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【トップインタビュー】豊かな自然から生まれた蔵王(ざおう)チーズの魅力チーズは乳製品の王様〜宮城県蔵王町の一般財団法人 蔵王酪農センター〜

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最終更新日:2019年7月3日

一般財団法人蔵王酪農センター 理事長 冨士 重夫 氏 に聞く

宮城県蔵王地方において、酪農技術の向上やこだわりを持ったチーズ作りに幅広く取り組んでいる一般財団法人蔵王酪農センターの冨士理事長に国産チーズの魅力などについてお話を伺いました。
 

蔵王酪農センターの沿革を教えてください。

一般財団法人蔵王酪農センター 理事長 冨士 重夫  氏
一般財団法人蔵王酪農センター 理事長 冨士 重夫 氏
 1960年(昭和35年)に、神奈川県厚木に財団法人酪農電化センターとして設立したのが最初です。当時、電力を導入した酪農の機械化を進めるため、先進的な酪農経営の実証農場を作ることが目的でした。1964年(昭和39年)、大規模の草地酪農ができる土地を求めてこの蔵王町に110haの土地を購入し、移転しました。周辺では戦後、パラオなどからの引揚者が入植して酪農を行うようになっており、広い土地を確保して酪農の実証を行うのにふさわしい立地でした。
 1980年(昭和55年)には、国内における生乳の需給状況の変化に対応することもねらいとして、ナチュラルチーズ(※1)の製造工場を建設しました。当時は国内ではプロセスチーズ(※2)が主流であったため、ナチュラルチーズを作ることに対しては慎重論も寄せられましたが、当時の山口巌理事長は、日本各地には漬物、みそ、醤油など発酵食品の文化があり、将来日本でも発酵技術を生かしたナチュラルチーズが盛んになるはずであるという信念の持ち主で、国産第1号となるナチュラルチーズの製造を当センターで開始しました。また、翌年からは、ナチュラルチーズの製造に関わる国内の人材を育成するための、研修事業も始めました。その後、1985年(昭和60年)に観光農園を開設し、酪農経営、チーズを中心とした乳製品などの加工製造、これら製品の直売店や飲食スペースでの販売・提供により、6次産業化を実践しているのが当センターの特徴です。

(※1) 生乳に乳酸菌や酵素を加えて固めた後に水分を取り出し、発酵・熟成させたチーズ。
(※2) ナチュラルチーズを原料に乳化剤を加え加熱しながら作ったチーズ。
 

貴センターにおける乳用牛の飼養頭数やチーズの製造量を教えてください。

えがみ
  乳用牛飼養頭数は100頭です。そのうち、現在搾乳(さくにゅう)できる牛が85頭、乾乳(かんにゅう)牛(※3)が15頭です。製造工場での年間の生乳処理量は6000tですが、センターで飼養している牛から生産される乳量は1000tに満たない程度です。このため、センターで生産された生乳についても指定生乳生産者団体(※4)に出荷し、近隣の仙南(せんなん)地区、蔵王地区の酪農家が生産した生乳を合わせた必要量を指定生乳生産者団体を通じて購入しています。
製造工場での生乳処理量6000tのうち、チーズ向けには約3000t、あとは牛乳向けです。生乳3000tから作られるチーズは、約300t程度です。
 このほかに、肉用の肥育牛や繁殖牛も飼養しています。
 
(※3) 体を休ませるため、搾乳を停止している牛。
(※4) 酪農家からの委託を受けて、生乳の集荷及び販売を行う生産者団体のこと。
 

フルーツ風味のクリーミースプレッドなど、特色ある商品を製造するきっかけは。

 東北新幹線の白石蔵王駅を降りると蔵王町役場通りという街道があるのですが、別名フルーツロードと言いまして、この辺りはラ・フランス、もも、リンゴなど宮城県の中でもフルーツの生産が盛んです。その地元産のフルーツを、フレーバーとしてクリームチーズの商品に使用することを考えました。ただし、工場の製造能力には限度があるため、大手コンビニチェーンのような量販店で全国的には供給できません。蔵王のクリームチーズを使用した洋菓子を季節的にコンビニ販売してはいますが、これも東北限定です。供給量の制約からは、例えば関東圏まで販売市場を拡大することは現状では困難ですが、販路を広げていくためには、菓子メーカー・菓子店などの業務用の需要を確保していくことが重要だと思っています。
 また、チーズの製造を行う中で生じるホエイ(※5)を有効利用することも、コスト低減に繋げるためにも必要です。牧草とホエイを混ぜて発酵させ、牛に飼料として給餌させることもしていますが、ホエイにクリームチーズや生クリームを添加した乳飲料を商品化しています。飲料以外では、化粧品も開発しました。

