【第一線から】サラリーマン時代より稼げる農業経営に〜茨城県鉾田市(ほこたし) 田口真作(たぐちしんさく)さん〜
最終更新日:2018年5月9日
公務員から農業経営者へ
茨城県の東南部に位置する鉾田市でほうれんそうを栽培している田口さんは、大学卒業後に県の普及センターに5年間勤務した後、平成22年に家業の農家を継ぎました。就農当時はメロン、ミニトマト、こまつななど多品目を計2ha栽培していましたが、現在はほうれんそうのみで、栽培面積を5haに拡大しています。
現在の経営スタイルは、就農当初「自分はどんな農業をしたいか」を考えて掲げた「サラリーマン時代より稼げる農業経営」という目標を着実に実現させてきた姿です。田口さんは自身の理想の農業経営のためにさまざまな事柄に取り組んできました。
ほうれんそう専作に必要な基盤作り
まず、栽培品目を絞り込むことから始めた田口さんは「需要が高く、価格が安定していて所得率が高いほうれんそうだけを1年中作ろう」と決め、それに適した土が必要と考え、自宅で土壌研究を始めました。自分で土壌診断を行い、暑さに弱いほうれんそうを真夏でも収穫でき、また、連作障害の出ない、まさにほうれんそう専用の土を作りました。
「自分が作り上げたバランスの良い土なら、1年中ほうれんそうだけを栽培できる」と話す田口さんは、一般的にほうれんそうの栽培に適さないと言われる夏の畑の管理も工夫しました。ハウス上部の窓が開く設計にし、上にこもりがちな熱気を逃がせるようにして、落ち込みがちな夏場の収量を上げました。また、夏は2日に1度のペースで潅水(かんすい)が必要で、120棟のハウスを所有する田口さんには大変な負担でしたが、スマートフォンを使った遠隔操作で潅水ができるようにし、通常ハウス1棟につき15〜20分かかっていた潅水作業を自動化させたことで大幅な省力化を図りました。
現在年間3.5回作付けしているところを、今後5回に増やせるよう、さらなる効率化を目指しています。
有利販売に向けた取り組み
販売でも差別化を図ろうと、平成24年に農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の一つであるJGAP認証を取得しました。周年供給の強みもあるため、その後まもなく取引先が見つかり、周年契約栽培取引を開始しました。また、有利販売できる売り先を確保したことで、より確実に契約数量を出荷しなくてはと考えて、自宅敷地内に予冷庫を新設しました。それ以降、在庫量に余裕を持って周年安定供給を続けています。
労働力の確保
ほうれんそう専作に移行し、徐々に環境を整えて順調に規模拡大を図りましたが、それと並行して労働力の確保が課題となりました。そこで田口さんは、家族や従業員の働きやすさ向上のためのルールを作りました。これまで作業の効率化を図ってきたこともあって毎週日曜を定休日にすることができました。さらに、作業体系を見直して残業もなくしました。周年雇用、残業なし、決まった休日、JGAP取得など、安心して働ける職場環境作りに努めた結果、現在12名の従業員が長期定着しています。
もともと、田口さんが経営改善に取り組む背景には、稼げる農業という他にも、7歳、5歳、3歳、0歳の4人のお子さんとの時間を大切にしたいとの想いもありました。規模拡大しても、長期雇用しているベテランの従業員のおかげで作業効率が上がっているので、田口さんの負担が増えることなく、希望通り家族と過ごす時間が増えて私生活も充実しています。
次の目標に向かって
学生時代から趣味の登山やフルマラソンに挑戦してきた田口さんは、できないことができるようになる快感を農業経営にも感じていると話します。「自分は負けず嫌いだから、最初に目標を掲げて自身にプレッシャーをかけることで道を切り開いてきた。取引先にも自分にも、一度『やる』といった手前、絶対にやり遂げないと気が済まない性格なもので」と語る田口さんの次の目標は、高冷地で農場を立ち上げることです。「規模拡大の目的もあるけれど、好きな登山もできるから」と笑う田口さんは、今後、栽培や経営のマニュアル化を進め、ほうれんそう栽培に適した土と人を育てる、コンサルタントのような役割も果たしていきたいと、次の目標に向かって走り始めています。
(野菜需給部)
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