いたり、パネルディスカッションをしたりしています。大会に参加すると、会員の皆さんから刺激を受け、また明日から頑張ろうという活力をもらって帰ってきます。
また、全国の畜産女性と知り合い、ネットワークが広がっているので、全国各地で災害などが発生すると会員同士がメールなどで連絡を取り合ったりしています。
有限会社小林ファームの養豚経営概況などについて教えてください。
有限会社小林ファームは、三重県亀山市で豚の繁殖肥育一貫経営と食肉加工販売を行っています。
母豚の頭数は約260頭で、年間に約6500頭を出荷しています。長男の就農に合わせて新しい豚舎も稼働を始めていて、さらに規模の拡大を図っています。豚の成長に合わせて、飼養スペースを移動させることで成長に合わせたスペースを確保して、余裕あるスペースで飼っています。豚を移動させた後は、豚舎を消毒して乾燥させることで、次の豚への病気の感染を防いでいます。
食肉加工販売はいつ頃から始められたのですか。
食肉の販売は、自分たちが作ったおいしい豚肉を自分たちで販売したいと考え、平成10年から始めました。それ以降、精肉加工・販売は、私の担当として頑張ってきました。
最初は、知り合いのお肉屋さんに精肉にしてもらい、空き店舗を借りて月1回の販売からスタートしました。今では、食肉加工販売施設を整備して、年間約1000頭を精肉に加工し、宅配やファーマーズマーケットなどを通じて直売しています。
宅配では、大事に育てた豚だからこそ、できるだけ全部丸ごと食べてもらいたいと50kgの1頭売りをしています。グループで購入していただければ、個人の要望で各部位ごとの調理方法に合わせて希望に沿ったカットを施し、1kgずつ包装してお届けするので、保冷箱のふたを開けたら個人ごとにすっと渡せるようにしています。もちろん、部位ごとに購入する定価よりもお値打ち価格です。
食育活動などにも取り組まれているのですか。
食肉加工販売施設の一部を増設して、調理もできるスペースを設け、生産農家だからこそ知っていることを「とんとん塾」と呼ぶ食育活動を通じて消費者に伝えています。豚肉をおいしく食べるためのお料理教室や、各部位の特徴に適した調理法を紹介する豚肉部位別の使い方講座、職人が骨付きの枝肉の状態から骨を抜き切り分け精肉にする過程を見てもらう枝肉脱骨作業見学などを行っています。
その他にも、三重県知事から認定を受けた農村女性アドバイザーやいきいきネットワークの三重県版である「サン・カラット」の代表世話人として、講演会などにも参加しています。
畜産の魅力について。
畜産は、家畜が生まれてから、出荷するまでの大変な苦労もありますけれども、最後はその命をいただいて、それによって自分たちが生かされていることが身に染みて感じられる仕事だと思います。
小林ファームでは、中学生の子たちの職場体験の受け入れをしています。子供たちは、5日間ほど豚舎の掃除などを体験すると、農家の人の苦労があるからおいしい豚肉が食べられるということを、肌で感じて作文に書いてきてくれたりしました。大きくなってからも、思い出として忘れないでいてくれて、販売所を訪ねてくれたりすると本当に嬉しいです。今は、防疫上の関係で、豚舎での職場体験の受け入れができないのは残念ですが、加工販売所で精肉の販売などを体験してもらっています。
畜産は、子育てと同じだから女性の得意分野と聞いたことがありますが。
やはり、畜産は女性の得意分野だと思います。豚の分娩に時間が掛かる難しい出産の時は、女性の腕を産道に入れて出産を助けたりします。これは、腕の太い男性には向かないので、以前は母の仕事でしたし、今でも経験豊富な女性が担当しています。出産が重なった場合など、女性特有のきめ細やかな観察力と対応が、分娩成績を高め豚の出荷成績の向上にも繋がっています。
いきいきネットワーク会員からの大会メッセージには、「従業員の健康と悩みごとについては、何でも相談を受けて、仕事に専念できる環境を整えることが一番大切」「女性らしい仕事ぶりとは、女性としての目配り・気配り・心配りを活かすこと。我が家の場合、意見の相違で時々もめる夫と息子たちの間を和らげる潤滑油。でも、男性の仕事、女性の仕事と決め込むのではなく、自分の可能性を見つけ最大限に引き出し、自分ができることを精一杯頑張ること」などがあります。やはり、畜産経営に女子力の発揮は欠かせないものではないでしょうか。
今後の夢や希望を教えてください。また、これから農家に嫁ぐ方に一言お願いします。
以前は、料理教室ができたらいいなって思っていたのですが、その夢はかなったかなと感じています。引き続き、新しいお料理を紹介していく中で、昔は汚い、臭い、きついっていう畜産のイメージを、最近は明るくやっていると感じてもらえるよう頑張っていきたいし、自分自身もそう感じながら生活していきたいと思っています。
私も年令的には、次世代につなげる年令に差し掛かってきたので、私生活でも、いきいきネットワークでも、これまでの経験を若い人たちに、うまく伝えてバトンタッチができるといいなと思っています。
また、食育で関わった子供たちが、大きくなって家族や子どもを持った時に、食育で感じたことを自分の子育てに生かしてもらえるような、食の思い出づくりのお手伝いを、これからもしていきたいと思っています。
これから農家に嫁ぐ方は、時代も変わってきて自分を生かせる場面が絶対にあると思うので、自分の得意分野でチャレンジして頑張って欲しいと思います。私は養豚農家に嫁いでも、農場では本当にお手伝い的なことしかできませんが、お肉の販売を始めて6次化の部門や、料理教室など食育の場を中心に、今まで頑張ってきました。農家は、時代の流れで1次の生産部門だけでなく、6次化の仕事まで含めるとさまざまな道が開けています。
全国畜産縦断いきいきネットワーク 会長 小林陽子(有限会社小林ファーム 三重県亀山市)
昭和62年 結婚と同時に就農
平成5 年 農業改良普及センターの呼びかけで「若妻の会」に参画
これ以降、各種勉強会や食育活動に積極的に参加
平成10年 有限会社小林ファームの設立
平成14年 平成14年度全国優良畜産経営管理技術発表会(社団法人中央畜産会主催)の中小家畜
部門で最優秀賞に当たる農林水産大臣賞を受賞
平成17年 全国畜産縦断いきいきネットワーク設立の発起人として参画
平成28年 全国畜産縦断いきいきネットワークの5代目会長に就任
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