【レポート】アルゼンチンの牛肉生産・輸出事情〜パタゴニア地域を中心に〜
最終更新日:2018年11月7日
日本から見ると、地球の裏側に位置するアルゼンチンは、他の南米諸国と並んで、世界でも有数の牛肉消費国の1つとして知られています。「アサード」と呼ばれるアルゼンチン風炭火焼きで食されるのが一般的です。その味は、和牛とは異なり赤身中心で、歯ごたえはありつつも、非常にジューシーであり、そのためアルゼンチンは、EUなどから「世界で最も牛肉がおいしい国」と評価されています。そんなアルゼンチン産牛肉が、もうすぐ我々の家庭でも食べられるようになるかもしれません。今回は、アルゼンチンの牛肉輸出動向について、日本向けに仕向けられるパタゴニア産を中心に紹介します。
アルゼンチンは、世界第6位の牛肉生産国であり、国民1人当たりの牛肉消費量は、日本の9倍以上である58 ・5kgと、その豊富な生産力を背景に、国民の食卓に欠かせない存在となっています。また、生産量の約1割が輸出されており、主な輸出先は中国、チリ、そしてヒルトン枠やQUOTA4 81(※1)を有するEUです。また、部位によって輸出先が異なるのも特徴の1つで、ヒレやサーロインといった高級部位はEUに、スネなどの部位は中国に輸出されることが多くなっています。
(※1 )ヒルトン枠は、EUにおける高級牛肉の低関税輸入枠のことで、放牧肥育であることなどが条件とされています。QUOTA4 81は、同じく高級牛肉の無税枠で、一定期間の穀物給与などが義務づけられています。
日本向けの輸出は、2018年6月末に、家畜伝染病予防法施行規則が改正されたことで事実上の解禁となり、7月下旬には第1便が日本に到着したことが確認されています。ただし、アルゼンチン全土からの輸入が解禁されたわけではなく、口蹄疫のワクチンを接種せずに、口蹄疫の発生がなくなったと国際獣疫事務局(OIE) (※2)に認定された地域(口蹄疫ワクチン非接種清浄地域)であるパタゴニア地域に限定されています(図)。
(※2 )国際獣疫事務局(OIE)は、世界の動物衛生の向上を目的とした政府間機関で、動物衛生や人獣共通感染症に関する国際基準の策定などを行っています。2018 年5月25 日現在182の国と地域が加盟しています。
この地域には、年間1000頭以上の牛をと畜するパッカー(※3) は約30 社ありますが、2016年のと畜頭数が1万頭以上だったのは5社しかありません。その中の最大のパッカーで、日本向けの牛肉取扱施設としてアルゼンチン政府から指定されているのがFRI DEVI社です。FRIDEVI 社は、年間1万2000t程度の生産量のうち、300t程度を輸出しており、そのうち約9割がE U向けとなっています。FRID EVI社の輸出担当者によると、日本にも、EU向け同様、サーロインやリブロース、ヒレなどの高級部位を中心に輸出したいとしています。
ただし、パタゴニア地域における牛の飼養頭数は、アルゼンチン全体の2%程度とされており、残念ながら、日本向けの輸出が急拡大するということは考えにくいでしょう。加えて、アルゼンチンでは、国内向けと輸出向けとで、出荷生体牛の大きさが異なるのが特徴で(※4)、そのため、ただでさえ飼養頭数が少ないパタゴニア地域で、どのように輸出用サイズの大きい牛を確保するかが、輸出拡大の鍵ともいえるでしょう。
(※3 )家畜のと畜、解体、加工、流通まで携わる業者
(※4 )アルゼンチンでは「若い牛ほど軟らかい」という消費者の概念があるため、国内向けは、300〜400kg 程度で出荷されるのに対し、輸出向けは460kg以上が一般的とされています。日本の肉専用種肥育牛の平均出荷体重は761kgであることから、アルゼンチンの国内向けがいかに小さいかが分かります。
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