【レポート】自然災害に見舞われた豪州における生乳生産
最終更新日:2020年3月4日
干ばつにより生乳生産量が減少
比較的乾いた気候帯が多く、広大な土地を持つ豪州では、地域的には常に干ばつが発生していますが、2018年1月から続く(2020年1月末時点)干ばつは、東部のニューサウスウェールズ(NSW)州やクイーンズランド(QLD)州、ビクトリア(VIC)州を中心に広範囲にわたり、20年に一度の深刻なものであると言われています(図1)。
特に穀物生産や酪農の盛んな地域での干ばつがひどく、牧草や飼料作物の生育に大きな影響を及ぼしました。そのため、農家は飼料の不足から多くの乳用牛を養うことが難しくなり、まだ搾乳(さくにゅう)ができる乳用牛を淘汰(とうた)したり、高価になった濃厚飼料(穀物などの繊維や水の含量が少なく、栄養分に富む飼料)のコストを抑えるため、その給与量を減らしたりしました。
これらのことから、2018/19年度(7月〜翌6月)の豪州全体での生乳生産量は880万キロリットル(前年度比9・6%減)と減少し、23年ぶりに900万キロリットルを下回りました(図2)。
未曽有(みぞう)の森林火災が追い打ち
さらに2019年末から続く森林火災は年が明けても収束の目途が立っておらず、焼失面積は10万haを上回ると言われています。このことは、夏場にしばしば山火事が発生する豪州でも未曽有の事態として報じられています。
今回の森林火災は主要な酪農地帯であるNSW州南部のサウスコーストやVIC州東部のギプスランドにも及んでいます。これらの地域の酪農家には、人や家畜への被害のほか、施設や飼料が焼失するといった被害が発生しているようです。また、森林火災により道路が寸断され、タンクローリーが通れないため生乳が収集できない地域や、停電により搾乳が困難となっている地域もあり、こういった場所ではせっかく搾った生乳を廃棄する状況となっています。
このような干ばつに加えての森林火災事の影響で、2019/20年度の生乳生産量はさらに減少するだろうとの見方が強まっています。
乳製品の需給
豪州の人口は100年以上にわたって増加しており、2018年は約2500万人で10年前の1・2倍になっています。さらに2050年には約3700万人に達すると予測されています(図3)。このような人口の増加に伴い、乳製品の消費は今後も増加するとみられています。
この消費増を支えるため、乳製品の輸入は近年、増加傾向で推移しています(図4)。干ばつや森林火災の影響で減少した国内の生乳生産量が回復しない限りは、輸入量は増えていくものと予測される一方、国内消費の増加は輸出量が減少する要因となります。
乳業メーカーとしては、国内の乳製品の小売価格がスーパーマーケットチェーンの営業戦略により安く抑えられているため、国内消費用には輸入を行い、輸出には国内産生乳から生産したものを付加価値を付けて仕向けたいとの声もあります。
こうした中で、豪州の酪農乳業界では、生産された生乳を効率よく活用し、乳製品の生産を最適化していくことが求められています。
豪州は日本にとってチーズや脱脂粉乳など主要な乳製品の輸入先国であり、生乳生産の動向は日本の乳製品需給に少なからず影響を与えていることから、今後ともその動向を注視していくことが必要と考えられます。
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