(※5) チーズを作る過程で副産物として得られる液体(乳清)のこと。良質なホエイたんぱく質などを含む。
 
子豚

チーズの製造技術研修の受講者層は、どのような方々が多いのでしょうか。

 当初は自らチーズを作ってみたいと考える酪農家の方々が中心だったと聞きますが、今は中小の乳業メーカーの社員や市町村職員の方も多数来られます。市町村職員の方々は、地域の活性化のために地元でのチーズ製造の振興や誘致を目指して参加されるようです。
 これまでの研修修了生が延べ人数で1850人程になりました。国内にはチーズ工房が約300カ所あり、そのうち酪農とチーズ製造の両方を経営している所とチーズ製造のみを行っている所とが概ね半分ずつと聞いております。受講したからといってチーズ作りが全て順調にいくわけではありませんが、多くの修了生が活躍することを期待しております。
 また、日本獣医生命科学大学のキャンパスを借りて国産ナチュラルチーズのシンポジウムも開催しております。特徴あるチーズ工房を運営している人たちを講師として招き、自らの体験談を話してもらうのですが、とても参考になるということで毎回好評を得ています。
 

国産のナチュラルチーズの普及を図る上で、今後、重要なことは何でしょうか。

 TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)や日EU・EPA(経済連携協定)の発効に伴い、外国産チーズの輸入は進行すると思われます。将来、輸入品との競争が激しくなれば、国内の大手乳業メーカーはプロセスチーズや、ナチュラルチーズの中でもカマンベールチーズのような競争力があり、大量生産がしやすいものを提供する方向に徐々にシフトして行くのではないかと考えています。そうした中で、中小の乳業メーカーやチーズ工房は、輸入チーズと品質面で競争するため、国産乳を使用した風味のある美味しいクリームチーズやチェダーチーズなどのナチュラルチーズを中心に製造を続ける構図になるのではないかと思います。我々も輸入チーズとの差別化を図るため、国産チーズの優位な面を見極め、価格が高くても消費者に購入してもらえる商品の開発を模索しているところです。
 いま検討・研究しているのは、和食や和菓子とチーズのコラボレーションです。同じ国産の生乳でも蔵王地区と北海道とを比べると風味が違うわけですから、その生乳から作られたチーズの商品にも多様性があって当然だと思います。そのような個性ある商品を開発して供給していくことが、将来に向けて描いている構図ですね。
 
鶏

今後の貴センターの目指す方向性、課題について教えてください。

 当たり前のことですが、国内の酪農の生産基盤がしっかりしていないと国産チーズは作れません。酪農の現状からすれば、乳用牛の育成をアウトソーシングできる預託施設のようなものを作らないと地域の酪農経営を維持できないと痛切に思います。
 当センターでは牛の預託業務も行っており、現在、140頭程度を県内の酪農家から預かっています。もっと受け入れて欲しいという要望もありますが、更に預託頭数を増やすには、課題があります。これらの課題をクリアし、酪農の先進的な実証農場というだけではなく、地域の酪農家を支える存在となることが大切です。
 課題の一つが、牛に給餌する飼料です。輸入牧草などを使用すると自らの農場で生産した牧草よりコストが高くなり、それを搾乳が可能となる前の育成段階の牛に与えていたらとてもコストに見合わない。したがって、牧草地を拡大し自らの農場で生産した粗飼料により牛を飼養する必要が出てきます。また、預託の頭数を増やせば、糞尿処理の問題も出てきますので、その対応も必要となります。このような諸課題に我々が真摯に向き合うことで、酪農が永続できるための道が拓かれるものと感じています。
 

一般財団法人蔵王酪農センター 理事長 冨士 重夫(ふじしげお) 氏

養豚場
昭和52年  中央大学法学部卒業
同年       全国農業協同組合中央会入会。 農業基本対策部長、農政部長等を経て
平成18年 全国農業協同組合中央会 常務理事就任
平成21年  同会 専務理事就任
平成29年 一般財団法人蔵王酪農センター理事長就任
 
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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