【alicセミナー】「中国のあんこをめぐる動向」「タイにおける砂糖産業の動向」
最終更新日:2020年1月8日
alicの調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しています。令和元年10月30日(水)に開催したalicセミナーにおいてわが国のあんこ(以下「あん」といいます。)の最大の輸入相手国である中国について調査情報部の坂上大樹(さかがみだいき)から、世界第2位の砂糖輸出国であるタイについて同部の塩原百合子(しおばらゆりこ)から調査結果を報告しましたので、その概要を紹介します。
輸入あんの98%を占めるも今後の対日輸出に懸念
日本の食文化に欠かすことのできないあんですが、国内に出回る量の約5分の1を輸入あんが占めると推測されます。うち98%が中国産であり、さらにあんの原料である小豆も中国から多くを輸入しているため、あんの国内需要は中国の小豆・あんの生産動向を抜きにして考えることができない状況にあります。
中国での日本向けのあん製造は1987年ごろから開始され、現在、大連(だいれん)港や天津(てんしん)港などの国際貿易港近くの都市で10以上の製あん工場が操業しています(図1)。いずれの製あん工場も、日本企業の指導や助言の下、独自の安全基準を構築し、徹底した衛生管理で日本のあんと同等以上の品質を保っています。一方で、こうした食の安全と消費者の信頼確保に向けた対応・対策に要するコストが年々増加しているため、価格優位性は一時期に比べて失われつつあるとみられます。
わが国では、2017年9月から国内で作られたすべての加工食品について重量が一番多い原材料の原産地を表示することが義務化され、2022年4月からはその本格実施を控えています。さらに、高齢化と人口減少に向かう中で、あん消費そのものの縮小も見込まれ、日本向けの輸出は長期的に先細る公算が大きい状況にあります。このような将来を見据えて中国の製あん業者は「脱・日本依存」を図り、中国国内や日本以外の国に販路を求める動きを進める可能性があります。
ASEAN諸国への輸出に意欲的なタイ
タイは世界第4位の砂糖生産国であるとともに、輸出量は世界第2位で、日本の砂糖輸入先国としても豪州に次ぐ位置を占めています。
タイのさとうきびの生産を見ると、約5割が小規模農家で、収穫機はあまり普及しておらず、収穫の効率を高めるために焼き畑を行う農家が多くあります(写真2)。
しかし、大気汚染が社会問題化し、焼き畑もその一因との声もあることから、政府は製糖工場に対し原料処理量に占める焼き畑で収穫されたさとうきびの割合を、2021/22年度までには5%以下に抑えるよう求めています。ほ場の大規模化や機械購入のための低利融資など、収穫機を導入できる環境整備が図られる予定で、今後焼き畑からの脱却がどの程度進むかが注目されています。
タイ国内の消費に目を向けると2017年から糖類を含む飲料に課税する「砂糖税」が導入され、2019年10月には税率が引き上げられました。今後も増税が予定されており、飲料に仕向けられる砂糖の量は減少するとみられています。業務用砂糖の主な用途は飲料向けであるタイにおいて、この影響は大きく、国内消費量減少への対策として、さとうきびをバイオプラスチックなど砂糖以外の製品に利用するなど、その用途拡大に取り組んでいます。
また、輸出にも注力すると見込まれますが、近年は輸出先に変化があり、日本への輸出量が減少する一方、インドネシア向けが増加しています(図2)。その背景には、2015年に日豪経済連携協定が発効したことにより、日本では豪州産砂糖がタイ産より有利となったためです。日本向けに輸出する砂糖の製造には他国向けよりコストがかかることもあり、今後は近隣の経済成長が著しいASEAN諸国や韓国、中東への輸出のシフトが進む可能性があるとみられています。
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