【alicセミナー】「米国酪農の現状と見通し」「EU酪農の現状と見通し」
最終更新日:2018年3月7日
世界の生乳生産量における上位2地域は、EUとアメリカです。巨大な消費市場を抱えるEUと国内重視の生産をしているアメリカという特徴を持ちながらも、国際市場では両地域の酪農事情は常に注目されているところです。alic調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しており、今回この両地域の調査結果について平成29年12月12日(火)のalicセミナーで報告をしましたので、その概要を紹介します。
アメリカ酪農、輸出増の予想
アメリカ酪農については、調査情報部 渡邊陽介から報告を行いました。
トウモロコシなどの飼料穀物価格が安価に推移していることなどから、近年、経産牛(出産を経験した牛。乳を搾るためには出産が必要。)の頭数は、増加傾向です。また、1頭当たりの乳量も、遺伝的改良や餌の品質向上などにより増加傾向となっており、その結果、アメリカにおける生乳生産量は、増加しています。
一方、牛乳乳製品の需給状況に目を向けると、飲用乳の販売量は豆乳やアーモンド乳などの植物性飲料との競合などにより、減少傾向で推移しています。しかし、チーズ、脱脂粉乳、ホエイ類の製造は増加傾向です。アメリカ農務省の長期予測では、経産牛飼養頭数は2022年まで、1頭当たりの乳量は2026年まで増加傾向で推移、乳製品の消費量も、チーズは調理済み食品や外食の需要増が、バターはマーガリンからの移行などが考えられるため、人口増加を上回るペースで増加すると見込んでいます。また、輸出量も、脱脂粉乳やホエイを中心に増加傾向と予測しています。このような状況を受け、アメリカ乳製品輸出協議会は“NEXT5%”として、生乳生産量に占める輸出割合を現在の15%から今後3年間で20%まで増やす戦略を掲げています。
EU酪農、CAPの下での効率的な生産を推進
EUの酪農については、同部大内田一弘が報告しました。
EUの農業は、共通農業政策(CAP)という、加盟国28カ国で共通の政策を導入しています。その中で、酪農分野では生乳クオータ制度という加盟国ごとの生乳生産量の上限を定めた生産割当制度が30年以上導入されていました。しかし、2008年のCAPの見直しにより、2015年3月31日をもってこの制度が廃止されました。廃止をにらみ、EU内では生乳の増産が図られてきましたが、時期を同じくして、ロシアがEUの乳製品を含む農畜産物の禁輸措置を講じたこと、中国の需要停滞などがあり、生乳や乳製品の価格が下がるなどして、生乳の主要出荷国であるドイツやフランスなどでは、牛の飼養頭数の減少が進みました。一方で、オランダ、アイルランド両国は、酪農を基幹かつ成長産業と位置づけ、飼養頭数、生乳出荷量共に増加させるなど、各国により状況が変化してきています。
また、乳製品の生産も品目により、違いが見られます。チーズは、日本も含むEU域内外から需要が増えているため、生乳の仕向け割合も増えています。また、バターも世界的な乳脂肪に対する需要の高まりもあり、EU域内の消費量も増加しています。しかし、その生産の4割を占めるドイツ、フランスの生乳生産が減少しているため、生乳のバターへの仕向けが増えず、現在のバター価格上昇の一要因となっています。一方、脱脂粉乳、全粉乳は、需要が低迷しています。それでも、全粉乳は、中国などEU域外からの需要がある状況ですが、脱脂粉乳の在庫は積み上がっている状態です。CAPでは、公的介入買い入れの政策があり、現在、在庫が積みあがっている国では、公的買い入れを実施していますが、その売り渡しについては今後の動向が注目されるところです。
日本とEUは、日EU・EPA(経済連携協定)について、2017年に交渉が妥結しました。EUの酪農関係団体などは、日EU・EPAの結果は、輸出拡大のチャンス、特に、日本のチーズ消費量が増えていることが、EU産チーズの輸出機会の拡大につながると考えています。また、現在のCAPの期間が2020年までとなっており、次期CAPの動向についても、注目が集まるところです。
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